第42話 隠した正体 04

ミイナ.side



シラクネ村を襲うように言われるが、私達は食料やお金なんてものは渡されなく手ぶらで向かうことになった。

ここからシラクネ村は山を2つ超えた先にあると言っていた。

魔物と融合してるからいくら歩いても全く疲れない。

食料に関しても簡単に動物を捕まえられたので困ることは無かった。

料理もお父さんやお母さんに教わったので大丈夫。

火も私から出る雷撃で楽に起こせた。

楽でいいのだけれどその事を実感すると胸が痛くなる。

でもそれをユウに気が付かれない用にいつもの様に明るく振る舞わないと。


あの男の言う話だとそろそろシラクネ村に着く頃かな。

ここまで何事も無く進んでいたのだけれど魔物の気配を感じる。

上手く表現できないのだけど今まで感じた事の無い気配を何故かそう思った。


物音と呻き声が私達に近づいてくる。

足を止めてユウを庇う用に抱き寄せる。

それでも正確にこっちに近づいてくる。

目的は私達なんだ。

木々から顔を覗かせた狼に似た魔物が毛を逆立てながら詰め寄ってくる。


大丈夫。

初めてこの力を知った時もあんなにいっぱい魔物を倒せたんだ。

こんな小さな魔物位大丈夫。

襲いかかる瞬間に雷撃を食らわせてやる。

そう身構えてると魔物の後ろから大きな叫び声と共に男の人が飛び出してきた。


その人は必死な形相で手を振りかざし次々と魔物を倒していく。

危ない所もあったが後ろから来た仲間達にフォローされ魔物を全部退治した。

助けてくれた人はイケメンとは言いがたいけど、男前と言えば男前だった。

その人は先ほどとは違った安堵した顔でこちらを振り返り声を掛けてくる。

こんな状況なのに。

その安心した顔が面白くって可愛くてちょっとキュンとしてしまった。

その人の後ろに居た3人も私達に話しかけてくる。

この人達もシラクネ村に向ってる。

ついでにと私達をシラクネ村まで送ってくれた。

こんな見ず知らずの人を助ける様な人だ。

私達がやろうとしてることを知ったら止めようとしてくるかな?

先ほどの戦いを見ても勝てそうだけど、できれば戦いたくない。

この人達が帰るまでゆっくりしよう。

あんな所に早く帰りたくもないし早く帰る道理もないのだから。

でも村を襲うのに期限とかあるの?

居場所はわかるって言っていたけど。


朝、私は村の下見を始める。

ユウはまだ寝ていたので私は起こさないように村の近くに作った寝床を後にする。

1人にするのは心配だけど村は小さいし、何かあったら直ぐに私を呼ぶように言ってある。

魔物と一緒になったことで耳もすごく良くなっているからユウの叫び声なら直ぐにわかるし。

村の外れに昨日助けてくれたお兄ちゃんがそこにいた。

何やらせっせと石を削って作っている。

私はその様子を隣で覗きこむけど、お兄ちゃんは全然気が付かない。

集中しているみたいだ。

気がつくまで隣で見てようかと思ったけど全然気が付かなくて見てるだけなのも飽きてきたから声をかける。


「お兄ちゃん何してるの? 」


私の声にびっくりして飛び上がる位驚くのを期待してたんだけど、真剣な顔のままこっちを向くお兄ちゃん。

つまんないの。


「昨日話したか? 俺達この村の護衛に来てるんだけど、暇だからさ。何かオブジェでも作っておこうと思って作業してるんだ。」


護衛しに来てるのに遊んでていいのかな?

必死に守られてても私としては困るけど。


「へー。お兄ちゃん強いもんね! ミイナも魔物の群れから助けてくれたし。でもお兄ちゃん物作ったりできるの? 」


男の人って見た目なのに似合わない趣味。

でもそのギャップが可愛いかな。


「おう、こう見えても造形師だからな。」


造形師。

人形作りじゃなくてそう言うとお兄ちゃんの見た目でもしっくり来る。


「へー! 普段どんなもの作ったりしてるの? 」

「そうだなー。口じゃ説明めんどいからな。こんな感じだ。」


そう答えるとお兄ちゃんは短く呟くと、手が光りだし変な人形をっぽい石像を作った。

これが魔法。

話には聞いてたけどこんなに間近で見たのは初めてかも。

魔法を見た感動はあるのだけれど、よくわからない人形のせいで中和されてる。


「普段こんなの作ってるの?変な人形ー。」

「この良さがわからないなんてまだまだ子供だな。」


私はそのまま変な人形って言ったのにお兄ちゃんは怒らないで気さくに笑っている。

その姿を見てこの人形は私が理解できないだけで実は本当に良い物なのかもしれないって気分にさせる。


「本当に大人だとよく見えるの? 」

「おうよ。お前も年を重ねればいつかわかる。」

「わかりたくないような気がするよ……。」


良い物なのかもしれないけどやっぱり見れば見るほど不思議な形なので私には理解できなくて良いんじゃないかな。


「でもお兄ちゃん。こんな風に魔法で作れるなら何で魔法で作らないで手で作ってるの? 」


不思議な人形だけど細かい所まで作りこんでいるのが私でもわかる。

だったら簡単で直ぐに出来る魔法の方がいいのに。


「確かに魔法で作ることもできるけど、それじゃあ暇つぶしにならないだろ? 早さは求められてないからな。ゆっくり作りたいんだ。」

「なるほどね。ねえ、私も暇だから隣で見ていてもいい? 」

「邪魔しないならいいぞ。」

「やったー。色々お話しよう! お兄ちゃんの住んでいる所とか興味あるんだー。」


もう村の様子見も終わったし、暫くお兄ちゃんに遊んで貰おう。

こんな時間もう来ないのかもしれないのだから。

でももうユウも起きてるかな?

心配だけどちょっとお姉ちゃん我儘させて貰うね。

お昼には戻るから。





「お兄ちゃん元気ないよね。」

「あ?そんなことねえって。」


シャル姉が魔物と戦って3日。

シャル姉はまだ目を覚まさず、お兄ちゃん達に元気はない。

私が戦っていたら、この力を使ったらシャル姉が苦しむ事はなかったと思う。

でもそうなると私の正体もバレてしまうし、そもそも残虐な魔物と戦うことなんて私に出来ただろうか。

せっかく仲良くなったのに……。

皆のお陰でユウも私も久しぶりに楽しい気持ちになれた。

それが期限付きだとしても。

だからせめて皆と一緒にいる時だけは、楽しみたいって気持ちがある。

それに好きになった人たちがずっと落ち込んでいるのは見ているこっちも悲しくなる。

だから、お兄ちゃんが少しでも元気になればってデートに誘った。

私なんかとデートしたって楽しくないかもしれない。

まだ背も小さいし胸も小さいし……いつも子供扱いするし……。

ならせめて明るく盛り上げるんだ!


それから私達は手を繋いで宛もなく村を歩いた。

少しずつ表情の柔らかくなっていくお兄ちゃんを見て、連れだしてよかったとホッとする。

そんな中、私はお兄ちゃんの好きそうな屋台を見つけた。

ここに寄ったらもっと喜んでくれるに違いない。


「次はあそこに行こうよ! 」

「今度はなんだ? 」


私が指さした店をお兄ちゃんが覗き込むと目の色が変わった。

やっぱりこういうのが好きなんだね。


「ほう。なかなかいいチョイスじゃないか。」


お兄ちゃんが色々手に取って見入っている。

邪魔しちゃ悪いから私も何か見てみよう。

お兄ちゃんの言うように本当に良く出来ていた。

特に木造の動物は可愛く出来ている。


「お、悪いな。ってことだ何か気に入ったのがあったら買ってやるぞ。」

「いいのお兄ちゃん? 」


どれも可愛し、他人からのプレゼントなんて久々だから迷ってしまう。

それにこれはお兄ちゃんとの思い出にもなる訳だ。

そう思うと中々選べなかった。

色々手に取っていると片隅に小さくて可愛らしい小鳥の置物が居た。

手のひらサイズで丁度良く、持ち運びも簡単だからコレを選んだ。


「お前鳥が好きなのか? 」

「うん!鳥っていいよね。可愛いのに自由に空を飛び回ってさ。羨ましいよ。」


嘘ではない。

実際に可愛いし、鳥の様に空を飛べたら考えるだけでもワクワクしてくる。

それにあんな奴らの所からユウと一緒に逃げる事もできる。

こんなに悩んだりせず何にも縛られずに生きられるんだろうなぁ。


「お前空飛べたらどうするよ。」

「突然どうしたの? そうだね。凄い感動するかな。私の憧れなの。空を自由に飛び回れたら世界が変わるんだろうな……。」


想像の中でも今の境遇から逃げ出したいのにそれすらできない。

私達には逃げる場所なんてないんだ。


「そっかそっか。」


軽い返事が聞こえたからお兄ちゃんの顔をのぞき込むと悪巧みをする男の子の顔をしていた。

そのままポケットから色とりどりの綺麗な石を取り出すと魔法を唱える。

光が収まるとお兄ちゃんの手には綺麗な銀色に輝く翼が。

それを私に手渡してきた。

お兄ちゃんの話だと空を飛べるみたいだ。

こんな小さな鉄の翼で飛べるわけがない。

からかっているだけだって思った。

だけどお兄ちゃんの目に嘘はない様に見える。

だから騙されるてもいいやって、お兄ちゃんを楽しませる為に言うとおりにしよう。


そんな思いは杞憂に終わった。

本当に飛んだ。

出来るわけがないと思っていたのに。

私の悩みは何だったのだろう。

人はこんなにも自由に飛ぶことできるなんて。

今までに味わったことのない解放感に私は夢中になっていた。


「よし、じゃあこっちに戻ってこい! もうそいつの魔力も無いから危ないぞ。」


お兄ちゃんがもう終わりだと言ってきた。

嫌だよ。

終わりが近いなら最後の最後までこの楽しい時間を楽しみたい。

ずっと終わらなければいいのに。

そんな私の思いとは裏腹に終わりの時間は突然来た。

本当にお兄ちゃんの言った通り魔力が残り僅かだったんだ。


調子に乗って空高くまで飛んでいた私。

どんどん勢い良く落下していくけど不安はない。

だって言ったから。


「楽しかったじゃねえよ! もう少しで死ぬ所だったじゃねえか! 」


ほら、お兄ちゃんが助けてくれた。

憎まれ口だけど本当は優しいお兄ちゃん。

最初に会った時もそうだった。

一番必死になって助けてくれた。

そんな人が助けるからって言ったんだもの。

不安なんてあるわけないよ。

男の人と接するなんてお父さん以外に殆なかったなぁ。

だからかな。

いいや、違う。

そんな簡単な理由じゃないんだけど、この短い間で好きになっている私がいた。


「そんで、どうだったよ憧れていた空を初めて飛んだ気分は? 」

「さっきから言ってるけど本当に最高だったよ。ありがとうお兄ちゃん。」


本当に気持ちがよかった。

嫌な事なんて考えられない位に。


「そいつはよかった。それじゃあチンケな夢が叶ったんだから次は大きな夢を見つけろよ。」

「……もっと遠くまで飛べたら。」


そうしたら私がユウを連れてどこにでもいけるのに。

でもそれは無理なんだと思う。

お兄ちゃんでもこの少しの間だけしか飛べないんだ。

他の魔法でも、他の人でも無理なんだろう。

それこそ鳥にでもならなきゃ。

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