プリンの空いた大きな壁

やたろとす

第1話白い壁に合う

私は私自身、プリンについて考える。この狭い壁の中で柔らかい存在の私はいかに物を進めるか。

コツン、コツンと靴の音がする。すると目の前に周りとは違う明度の高い純粋な白壁が現れた。「あなたそんな体していたここでいきていけないわよ」足に汚いすね毛を見せつけつつ不思議な女言葉で私を心配する。

「ではどうすればいいのですか?」私はあなたのように固くない。柔軟で変形に耐えうる体ともいえるがそれが発揮されるにはある程度の刺激が必要、今の状況では単純に軽いほうが強い。

「そうね、貴方にはまず砂とセメントが足りないわね。一回モルタル作りから始めたらどうかしら」そう言うやいなや背中から胸に抱えるほどのバケツを取り出しそこに何やら放り込み私に渡してくる。

「はい、これでモルタルの完成よ。ついでに砂利もサービスで入れといてあげたから固まる前に使ってね」バケツを私の足元に置いた彼は来た時同様コツン、コツンと靴を鳴らしてモデル歩きで去っていった。

私はポカンと口を開けたままその体と心の性別が分かれた壁を見送った。仕方なしに私はバケツを抱えつつ中身が自分に被らないように注意して進んだ。

一つ部屋を抜けると目の前には天井の高い広々とした空間に出た。そこでは4ピースの大きめのチーズや12種類の小さなチーズたちが一堂に集まってなにやら言い合いをしていた。私は言い合いの輪の外側にいるモッツアレラに話しかけた

「一体これはなんの騒ぎ?」するとモッツアレラは呆れた様子で首を振り「いつもの喧嘩だよ。でも今回は壁に穴をあけたとかでね。うちは月1の業者の子が来ないと壁が直せないからね、収まりがつかないんだよ」

せっかくだし持て余しているモノを使ってしまおう。私は争いを止めるべく事の中央へと足を運んだ。「てめプロセス、アンタが俺らみたく溶けるチーズなら熱くなってた壁に穴なんかあけなかったんだ!」怒鳴り声で指を指す。

それに対してプロセスも黙ってはいられない「ああ?アンタみたいに熱で頭も溶けちまう軟弱な野郎と違ってこちとら体は頑丈にできてるんだ。アンタこそ溶けちまえるんならこの壁の代わりに穴にでも埋まってな」

こちらも負けじと声を荒げる。

「あの、壁を直す材料を持ってきたので喧嘩はやめて壁を直しませんか?」

二人の声があまりに大きく恐る恐る声を出すと

「「部外者は黙ってな!!」」

話も聞かずに全否定された…。これは案外手ごわいかもしれない。

私は渾身の力で声を張り上げもう一度訴えた。「あの!壁の材料を持って来たので、一緒に直しませんか!」

大声を出した勢いで頭のキャラメルソースが二人に飛び散る

「あ、あめぇなんだこれは」「確かにあめぇ嬢ちゃんなんだよこれ」

二人は言い争いをやめ私に詰め寄ってきた。「な、なんですか私のキャラメールソースそんなに珍しいです…か?」プロセスチーズは興奮した様子で話し出す「ああ、こらあ珍しいも珍しいね!危うく熟成期間が逆戻りするぐらいだったさ」

再度詰め寄られもう距離は顔が接触しそうなくらい近い。

「わかりました、わかりましたからとにかくこれで壁をなおしましょう」

プロセスチーズとの間にバケツを押し出して距離をとる。

「これはコンクリートじゃないか!少しでもとろけたものはプロセスには扱わせんな。我らとろけるチーズの出番だ」私からバケツをひったくり早速壁に塗りたくっていく

しかし、どうもうまくいかないようで「うーん、これコンクリートが穴を抜けていってしまうな」とろけるチーズは穴を眺めて呆然と立ち尽くす。「おいおい嬢ちゃんこれの扱い方とか知らないのかよ」

つづく


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