始まってなく、終わってます。

@cocomeno

始まってなく、終わってます。

 こんなタイミングで、くだらない洒落を思いついて、言葉に出して言おうか迷って、でも、照れ臭くなったから顔をそっぽ向けて、ふって鼻を鳴らした。

 「どうしたの」

 それを見た君は僕の肩をつついて聞いてきた。

 ばれたと焦った。まさか、今日の夕ご飯どうするかなんて言えるわけないもんな。気をそらせないと、ばれたら馬鹿にされてしまう。

 「いや、寒くなったら風邪ひくと思ってさ」

 「え、本当にそれ?」

 「うん」

じっと見つめられるが、嘘をついてごまかす。

 「今嘘ついたでしょ。君が信じてほしい時には目を見つめてくるのに、今、別のとこ向いてる」

しまった、ばれてしまった。君にこちらを向くように指示され、ゆっくりと頭だけ向けた。何を言おうとしたのか追及され、仕方なく本当のことを伝えた。それを聞いた後の反応は予想としたものとは違っており、何回かうなずいた後で、君って意外と普通なんだね。もっと変な人かと思ってたと呟いた。その言葉は不本意だったため、言い訳をするしかなかった。

「いや、別に本当にどうしようか考えてたわけじゃなくて、ちょっと頭の中をよぎっただけなんだよ」

 「知ってる。なんていうか、家庭的な一面もあるんだと思っただけ。そんなに必死にならなくていいよ。案外こういう時って、そういうもんなんだろうなと」

そうじゃなくてもっと違うんだと、他にも言いたい事が湧いて出てくる。けれど、これ以上は意地を張っているような気がして、飲み込んだ。


気持ちが通じてないのは今まで通りだな。今までこういう風に過ごしてきた事を再確認したような気になった。また鼻をふっと鳴らす。それを聞いて君は「今度は明日の朝ご飯どうしようかって考えてたの?」と笑顔で軽口をいう。そんなところだよ。

陽も沈んできて、冷えてきた空気が熱を奪っていく。どちらからともなく、座っていたアスファルトから腰を上げた。ズボンの砂利を払い、踏んで癖のついた靴の踵を正しく履き直す。

「じゃあ、さよなら」

「そうだね、これでさよならだね。元気でね」

君に背を向けて歩き出す。別れの挨拶は淡白なものなんだな。

歩き出してすぐに君の足が遠ざかっていくのが聞こえる。僕とは違う方向に向かっていく足音を聞いて足を止めて振り返るけど、君は振り返らずまっすぐ歩いていく。それを見て、再び歩き始める。

どれくらい歩いて、どこへ行くのか分からないけれど、歩き疲れて倒れる前には何処かにたどり着いているような気がする。

君の後ろ姿を思い出して、もう二度と倒れることはないたくましさと、その震えていた肩を抱けない自分に、ふっと鼻を鳴らした。

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