Outsider

柾 直斗

序章

2XXX、地球。かつてない地殻変動と核戦争により、この星は大きく様変わりしていた。科学の発展と人類の努力によってようやく復興が完了し、彼らがまた新たな発展を遂げようとする中、地球は新たな危機に直面した。

 異変は突然、あらゆる地域で突発的に起こった。皆原因不明の全身の激痛を訴え、その痛みは一週間ほど続いた。痛みに耐えかね、自ら命を絶つ者もいたほどだ。学者たちはこの激痛を引き起こすウィルスを発見したのだが、ワクチン開発や、治療には至らなかった。なぜならそのウィルスは地球外からやってきた未知のウィルスと判明し、しかも現在の科学では到底対処不可能と結論付けられたのだ。学者たちはこのウィルスを地球外ウィルス、『Outsideアウトサイド』と名付けた。

 さて、地獄の責め苦に一週間耐え抜いた者達がどうなったかと言うと、彼らにある変化が起こっていた。ある者は車よりも速く走れるようになり、またある者は狼男の様な風貌と、爪や牙を手に入れていた。それらは皆、Outsideが引き起こした“特殊能力”という見解がなされた。人々はその特異な“能力”を初めこそ面白がって取り沙汰したが、その“能力”の制御ができなくなった人間が現れ、自分達に害を為す者達だと気付き始めると、途端に手の平を返したように忌み嫌い始めた。

 Outsideは最初期の症状こそ似ているが、潜伏期間や発症のタイミング、“能力”のバリエーションなど全てに個体差があり、1/23000と確率こそ低いものの、いつ誰がOutsideに感染するかなどはわからなかった。更に状況は悪化し、Outside感染者に多く見られた、あの全身の激痛がだんだんとなくなってきたのだ。まるで、Outsideが地球に馴染んで来たかの様に。

 こうなると人々はOutsideに怯えるしか他ならなかった。人々はその恐怖をストレスに、ストレスを憎悪に変え、半ば八つ当たりも同然にOutsideの感染者を迫害し、差別した。“能力”を持った者はもちろん、全身が痛いというだけで、Outsideに感染していない患者さえも病院から追い出される始末だった。人々の輪から外された者達を、Outsideに感染し、望まない“能力”を持った者達を、人々はいつしか『Outsiderアウトサイダー』と呼び始めた。Outsiderと判れば友であろうと拒絶し、実の息子、娘であろうと親は子ども達を悪魔呼ばわりした。度重なる迫害に耐えかねたOutsider達はやがて決起し、同胞を集めて世界規模の暴動を起こした。この暴動は人類史始まって以来の大戦争に発展し、民間人とOutsider併せて5000万人を超える死者を出した。怪我人の数に至っては「無傷の者などいない」と後世に伝えられるほどであった。

 この暴動は後にV.O.S.S.ボス率いる、『蒼いやしろ』という民間の対Outsider対策団体によって鎮静化された。最初の暴動が始まってから、三年が経っていた。人々はこの大戦争を三年大戦と呼んだ。それからというもの、悪のOutsider対正義の蒼い社という構図が出来上がり、新しく出現したOutsiderは蒼い社によって確保され、世界の治安は蒼い社によって保たれるようになった。

 数年後、次第にOutsider達の動きが緩慢になり、蒼い社がただのOutsider研究施設になりかけていた頃、蒼い社を中心に未曾有の大事件が起こった。世に言う、Outsider大脱走事件である。主犯は、三年大戦でも最後まで生き残り、蒼い社に自ら投獄したというザティ=ノル・サイドワインダー。彼の指揮の下1500人、実に半数近くのOutsiderが蒼い社を飛び出したのである。


 群像劇は、ここから始まる。


 自由を求め、愛に彷徨う“太陽”

 強者を求め、愚直に戦う“雷”

 真実を求め、復讐を誓う“蛭”

 悦楽を求め、殺戮を謳う“蛇”

 混沌を求め、嘘を語らう“命”

 消息を求め、主命に従う“硝子”

 安寧を求め、運命に抗う“重力”


 そして未だ見ぬ者達……


 Outsider、蒼い社。

 光と影は一つになった時、彼らに何を見せるのだろうか。



 Outsider――それはこの物語の名前でもある。

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