引き出し

櫻庭 春彦

第1話

時々おもうのだ、僕は。

この世界は実は引き出しの中にあっておおきな人が外から見ているんじゃないのか、と。

ファンタジックで、ありえない話。

だからそんな事を考えている時点で僕はおかしいんだろう。

ほら、目の前に嘲笑わらっている眼がとんでいる、なんて本当は見えないだろう?


―――――――


二丁目のかどの物書きは、変人である。

と、よく言われている。

引き出しが~...とか、嘲笑わらう眼が~...とか。

確かに彼は変人だけれど、そんな世界があってもいいんじゃないかと思う。

ファンタジックで、ありえなくて、でもひきつける力があるのだ。

代わり映えのしない日常が平和だというけれど、本当は刺激があったほうがいいと思うに決まっている。

彼の物語のように。


――――――――


おそい。

これはいくらなんでもおそすぎる。

文芸界屈指の”変人先生”、速水チセ先生の担当になり、早1年。

わりと締め切りをまもるほうの先生がこんなに遅れるなんて...

「また変な瞑想とかしてるんじゃないよなぁ」

まだ先生の担当になりたての頃、原稿を取りに行ったら怪しい呪文を唱えながら変なポーズを取っていたことがあった。

時計の長針がちょうど4周したところで書斎のドアが開き、俺は無事家に帰った。





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