最終話 Re:Re:Re:Re:

1.教祖へのメール

≪To: 鳴海 啓太

 Title: Re:Re:Re:Re:

 From: 霧島 三郎≫


≪保釈されたというニュースを見て、果たして、このアドレスが生きているのか分からないが、とりあえずメールをしてみた次第だ。まるで瓶詰の手紙を海に流すような気分だが、俺の気持ちをまとめるという意味でもあるから、届いたとしても、読んでくれる必要はない。


まず、知っているとは思うが、改めて念を押しておく。なっちゃん、鳴海唯さんのご遺体はアンタの元奥さんと、霧島家で丁重に火葬した。おばさんは、アンタを止められなかったことを悔いているように見えた。


アンタの執念の一発は効いたが、結局、俺は死んでいない。お互い、なっちゃんに会うのは先になりそうだ。せいぜい徳を積んで、天国に行けるようにしておこうと思う。


俺を八つ裂きにしたいのならいつでも来てくれて構わないが、イブとシーナにはもうアンタが望む利用価値はない。もし、二人に手を出したら、今度こそその身体に流れる赤いんだか青いんだか分からん血を全部搾り取ってやるから、そのつもりで。


アンタは以前、俺に真実を知る勇気がどうとか書いて寄越してきたな。あれには、正直感謝している。今回のことで、いろいろと成長できた気がする。それに、アンタがいなければ、イブにもシーナにも出会えなかった。根無し草が掃き溜めで辛うじて生きていたような俺に、守りたいものができた。今から十年前までの、アンタのようにな。


これは、本当は書くつもりなんて無かったんだが、筆が滑ってきたついでに教えておく。昔、なっちゃんに、鳴海家の養子にしてほしいと頼んだことがある。まぁ、幼児の浅知恵で、友達と毎日遊べるようにしたかっただけだろうが、その気持ちの何割かは、アンタみたいな父親が欲しかったんじゃないかと推測している。


今は、頼まれてもお断りだけどな。


事件が終わって、奇跡的に警察のお目こぼしを頂戴して、連れ戻しに来たヨンジーのマネージャーに殺されることもイブに殴り殺されることもなく―――三日は顔から包帯が取れなかったが―――過ごしながら、命ってやつについて、自分なりに考えた。


ナゴヤに生きる孤児の一人として、俺はアンタのやろうとしていたことを認めるわけにはいかないし、イギリスの変態研究所もさっさと取り壊せばいいと思っているが、最初の理念は、間違っていなかったと思う。


命ってのは、ただそこにあるものだ。それ自体に大した意味なんてない。それを見る人、感じる人、触れる人がいないと、ただの石ころと同じだ。つまりロックだ。ロックって、命だったんだな。


これは至極どうでもいい報告だが、今度、ハートオーシャンで歌うことになった。できれば、死ぬときはステージの上でと思っているから、俺を撃ち殺したかったらドリンク込みで3000円払って来るといい。いや、その後にネクサスのライブがあるからやっぱりだめだ。俺も伝説になるようなタマじゃないし、適当な道端で刺してくれて構わない。


アンタが言っていたシーナの容体だが、伊野波さんの親父さんの話によると、今は奇跡的な安定期が続いている状態だそうだ。十年でも二十年でも生きられるかもしれないし、そうじゃない場合もある。


これは、とても自分勝手なお願いだと承知した上で書くが、アンタには、あの青い血の研究を続けて欲しい。蘇りや、永遠の命なんて味気のないもののためじゃない、シーナや、今こうしている間にも続いていく命のために、やってほしいんだ。


文章や歌詞が長くなるのが俺の悪い癖だな。こんなところまで読んでいやしないだろうが、とりあえず、結びの言葉を書いておく。


おじさん、ごめん。俺は、また生き返って、もう少しだけ生きてみるよ。≫

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