第19話 初めての遠征と不思議な姉妹 08
日がくれてもう遅いので、今日はこの辺にしておこうと思っていたら村の方から身長差のある2つの人影が目についた。
1つはガルードのようだが、後は誰だろう。
フルアでもシャルルでも無いようだが。
「お姉ちゃん。」
「ああ、ミイナちゃんか。」
隣でユウがそう呟いて初めて気がついた。
ユウがミイナの元へテトテトと駈け出す。
笑顔でユウを受け入れるミイナだったがユウが近づくと大慌てで何やら問い詰めている。
「どうしたのユウ! そんな男臭い服羽織っちゃって! しかも下は裸じゃない! 」
「クソ! こんな村にもロリコンが存在したなんて! こんな大人しそうで可愛らしい少女を襲うなんてどこのどいつだ見つけたらとっちめてやる! 」
何やら騒ぎながらユウを見ていた2人だが僕を見つけると、冷ややかな目を向けてくる。
ああ知ってるはこの感じ。
ついさっき同じような事があった気がするな。
「ユウにこんな格好をさせたのはお前だな! 言い訳なんてできないぞ! 半裸の変態め! 」
「おいおい本当なのかハルト! 」
「大丈夫? こいつと変な事しなかった? 」
「一緒に水浴びした。」
固まる2人。
ユウそれは駄目だよ。絶対誤解が深まる。
せめて魔術を練習していたと言って、いや、この格好で魔術とか何言ってるんだって話か。
「おいハルト、お前の事だ。最初冗談で言ってたつもりだったが、本当なのか? そんな趣味があったなんて引くぞ。」
何時もよりガルードの距離が遠いのは気のせいだと思いたい。
「違うって成り行きがあるんだよ。水浴びしに行ったらこの子が居て服を洗濯して着る物が無かったから服を貸してあげてたんだよ。」
「ちょっと待てお前護衛中に何遊んでるんだよ。」
僕に詰め寄るガルードの横で小さな炎が舞い踊る。
これはさっきユウに教えた魔術の1つだ。
「虐めないで。」
「うお、危ねえ! 」
ユウの出した火を見てなんとも言えない表情で驚くミイナ。
「今のユウがやったの? どうしたのその力。」
「教えてもらった。」
そんなミイナに対して得意げに答えるユウ。
「教える代わりにって変な事されなかった?身体触られたりとか。」
「してない。」
「よかった。じゃあ、本当にさっきこいつが言ったことは本当なの? 」
「本当。」
「はっはっは、俺は信じていたぞハルト! 」
高笑いをしながら背中を叩いてくるガルード。
現金なやつだなこいつ。
さっきまで完全に疑っていただろ。
いや、まあ僕をガルードに置き換えた状況だったら僕もガルードをそんな目で見るから仕方ないか。
「この子の服はこの先にある川にあるから一緒に取りに行ってあげて。」
誤解も溶けた所で僕はミイナにユウの服が置いてある所を教える。
それをミイナはユウを僕から隠しながら答える。
「言われなくてもわかってるよ。」
僕は内心傷つきながらミイナ越しにユウに語りかける。
「ユウちゃん服を取りに行ったら僕の服を返しに来てくれるかな? 」
「わかった。」
よかったなんとか丸く収まったな。
端から見ると大したことではないのだけれど僕は凄い満足感に包まれていた。
そんな僕の肩を笑顔で叩くガルード。
僕も釣られて笑顔で返すといきなり脳天に強い衝撃が貫いた。
「護衛ほっぽり出して遊んでんじゃねーよ! 」
僕は頭の痛みで涙目になりながらガルードに逆ギレする。
「だって仕方ないじゃん! 魔法陣の作成で汗いっぱいかいたんだから! 」
「だからってお前が居ない時襲われてたらどうするんだよ! 」
その言葉に身に覚えがありつい目を逸らしてしまう。
それに気がついたガルードは頭を抱えて仰け反っている。
「あー! やっぱり何かやらかしたな! どうすんだよこれで報酬ダメになったら! 」
「だ、大丈夫だって! 被害は出てないから! 」
その僕の発言にガルードはどうにか立ち直ってくれた。
「……。被害がなかったなら今回は許すけど、次はやるなよ? 」
「うん、わかってるって。ガルードちょっと想像以上にこの村は危ないかもしれないから気をつけて。」
「おいおい、俺を誰だと思ってるんだよ。お前らを引っ張るガルードだぞ。」
「わかってるって。でも油断はしないでね。」
「護衛サボった奴に言われたくねえって。」
それもそうだねと2人で笑い合う。
実際の所ガルードもそんなに怒っていない。
だからこうやって笑って済ませてくれる。
次やったら本気で怒られるだろうけど。
「そうそう。ハルトに相談があったんだよ。俺達のベースキャンプ付近に魔術の罠を仕掛けて置いて欲しいんだ。」
「それくらいならお安いご用さ。それに僕もこの周りにもいくつか仕掛けた所だよ。」
ユウが思いの外飲み込みが早いのでちょっと複雑な物も新たに説明がてら作成することができた。
その数を教えるとガルードは関心したように頷く。
「なんだ遊んでるだけじゃなかったのか。」
「当たり前だろ。僕を何だと思ってるんだよ。」
「その格好や、今までの話を聞く限り信用できないけどな。」
もう触れないでくれ。
僕が悪いんだけどいい加減飽きてくるというものだ。
「それで、どんな物が欲しいの?」
「魔術陣に魔物が入ったら消滅する魔術陣。」
「そんな魔術陣作れません。」
そんな物があったら人類はもっと安全に暮らせるわ。
「冗談冗談!でもそうだな。せめて深手を与えられるくらいの威力の物は欲しいな。魔石はこれを使ってくれて構わない。」
そう言うとどこからとも無く色とりどりの魔石を取り出すガルード。
いつの間にこんなに仕入れていたのか。
「この前の魔物に深手を負わせる位はできるよ。そうじゃないと僕は護衛できない事になるし。ところでこの大量の魔石はどこから仕入れたの? 」
「こういった依頼の為に今まで少しずつ買っていたんだよ。もちろんギルドの金だ。」
「……ガルードは僕に怒られたくてわざとやってる? 」
「いやいや、今回は必要経費だろ。元々の貯蓄なんだし、お前が魔術使えるんだから有効に使っていかないと勿体無いだろ。」
「確かに正直言えば助かるよ。まだ魔法に慣れていないし、魔術頼りな所が大きいから。」
でも今後の無駄使いは控えて欲しい。
マジでピンチなんだから。
これもしかして報酬貰っても利益と損益トントン?
「そうだな。って事は今日最初に護衛させたのは間違いだったか? 」
「初日から魔物が来るなんて思っても見なかったから仕方ないんじゃない?でももう大丈夫だよ。とりあえずは戦えるって。」
「そっかそれならよかった。それじゃあ地盤も出来ている事だしシャルルに任せた方を拠点にしてこっちをメインに護衛するか。」
「それがいいかもね。」
話がまとまり、下らない雑談をガルードとしているとユウとミイナが服を届けに戻ってきた。
そしてまた明日ユウは僕と、ミイナはガルードと会う約束をして2人は帰っていった。
ガルードは嫌々だったが内心照れくさそうに見える。
そこで僕はガルードに護衛を任せてベースキャンプに戻ると、シャルルがガルードの作ったカマドで何やら料理をしている最中だった。
僕は料理中のシャルルに声をかけ、そのまま僕らは今日あった出来事を共有し合う。
どうやら魔物が現れたのは僕の方だけだったようだ。
シャルルの方は平和で村人が新鮮な果物をプレゼントして貰ったようだ。
みんな村人と良好な関係を気づけているようでよかった。
シャルルに明日は一緒に買い物に行こうと誘われたがユウとの約束もあるし、魔法陣の制作があると伝え断る。
それなら仕方ないと少し寂しそうにしていたので、今度近くの川に一緒に行こうと誘うとシャルルは絶対だよと、はにかんで喜んでくれた。
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