第3話

さんちゃんは自宅とはまったく違う方向へ進んで行った。

雪美達はひたすらその後を追いつづけた。


「さんちゃん、まだ尾行されてることに気付かないのかな?」


雪美はぼそりとつぶやいた。


「どんだけ鈍感なのかしら」と、晴子も若干呆れぎみだった。


 後を追い始めておよそ三十分が経過した。


「さんちゃん、一体どこに向かってるんだろう。そろそろお尻痛くなってきたよ〜」


耐えかねて雪美が愚痴をこぼした。


「あんたはまだ座ってるだけだからいいでしょ。私なんてずっとペダル漕いでるのよ」


晴子が口を尖らせる。


ちょっと気まずくなったところで、ちょうどタイミングよくさんちゃんが自転車を降りて歩き始めた。

その前方にある古びた看板には、『この先、沢々森ざわざわもり』と書いてあり、そのさらに向こうには鬱蒼とした森林が広がっている。

おそらくさんちゃんは沢々森に向かっているのであろう。


「さ、私達も行きましょ」


さんちゃんが森へ入って行くのを見届けてから、雪美達も自転車を降りて森の入り口へと向かった。


が、雪美はちょっと不安になって立ち止まった。


「暗くて怖そうな森だなぁ…。ちゃんと帰って来れるかな?」


「ちょっと、雪美!早く行かないとまた見失っちゃうじゃない!」


晴子はまたもイラつき始めた。


「だって…怖いのやなんだもん」と雪美が駄々をこねると、晴子はつんとそっぽを向いて、


「じゃあいいわ。私一人で行くから」


と、雪美を置いてすたすたと行ってしまった。


「あ〜!待ってよ、置いてかないで〜!」


結局、雪美は晴子にくっついて森へ入って行った。


森の中は薄暗く、とても不気味だった。進めば進むほど帰り道がわからなくなりそうだった。


「あら?」


ふいに晴子が立ち止まった。


「おかしいわね、さんちゃんがいないわ」


「え!」


雪美は益々不安になり、晴子の腕にすがって、祈るような気持ちで問いかけた。


「ねぇ、ちゃんとこの森から出られるんだよね?行っておくけど私、道とか全然覚えてないから」


すると、即座にそっけない返事が返ってきた。


「さんちゃんが見つかったら帰れると思うわ」


「えー!そんなぁ!晴子、道覚えてないの?」


「まぁね」


ドヤ顔で晴子は頷いた。雪美はショックのあまり言葉を失った。





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