チキンウィング
碌星らせん
読み切り版
どこの誰だったか。「宇宙に出れば、人は戦争を止める」なんて言ったのは。でも、大昔の誰かが言っていたことでも、少なくともその言葉は正しかった。ただ、正確ではなかっただけだ。
もしもボクが一言付け足すのなら。「戦争をする余裕なんて無いからだ」、と書き加える。
そう、戦争は贅沢品だ。大いなる人的資源と物資の浪費。そんな余裕は、月より外側では、とんとお目にかからない。水一滴。チップ一枚。人一人。それだけ造るのに、運ぶのに、生かすのに。どれだけリソースを注ぎ込む必要があるのか。ボク達はいつも、考えながら生きている。
もしかしたらこの世界のどこかには、シャワーの時間を計らないでもいい世界があるのかもしれない。毎日、好きな食べ物を……例えば、贅沢に
この世界に住む人類はもう、戦争なんて出来なくなった。
それでも、戦いは続いている。
『コールサイン、アームドウィング01、搭乗確認』
目の前のディスプレイが一瞬暗転し、バイオメトリクスを暗闇の奥のセンサが読み取る。
人工筋が不規則に振動し、
『これ』が今回の雇い主だ。外惑星国家がこんな場所で何をしているのか、興味も詮索もしない。ボクはただの雇われだ。
出処偽装のために継ぎ接ぎの機体でも、こんなところは隠す気が無いらしい。まぁ、万が一拿捕されそうになったらメモリを消去するから関係ないのだけれど。
機体チェックは全自動。武装や一通りの点検は乗る前に済ませてあるから、仕上げは機械任せだ。腕の20mmも、推進剤も、機動補助装置も全部オーケー。
「作戦資料、出して」
その間に、機載アシスタントに命令する。鬱陶しい紋章が消え、ブリーフィング用の資料の山が並べられる。要素に分割された情報が、チカチカと目まぐるしく移り変わりながら表示される。ボクはそれを視線を動かさずに読んでいく。
『ミッションプラン確認。当機による火星軌道からの単独降下後、敵部隊と交戦。全機を行動不能にし、搭乗員を捕虜としてください』
「確認。想定戦力は?」
目に映ったばかりの情報を、敢えて言葉にして問いかける。
『作戦行動中のAMS(装甲機動服)が5機。軌道上・航空機による支援無し。全て新型のため、詳細情報はありません』
これだ。
何度聞いてもワクワクする。
エイムズ、AMS(装甲機動服)。全高3メートル程度の、最小単位の低重量有人兵器。兵器カテゴリとしては、地球ではパワードスーツの延長上、ということになっているらしい。
らしい、というのは。多分、この新しい兵器の正体を誰もが掴みかねているからだ。ボクらにとっては、宇宙服に毛が生えたもの、と言った方が近い気がする。
『制圧確認後に着陸機(ランダー)が投下されます。それを用いて帰還してください』
「ランダーの種類は?」
『ウラノス参式を投下予定です』
「げっ」
着陸機(ランダー)は軌道上まで往復して物を運ぶ『だけ』の乗り物なので、乗り心地も何もかもが度外視されている。ついているのは、推進機と着陸脚。あとは、荷物を固定するためのフックだけで、与圧区画すらない。勿論、昇るときもAMSは脱げない。
付け加えるなら、ウラノス参式は極めつけに乗り心地が悪い。舌を噛まないよう注意する必要がある。
その後も、いくつかの確認。一通りの作戦確認。確認漬けの後に、脳内での仕上げのイメージトレーニング。
敵は5機。地球のAMS。どんな機体なんだろう。どんな奴が乗っているんだろう。どんな戦いをするんだろう。
『時間だ、アームドウィング01』
瞑想が遮られる。機載アシスタントとは違う、いかつい男の声。EC(エウロピアン・コモンウェルス)の士官だ。
「はいはーい」
『作戦意図を確認する。我々の目的は地球製AMSの情報収集と、火星における地球軍活動の抑制だ。繰り返すが、我々は戦争を望まない』
「わかってまーす」
そう、これは戦争じゃない。強いて言うなら、嫌がらせ(ハラスメント)だ。
『わかっているのか?』
「わかってるよ、戦争が出来ないってことくらい」
士官をからかうのも飽きたので、ボクは口を挟んだ。案の定、男は黙った。
そう、戦争は『出来ない』。
地球は、外惑星を捨てれば干上がって死ぬ。外惑星は地球に捨てられれば干上がって死ぬ。
お互いの緩衝地帯にある火星で、地球軍の活動を抑えて。
それで、何が変わるんだ。
『他になにか言うことはあるか?』
「新しいインナーがモゾモゾする」
『作戦が終了後に申請を許可する』
「期待はしてない」
ECは根本的に物資不足だ。特にAMSのインナーみたいなハイテク繊維は、地球製の機械を使わないと作れなかった筈だ。
『アームドウイング01、出撃を許可する』
「オーライ」
カーゴベイが開く。眼下に赤い大地が広がる。ボクの現在地は、火星の真上。
正確には、テラフォーミングが進んでこっち、赤と青と白が絶妙に混ざった気持ち悪い色になっている。惑星はやっぱり、茶色にしましまじゃないといけない。
そんなことを考えながら。AMSの関節ロックを解除し、『床』を蹴る。機体のスラスタを吹かすまでもなく、ゆっくりと船が離れていく。
「……ボロい船」
偽装のためとはいえ、あそこまでボロくなくてもいいだろうに。安全距離をとってから視線誘導でスラスタを少しだけ吹かし、機体の向きを変える。
ボクはこれから、あの星へ飛び込む。
火星には薄い大気があるから、機体はゆっくりと加熱する。透明なフィルムのような翼が展開され、大気がねっとりと速度を奪っていく。
逆噴射は着陸寸前までしない。減速が足りなければ地面に真っ逆さまだが、そんなことを気にする奴はいない。エレベーターが落ちる心配をするやつが居ないようにだ。
高度が下がり、濃くなった大気が機体をガタガタと振動させる。翼を切り離し、逆噴射。赤い地面まで、あと数十m。
突如として、アラートが鳴り響く。画面端に、赤い警告が表示される。赤い地面で赤い警告は見づらい。
狙われている。レーダー照射を受けている。照射源確認。目標の機体。
距離は十分取った筈なのに。気付かれた。先手を取られた。
『レーダー照射を受けています。回避運動をしてください』
「無理!」
機械音声は、あの士官の声より温かみがある。でも、「深刻なこと」を「深刻そうに」言ってくれる、という点だけはあっちの方が優れていた。
こんな感じで機載アシスタントがしてくる無茶振りに閉口したことは、一度や二度じゃない。
着地が近いせいで、姿勢制御が上手くいかない。日差しが強くて、目がちかちかする。宇宙と違って、大気のある星の上だと太陽はいろいろなところから照ってくる。噴射が砂を巻き上げたせいで埃っぽい。
これだから、惑星の上は嫌なんだ。
『接地確認。アシスト自動調整。座標軸リセットします』
攻撃を避けるために、砂塵を巻き上げながらの派手な着地。足が地面に触れた瞬間、機体は勝手に重力下用にセッティングを書き換える。おかげで、身動きの取りづらさが少しマシになった。
『警告する。そこの所属不明機、当エリアは我々の演習区域だ。直ちに立ち去って欲しい』
そして、その代わりに、数百m先のAMSからオープンチャンネルで通信が飛んでくる。奇襲は完全に失敗。相手の探知能力を見積もり損ねたせいだ。
多分、向こうはその気があれば降下までの間に撃ち落とせたと思う。それをしなかったのは、こっちが敵か味方かわからなかったからだろう。
「余裕がムカつく……」
腕の動きを確認する。光学観測で、相手の機体をズーム。ズーム。
間違いなく、装甲機動服(AMS)。それも、地球の。
ブリーフィングの資料に、名前だけあった。
「……第三世代試作型、『ファブニール』」
人類統合政府が作った、最新モデルの棺桶だ。あの探知距離。見るからに大型。持っているのは、レールガンだろうか。スペックは、こっちを遥かに上回っていると思う。大型で、力が強い。
だが、それが逆に、どうも地球人(テラリアン)がこの装備の勘所を分かっていないことを表している。やつらは、AMSをただのパワードスーツの延長だと思っている。
違う。これは、宇宙船だ。たった一人で乗る宇宙船なのだ。
これは、ボク達の翼だ。
『警告なき場合、攻撃を……』
無視し続けた警告通信が、痺れを切らす。
それを合図に、地面を蹴り、ブーストした。
敵は咄嗟の行動にもたつく。そのあいだに武器を構えて、ゆっくり狙う。安全装置は、着地の時に無理矢理外しておいた。
フルオートで放った20mmの実弾が、一番近い機体の頭に直撃した。『頭』は致命傷にはならない。何故ならAMSの頭はただの複合センサの塊りで、それはボクらのホンモノの頭の『真上』に乗っかっているからだ。
別に相手が可哀想になったわけじゃない。今回は、殺せば厄介事になるのは目に見えている。雇い主の意向を汲んだ結果だ。
まぁそれでも、頭が無くなればよほどの熟練でない限りは戦えなくなる。残念ながら、あの『ファブニール』に乗っている人間は、経験が浅いようだった。
残り4。
射撃の反動で、着陸地点がずれる。計算通り。だが、残りの機体が構える。警告音。
『攻撃を受けています』
アシスタントの声。わかっている。肩に1回、軽い衝撃が走った。腕がいいのが居る。跳んでる相手に当てるなんて。
向こうは後退している。でも、『スキップで後ろに下がっている』だけだ。多分、機体のブースターを『障害物を越える装置』としか思っていない。それを通常機動に使おうとは、思っていない。
とはいえ、距離が詰まると射線を避けるのが難しい。多少、無茶をする必要がある。
ステップ。キャンセル。
左右のスラスタを前後反転させ、機体を『回す』。Gメーターが振り切れる。アシスタントが強制的に電気刺激を流し込み、ボクの意識を引き戻す。
銃の反動を利用して機動を殺しながら、撃ち続ける。1機仕留めた。
火薬火器を使っているのは、マニューバのためだ。運動量を稼げるものは、何でも使う。宇宙に生きる人間の常識だ。
残り3。
……そこで、2機が下がり始めた。正確には、3機の中の1機が、後退を止めた。まるで、残りの2機を庇うように。
ボクは気付いていた。あの機体だけ、動きが違う。多分、肩に当てたのもあいつだ。
「……誘ってるのか!」
鈍いフリをしていたのか。それとも、味方に合わせていたのか。
残ったのは、真っ黒い『ファブニール』。銃を放り投げ、身長ほどもある両刃の大剣を持っている。
馬鹿だと思った。
コイツは、AMSで接近戦をする気で、おまけにバカでかい質量武器を振り回す気なのだ。そんなことをすれば、モーメントで自分が独楽みたいに回る羽目になる。銃の反動を機動に組み込むのとは、訳が違う。
とはいえ、接近戦に『乗る』のも馬鹿だ。ステップを混ぜながら一度距離を取る。20mmをばら撒く。だが、あいつは銃弾を剣で防いだ。
といっても、剣を盾にしただけだ。もしかすると、剣ではなく本当はエッジの付いたシールドだったのかもしれない。
どちらでも変わらない。でも、火力が足りない。降下用の空力翼に重さを取られたせいだ。20mmで貫くには、距離を詰めるしか無い。
大きな円を描きながら距離を詰める。盾の隙間を狙う。向こうの旋回速度が早く、うまくいかない。
黒い機体が、姿勢を落とす。守りに入る気なのだろうか。
螺旋を描きながら、距離を詰める。弾数が残り少ない。
ところでボクは、さっきからずっとデコボコだらけの火星の地面でとんだり跳ねたりしていた。多分、普通の乗り手なら、どこかで足を取られている。
だから、ボクが深めの段差に嵌って、一瞬姿勢を崩したのも。仕方のないことだった。
だが、その瞬間。何かが、起こった。
今まで遠くにあった筈の相手の機体が、『大きくなった』。
反射的に、後ろに跳んだ。20mmを乱射した。
『タネ』は直後にわかった。姿勢を崩した隙に、相手が距離を詰めたのだ。それも、一瞬で。ボクの機体があったところを、剣が通り抜けた。背筋が凍った。
明らかに、機体性能だけじゃなく、何かが違う。
その答えは、多分『反応速度』だ。AMSのパワーアシスト以前に、近接戦闘に慣れすぎている。
あんな大振りの剣は、死んでも当たらないと思っていた。今はそれが『当たるかもしれない』になった。後ろに跳んで避けるだけで精一杯だった。
剣の重さは、見ただけではよくわからない。でも、あれが見た目通りの威力なら。AMSのデブリダンパーを容易く貫通し、機体を両断するということだ。ただでさえ、この機体はダンパーを削いで軽量化しているというのに。
問題は、あんな武器を振るう相手が、何と戦う気なのかだ。
答えは、たぶん単純だ。地球軍……『人類統合軍』は、対AMS戦を想定している。それも、『自分達と同じような機体』を、火星だか木星だかも作ってくると考えている。
『ファブニール』は、そのための機体なのだろう。それなら、あの大仰な出力も、馬鹿げた武装も説明がつく。
こちらが退いたところで、通信が入った。
『良い腕だ。火星の蛸にしてはよくやる。スカウトしたいくらいだ』
聞こえてくるのは、男の声。戦闘の真っ最中とは思えないくらい落ち着いている。ボクの方は、息があがりかけているというのに。
ちなみに、蛸(オクトパス)は、火星のレジスタンスの総称だ。ボクは火星人じゃない、と言い返してやりたいが、所属を明らかにするわけにはいかない。
『だが、教え子の仇は、取らせて貰おう』
そしてボクは、戦っていた相手のことを理解した。
やけに錬度にバラツキがあったのは、練成途中だからだ。さっきのは『生徒』で。コイツは『教官』だ。
ボクは殻の付いたヒヨコを倒して、いい気になっていたわけだ。
やってみろ。
そう心の中で呟く。さっきの通信の合間で、呼吸も戻った。この機体だけは倒さなければ、多分ボクも逃げられない。
20mmは、あと数発で弾切れだ。だが、まだ捨てない。『弾が残っている振りをする』。接射に持ち込もうとするフリだ。こうなったら、近接戦に乗ってやる。
そのまま、跳躍。推進剤も余裕を持って積んでいたとはいえ、もうカラカラだ。
間合いの『手前』で、20mmの残りを撃った。狙いは剣の持ち手。姿勢を崩せれば御の字。
撃った瞬間、相手の腕が『爆発』した。違う。ボクの機体が積んでるのは、全て対装甲弾の筈だ。爆発するなんて。
……一瞬、相手の腕が広がっているのが見えた。展開式の装甲だ。緊急時に開く、展開式の『盾』かなにか。こんな、馬鹿げたものまで搭載しているなんて。
『この『ファブニール』は、特別だ』
しつこい通信に合わせるように、そのまま、20mmを投げ捨てる。相手にはまだ喋る余裕がある。
剣が来る。逸らせれば、ボクの勝ち。それが出来なければ、ボクは紙くずのように潰される。
しかし、そうはならない。仕込みは、既に済ませてある。
ボクの機体の腕から伸びたワイヤーが、相手の腕に絡みつく。これは、武器でも何でもない、ただの機動補助装置。わかりやすく言うなら、宇宙で使う、『命綱』だ。
効果は、絶大だった。
剣が逸れる。姿勢が崩れ、浮かせた足が一瞬宙を彷徨う。大剣は封じた。こちらも武器を喪った。五分か、こちらが有利。いや……
『詰みだ』
やつは、剣を振る支えにする筈の踏み足を、そのまま『振り抜く』。勿論、ボクには届かず宙を切る。だが、その瞬間。
足が『伸びた』。いや……足の先から突き出ているのは、杭のような装備だ。
アンカー。ボクは馬鹿だ。大型の火器。大剣。あんな重量物を扱うのに、地面に機体を固定する装備が付いていない筈が無いじゃないか。
いや、それを今まで使う素振りすら見せなかった、敵の素の技量が凄まじいのか。
デブリダンパーが嫌な音を立てて割ける。空気が漏れ出る音がする。画面が割れる。その隙間から覗く、杭の先。
杭は、ボクの目と鼻の先で止まっていた。命拾いした、と考えることもできなくはないが。この杭が引き抜かれれば、外に広がるのは火星の極薄大気だ。
破孔の大きさからして、ボクはすぐに減圧で意識を失う。もし酸素をガンガンに放出しながら運良く孔を塞げたとしても。軌道上に戻るまで生きられるかどうか。
だからその一瞬、ボクは脱力した。それと同時に、頭の……『ボクの頭』の付近で衝撃が走った。
だが、まだ、ボクは生きていた。画面に外部の映像をつなぎ替える。敵は足の『杭』を切り離し、距離を取っていた。
どうして、と疑問に思う間もなく。再び通信が入った。
『……自爆するとばかり、思っていたが』
なるほど。
ボクの不審な動きを自爆の前触れと判断して、『杭』を切り離してまで距離を取ったのか。火星のテロリストは、そんな野蛮な戦術をとることがあると聞いたことがある。
「……ボクは、命を粗末にする趣味は無いんだ」
その一言で、『ボクの所属』について向こうに情報を渡してしまうのは分かりきっていたが。どうしても、言い返せずにはいられなかった。
『……女、だったのか。それも若い』
だが、どうも、向こうは別のところに驚いたらしい。
「何を当たり前のことを言ってるんだ?」
『いや……すまない』
殺気というか、戦う気力が削がれていくのがスーツ越しでもわかった。
ボクの方もどのみち、目の前に杭が突き刺さっている状態で、戦う気にはなれない。武器も粗方喪っているし、これ以上戦うなら、殴り合いでもする他ない。
「……戦う気は無さそうだね」
何か言いたい気もしたが、向こうが退いてくれるならそれに越したことはなかった。
『できれば、次は生身で遭いたいものだ』
「だったら、名乗っていったらどうなのさ」
『……ウィリアムズ大佐だ。所属は勘弁して貰おう』
そんな軽口に、男は意外にも律儀に名乗った。多分、彼にはその権限があるのだろう。使い走りのボクと違って。
『そのうち、酒でも酌み交わしたいものだ』
「お酒は飲まない」
『じゃあ、何か食べたいものはあるか?』
「……鶏肉……できれば、羽根のところが食べたい」
その律儀さに飲まれたのか、ボクも気付けばそんなことを口走ってた。
少なくとも、帰ったら好きなものを食べて、思いっきりシャワーを浴びたい。多分ムリなんだろうけど。
『……そんなものでいいのか?それとも、からかっているのか?』
そして、その一言で、わかった。
一欠片の鶏肉が、コイツにとってはただの日常なのだ。
だから、それ以上ボクには何も言えなかった。目の前の男は、ボクにとっての憧れの世界の住人だ。それが、ボクをみじめな気分にさせた。
もしも、その時間があと少しでも続いていれば。ボクは彼を、いや、ウィリアムズ大佐を刺し違えにしてでも倒していただろう。
だが、幸いにして彼はすぐに立ち去った。代わりに、着陸機の接近を警戒音が報せる。どうやら、『作戦は終わった』と判断されたらしい。敵と話していたことを知れれば後で詰問されない保障は無いが、幸いにして機体は半壊状態だ。
更にもうちょっと……そう、データログが壊れるくらいに壊すことは、大した手間じゃないだろう。
ランダーの乗り心地は、相変わらず最低だった。
ちなみにボクは、後で彼の名前を地球のネットで調べてみた。
地球との通信はアホみたいに高いけど、知ったことか。
どうやらそれなりの有名人らしく、顔写真付きのインタビュー記事が何本か出てきた。悔しいことに、イケメンだった。
イケメンだった。
でも、多分彼とボクとは、何もかもが違う。
彼にとっては、鶏肉はただの日常で。シャワーの時間制限も気にしなくて良くて。ボクの生まれ育った外惑星圏はただの辺境で、きっと骨を埋める気になんてなれないんだろう。
ただ、もしかしたら。『あの場所』でなら、また会えるかもしれない。ボクはそう思った。
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