ジャックがUFOに吸われた理由

ぽてゆき

ジャックがUFOに吸われた理由

 俺の名前はジャック。カンザス南西部で農場を経営している。

ああ、経営っつってもオヤジから受け継いだだけなんだけどな。

 オヤジはすげークールな男だったんだ。なんてったってこのだだっ広い農場を一代で手に入れたんだからな。しかもカンザスで1番の美女と名高いオフクロまで物にしちまうんだからたまんねえぜ。って、農場は親から受け継いだものだけど、美女なら俺も手に入れたんだぜ。愛しのワイフ、サマンサの事だ。

 あれはハイスクールに入りたての頃。アメフト部のエースだった俺は……


「モー」


 おいおいジョン。せっかくの良いところで鳴くなよジョン、ってそうだな嘘はだめだよな。ったく、牛のくせに人間の嘘を敏感に察知しやがってこいつめ。

 そう、俺はアメフト部で万年補欠。エースのディランの足下にも及ばなかったよ。

 でもアイツに唯一勝てた事がある。それがサマンサだ。

 チアリーダー部期待の新人。ミスハイスクールの最右翼。とにかく可愛かった。

 そう、あの頃は……


「モー」


 おいおいジョン。そうだよな。サマンサは今も十分素敵だよ。

 あの頃がゴルフボールだとしたら、完全にアメフトボールになっちまったけどな。

 まあしかし、16歳のサマンサはスペシャルな存在だったのさ。

 ビューティフル。キュート。クール。すべてを兼ね備えたスーパーガール。

 ハイスクール中の男達が一目惚れした。

 アメフト部の絶対的エース、ディランもまた、だ。

 自信家のディランはサマンサに猛烈アプローチ。

 そして、実力と爽やかなルックスを兼ね備えたディランは、悔しいかな誰が見てもサマンサとお似合いに思えた。

 しかし、結果は違った。何故かサマンサが選んだ相手は俺だったんだ。

 それからもうとにかくスペシャル。俺のハイスクールライフはバラ色。

 サマンサという素敵な彼女が居るってだけで終始浮かれっぱなしだった。

 忘れもしないサマンサの17歳の誕生日。パンケーキに目が無い彼女のために、スーパービッグなパンケーキを作ってあげたんだ。

 どれぐらい大きいかってーと、そうそう、ちょうどあのUFOぐらいの──って!!

 なんじゃありゃあ!!

 UFOだ。あれはもう完全にUFOだ。間違いねぇ。俺のハートが叫んでる。あれはもう完全にUFOだ、ってな!


「モー!!!モーモー!!!モー!!」


 ジョン!!ちょ、ちょ、ジョン!!

 くそっ!UFOの底から出た光がジョンを吸い上げてやがる!

 大切なジョン!大切なブラザー!返せ!!ブラザーを返せ!!

 気付くと、ジョンを吸い上げる光の目の前まで来ていた。

 その距離は1フィートも無い。

 くそ!どうしたらいいんだ!


「モー!モーモー!


 ふっ。そうだ。迷う意味なんて1ミリもないじゃねーか。

 大切なジョン。大切なブラザー。

 その鳴き声はアメフト部のデビット監督からの『ゴー!ゴーゴー!』に聞こえる。

 あの光を越えればタッチダウン。そうだ、後は意を決して飛び込むだけ──


 スウゥー。


 俺が飛び込むまでもなく、光はこっちにやってきて、そして優しく体を浮き上がらせた。 


 気付くと四方がガラスで囲われた場所に居た。金属製の床。ガラスの向こう側は暗くてよく見えない。

 でも確実に分かる。ここはUFOの中である事が。

 気になるのはジョン。牛のジョン。近くにその気配は無い。

 大丈夫。俺は自分の胸に言い聞かせる。アイツはラッキーガイだ。きっと、途中で解放されたんだ。その代わり、俺が吸われたに違いない。確信。俺の直感がジョンは無事地上にいると答えてくれる。確実に。それはもうアメリカが戦争で負けないぐらい確──


バッバッバッ。


 突然、ガラスの外側のライトが灯された。

 ジョン、そしてその傍らに宇宙人の姿が見えた。


 ……目の前に見える真実。いくら過酷であっても、その真実たる現実を受け入れることができるのが本当の男だ。オヤジの口癖。

 そうだよな、オヤジ。俺は男だ。すべてを受け入れてやるぜ。

 今そこに見える宇宙人。イカにも系の宇宙人の存在も!

 今まさにそのエサと成りはてようとしているジョンとの別れも! 


「モー!!!」


 ああ、ジョン!そうだよな!すまねえ。あきらめたらそこでエンドオブゲーム。


「おい!そこの宇宙人!聞いてるかおい!頼む、ジョンを解放してやってくれないか?」


 イカにもなグレー色の宇宙人に懇願する。でもアイツは無言。


「おい!聞こえてるんだろ?俺の事はいい。とにかくジョンを助けてくれ!」


 イカにもな大きな目をした宇宙人に懇願する。でもアイツは無言。


「おい!お願いだからジョンだけ助けてやってくれないか?その代わり、俺のことは好きにしてくれて結構だ。」


 まだアイツは無言。


「俺はもう十分幸せな人生を送って来られたんだ。最高にクールなオヤジと世界一優しいオフクロの間に生まれて、パーフェクトな妻サマンサと出会い、そして共に生きることができたんだ。コレと言った取り柄の無い俺には出来すぎた人生。ただ1つ。気がかりなのはサマンサのお腹に居るベイビー。最高にプリティなベイビーの顔を拝めな──」

「ト……イ……」


 その時、俺の言葉を遮るように宇宙人がカタコトの英語でボソッと言った。


「トイレ、ヲ、カシテ、クダ、サイ」


 そう言う宇宙人の顔は、どこか照れくさそうに見えた。

 なんだよ。そんなことなら早く言ってくれっての。ってか、それなら俺らを吸わずに自分が降りてくればいいのに回りくどいやり方しやがるぜ全く、なんて思いつつ、俺はこう答えた。


「オッケー、クレイジーエイリアン。トイレならいくらでも貸してやるよ。そんで、時間があるなら、美味しいパンケーキでも食っていかないか?」

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