第7話 マサの彼女
マサが、かねてから交際していた彼女と一緒に住むことになった。引っ越しにはヤスと庭野が駆り出された。駆り出されたといっても、マサの荷物は衣類と少ない雑貨しかなく、段ボールも少なかったため、すぐに新しい部屋に運び終わった。
新居の家具は、マサの彼女の早奈恵が選んだので、可愛らしいものばかりになった。新しい家具はすでに配達され設置されており、早奈恵は一足早くこの新居に自分の荷物を運んでいたので、あとはマサの段ボールを片付けるだけとなっていた。
「引っ越しのお手伝いをしてくれたお礼に、晩ご飯作るから食べて行って。何が食べたい?」
と、早奈恵が聞くと、すかさず庭野が、「ハンバーグ!」と声を張り上げた。マサに、「お前、少しは遠慮する素振りをしろよ」と頭を叩かれた。早奈恵は声をあげて笑った。
早奈恵も、中学・高校と不良だった。長い髪を金髪に染め、両耳合わせて七つのピアスを着け、他校の男女問わず喧嘩に明け暮れていた。高校二年の夏、当時上級生だった不良の女子生徒に喧嘩を売られ、相手の肋骨を四本折ってやり、それが元で退学処分となった。その後、早奈恵は日給のいい工事現場の警備員として働きだし、そこで同じ現場だった職人のマサと出会った。二人は意気投合し、やがて恋に落ちた。
早奈恵には母親がおらず、父に育てられ、小さな頃から家事をこなしてきた。見た目は金髪で化粧のけばいヤンキー姉ちゃんだったのが、マサのためにお弁当を作ってきたり、早奈恵の家で食事を用意してくれたり、見た目とは違うギャップがマサを射止めた。マサと付き合うようになって、金髪をやめて髪をブラウンに染め、警備員は辞めてスーパーでレジ打ちの仕事をしていた。
早奈恵が作ったハンバーグを、マサとヤスと庭野で食べ始めた。ハンバーグにかかっているソースも早奈恵の手作りである。三人は競うように無言で食い散らかし、一升炊いたお米がほとんどなくなった。十個も作った大きなハンバーグも、一つ残らず三人で食べきった。
中でも庭野は痩せの大食いで、マサやヤスよりも食べた。
「作り甲斐があったわ。ここまで綺麗に食べるなんて、どんな胃袋なの」
と、早奈恵は笑いながら食器を下げ、洗い始めた。
「マサはいいなぁ、こんな美味い飯が食べられて」
庭野がしみじみ言った。庭野の父親が勤めていた自動車工場が最近倒産し、家計は火の車だった。家での食事は前より質素になり、腹いっぱい食べたのは久しぶりだった。
「庭野、腹が減ったら、いつ来てもいいんだぞ」
マサは早奈恵に聞こえるように言った。早奈恵は「はいはい、庭野くんは肉が好きみたいだから、肉は常備しておかなきゃね」と食器を洗いながら言った。
庭野は、茂木と一緒にナンパしに行って、楓と出会い、忘れた頃に再会したことを話した。
「缶コーヒーをおごったお礼にって、アドレスを教えてもらったんだ」
庭野は嬉しそうに言った
「でも俺、携帯電話を持ってないから、家の電話にかけてもらうか、こっちから電話するしかできないんだけど」
ヤスが庭野の腕を足で軽く蹴りながら、
「お前また、女とやれることばっか、考えてるんじゃねえの」
と、笑って言った。
「そんな!楓ちゃんとはただの友達だよ!」と、庭野は力いっぱい否定したが、「本音はどうなの?」と早奈恵に言われ、
「う、うん。できれば、付き合いたいと思ってる」
と、庭野は顔を赤らめて言った。
「ほうら、やっぱり!このスケベ!」
と、ヤスはまた庭野の腕を軽く蹴った。
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