冬海の気持ち

 冬海は、すぐにこれは夢だと気づいた。小学五年生の記憶だ。


 なぜなら周りを小学生の女の子に囲まれて、文句を言われていたからだ。冬海は幼い時から美人に分類されていることを知っていた。この美しさのせいで、よく女子からは好きな人を取られた、男子からはちょっかいをかけられた。


 今日もその夢だ。よくも彼氏を盗ったな、土下座しろ、謝れと周りがはやしたてる。あの時、とても屈辱を感じていた。この女子のメンバーには、何度もこうやって土下座して、悪くもないのに謝りさせられた。


 でもすぐに助けがくる。これは悪夢ではない、むしろ素敵な記憶だからだ。


「お前たち、なにしてるんだよ」


 ほら、彼が来てくれた。


「星原はなにも悪いことしてないだろ。彼氏を盗った? その彼氏が最低なんだよ。星原じゃなくて、そいつに怒れよ」


 そうやって彼は、私に手を差し伸べる。


「来いよ、星原。これから何かあったら、おれに言えよ? おれがお前を守ってやる」


 この時、初めて見たのだ。自信に満ちた、優しい笑顔を。


 その後も彼は、私が誰かにいじめられているのを見ると、飛ぶようにやってきては、相手に注意したり、私のために喧嘩したりしてくれた。


 私はすぐに彼のことが大好きになった。私を守ってくれるヒーローの彼は、いつも強くて素敵なのだ。好きにならないわけがない。


 中学校に上がると、みんな手を返したように私と仲良くなりたがった。でも何だか気味が悪くて、図書室にこもるようになった。元々本が好きなのもあったが、この図書室からなら彼がグラウンドで遊ぶ時や帰る時も見ることができた。時々、図書室に来ることもあったが、その時は胸がときめいて大変だった。


 私は彼にふさわしくなるための努力も始めた。彼の家がぬいぐるみメーカーと知っていたから、裁縫や経営を学び、家事を覚えた。彼の姉の緑さんがアパートを経営していると知ってからは、高校はそこから通えるように両親に何度も頼み込んだ。これはギリギリまで許してもらえなかった。


 特に大変だったのは、彼が他の女の子にとられないようにすることだった。彼はとても良い人だから、みんなすぐに好きになってしまう。だから彼が告白されるシーンは何度も邪魔してやった。私は嫌な女だ。私の恋のために、たくさんの恋は破れていった。


 でも私は胸を張って言える。


 私は彼が、四ツ葉 一くんが大好きだ!




 目覚めると、カーテンの隙間から光がこぼれていた。朝の準備を始める。


 一くんが管理人になったことは、とても驚いた。同時にチャンスだと感じた。親友の春花とライバルになったことは悲しいが、彼女も一くんを好きになることは仕方ない。秋乃先輩と夏樹先生もライバルになりそうだが、邪魔をするつもりはない。


 私はこの恋愛大戦争を勝ち抜くつもりでいる。相手は関係ない。ポニーテールをリボンで結び、鏡を覗き込むと、今日も頑張ろうと自分に言う。


 さあ、管理人室で一くんが待っている。ドアを開けて進むと、キッチンに立っている彼がいた。


「おはよう、冬海。今日も早いな」


 笑顔で挨拶してくれる彼に、私も笑顔を返す。ああ、幸せだ。


「おはよう、一くん。今日も一日、頑張ろうね!」

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