戦場と空

@TKaren

第1話

 スーツに身を包み長い髪の毛を後ろで束ねた私は、気温の上がりつつある地面を踏みしめながら帰路に立った。


 今日は就職すべく高校生である私は企業面接に向かった、最近は景気も良く求人に溢れかえるこの現状、恐らくは内定をもらえるだろう。


 淡い小学時代、つまらぬ中学時代、そして活気あふれる高校の生活にも幕を下ろすこの今、私は空を見上げて自分の感情を整理すべく考えを思考の中で読み上げる。


 今にして思えば自分の学生時代と呼ばれるそれはあまりに面白味のあるものではなかった、つまらないと言ってもいいだろう、少ない友人に休日の趣味はゲーム、家も裕福とは言えず中学の時から大学も諦めているため学業に没頭していたわけでもない。


 しかし悲観的になろうとも人生の主役は自分に他ならないのだ、こんなつまらぬ人間だけれど、社会は自分を必要として自分の手を引き、私は其れに応えようと必死になった、誰しもが通る聞き飽きる物語、だとしても私にとっては人生初にして最後の物語、それが人生なのだ、この先就職し、会社に尽くし、旦那に貰われて、子供を産んで、波乱の日々を突き進み、最後は花を抱えて死ぬのだ、これが自分の思い描く私の人生である。


 そう思うとこの先の生活は真っ暗で、不安は残るけれど私の未来も捨てたものではないと思える、、、、


 なのだがどうしても思ってしまう、この一度しかない人生、もっと凄い事をしてみたかった、と、この先私が英雄になり、圧巻の武勇伝を携え、誰しもが驚く死に方をすることは私には不可能だ。


 されど憧れてしまう、怪盗ルパンのような人生を、小説の主人公、ガリヴァーのような冒険を、心のどこかで私は憧れるのだ、幼稚な発想がもしれないが、妄想に耽るぐらい問題は無いであろう。


「、、、!?」


 ふと気が付けば電車の時刻は刻一刻と迫っていた、田舎に住む私は電車を逃すと野宿をすることになりかねない、慌てる私は革靴をコンクリートに叩き付けながら駅までの道を走った。



―――




―自宅・2階自室


 私の部屋は黒いコーラの缶と小説の摩天楼、そして愛すべき3種の神器、カチューシャ、PC、PCチェアが置かれている。


 椅子は私の体を乗せると慣れた感じで重心を後ろに逃した、机の下のペダルを踏めばPCは起動され、パスワード画面に【MIRUKUTYOKO2T】と打ち込めば立体図で描かれた背景に並べられたアイコンが顔を覗かせる。


≪カシュ≫


 コーラの缶を開けて一気に飲み干すと慣れた手つきでブラウザを起動するのだ、少々の起動までの時間に私はカチューシャで髪の毛をたくし上げて視界を良好にし、眼鏡を掛けて乱視を治す、そうすれば目の前には麗しの検索画面があった。


 右斜めのブックマークバーから動画サイトをクリックし、慣れた手つきでボーカロイドの楽曲ページに飛ぶ、そこには全盛期の勢いはないが洗練された曲がランキング形式で並んでいる。


「あ!!これ私の好きなPの曲じゃん!!」


 楽曲ページをクリックし、スピーカーの電源を入れて動画を再生した、、、すると画面は突如真っ白になり、アンケートページが開いた、最近はこの動画サイト政治のアンケートだのなんだのがしょっちゅう行われ私の動画閲覧を邪魔していた。


 普段であれば舌打ちをしてF5キーを押すところであるが、今日は面接があったりと特別な日であったため気分が乗ったのか私はアンケートに馬鹿真面目に答えることにした。


 アンケート内容は以前見たアンケートとは大きく異なっていた、まあ2年近くまともに答えていなかったのだ、形式が変わっていても何ら疑問は無い。


『Q1・あなたのハンドルネームはなんですか?』

『A・カチューシャ』

『Q2・あなたの座右の銘は何ですか?』

『A・私の信じるものはただ一つ、人間の意志の力である』

『Q3・責任とは何ですか?』

『A・抱えた損害の数である』


 取り合えず応えた、内容は面接では言えないような本心であり、回答内容を見ると自分がどのような人間なのかを再確認できた。


 しかし運営もこんな集計が面倒くさそうなアンケートを取るぐらいならもう少しサイトのレイアウトを見やすくする努力をするべきである、動画サイトの運営の本質はそこにあると思うのだが、、最近はイベントごとと新機能で誤魔化しているフシがあるのはいただけない。


「でも見るの止められないんだよねお姉さん」

「そうそう、やっぱ見たい動画は湧いて出てくるからなね、うp主はそんじょそこらの社長さんより絶対存在価値がある」


 この白い髪の毛の少年とは話が合いそうである、と言うのも彼が手に持っている小説、私が大好きなライトノベルなのだ、これを愛読している人に悪い人はいない。


「ところでお姉さんって好きな色とかある?」

「赤が好きだね、平等と熱血の赤」


 ここまで来て疑問に思うことが出てきた、この少年は何者なのであろうかと言うことである、衣服も古臭い和服だし、何より青い瞳に白い肌、日本人ではなさそうだ。


「ところで君、だれ?」

「もう少し早く聞いてほしかったな~、僕はペルーン、はい!!お薬」


 私に口に彼は光り輝く薬を放り込んだ、薬は私の耳や鼻、毛穴から光を漏れ出させ鏡に映る私は爆発寸前なのではないかと戸惑いは隠せない。


 それと同時にとあることに気が付いた、戸惑っているが感情が高ぶっていないのだ、いくらおっとりした私とてこんな爆発寸前みたいな状況なら泣きわめいて発狂してもおかしくない、だというのにあまりそういった感情が湧かなかった。


「へへ~ロボトミー的精神安定剤、凄いでしょ!、じゃあいくよ~」

≪パチン!!!≫


 少年が指を弾いて乾いた音を鳴らすと、部屋は赤い光に包まれ、私の意識は遠のいていく、この部屋で最後に見た光景はどすぐらい笑顔の少年の顔であった。


――――――――

―――――

――





――ソビレト連合国・チェンスク南部戦線


 目が覚めたらそこは真っ赤な戦場である、掲げられた旗も、血染めの自分の衣服も、地に落ち折れた銃剣も、そして地面さえもその戦場は赤く染め上げられ、彼岸花の咲き誇る黄泉の世界を想像させるそこには内臓と肉片が星の数よりも多く散らばっていた。


「おい!!カチューシャ大佐、敵が引いたとは言えそろそろ起きてくれ、戦時中だぞ」

「あ、ああすまない、ヴィクトーリア大佐」


 目の前の金色の髪の毛の女性、、、誰だこいつ、いや、名前もわかる、休日はよく飲みに行く仲間だ、しかし誰だこいつ、まとまらぬ思考回路は今にも焼き切れそうであった。


 私は工藤愛花、、だけれどカチューシャ・パヴロヴナ・パヴロヴァであり、いや、、、工藤愛花って誰だ?、、いやカチューシャってなんだ?という乱れた記憶、そして現状に焦りを感じないことえの不安感、現在の私の思考回路は最悪である。


 私はソビレト連合国中央派遣軍、第2師団6連隊空砲6大隊所属の空中砲兵である、、はずだ、しかし公立高校の冴えない高校生でもあるはずなのだ、二重の記憶を無理やり一つにまとめ上げたような記憶、工藤愛花であればこの血染めの戦場を見れば失禁してもおかしくない、しかしそんな粗相はカチューシャの記憶が許さない。


 ここソビレト連合は世界初のベーシックインカムによる貧相民の救済と労働の機械化を推し進め、国民の労働を削減する減労制国家である、しかしそれは資本主義の冒涜であり、共産主義の崩壊を示していた、結果ソビレト連合は南方の中華共産大連邦との長い戦争に突入したのであった。


 工藤愛花としての感想は、日露戦争後の一風変わったロシアが中国と戦争をしている、と言う感想である、国の戦力はソビレト連合の圧勝、軍隊の運用思想は第二次世界大戦までこの国は進んでいるからである。


 砲撃による飽和攻撃、歩兵の機械化、ここまでした圧巻の武力を前に中華連邦は欧州諸国の支援と膨大な土地を利用した焦土戦略で薄氷の上の拮抗状態を保っているようである。


 カチューシャの記憶からするとここは東部中央戦線である、私は空砲部隊所属、空砲とは魔道技術と呼ばれる歩兵が空中で行動をとる魔晶石を用いた空中歩兵の砲撃部隊である、106mm無反動砲を手に持ち空中からの支援攻撃を行う部隊、イメージとしてはガン〇ムのマゼ〇トップ砲を装備したザ〇Ⅱのような見た目である。


 現チェンスク戦線は敵軍のどこから湧いてきたのかわからない兵力を前に補給が間に合わなくなってきた、という現状であった、この国の戦闘教義上あまり連戦を重ねると物資不足や人不足になるのは目に見えていた、この国の戦略は少々人員と資源を消費しすぎる。


『こちら中央戦線司令部!!機動可能な空砲大隊があれば応答願う』


 こんな私でも一応大隊長である、こんな無線ろくなことにならないのはわかっている、しかし無線を無視することは出来ない。


「こちら第6大隊、機動可能であります」

『了解、貴大隊に敵砲撃陣地作成の妨害砲撃を命令する、場所は南東2㎞、敵航空部隊中隊規模で確認、対空陣地は確認できず」

『了解!』


 ここで大隊について確認する、この国の大隊は1小隊10人とし、10小隊を1中隊とし10中隊で1大隊である、空砲大隊は1小隊につき砲兵2、観測2、装填補助2、護衛4から成り立っている、つまり空砲大隊1につき無反動砲は200門持っていることとなっていた。


 各員は徐に輸送車に乗り込むと体に悪い排気ガスを灰いっぱいに吸い込んだ、これが最後の不健康かもしれない、そう思うと大隊各員は哀れみと諦めのこもった表情を軍靴に向けるのであった。


―――

――


―チェンスク東部戦線・東部司令部


チェンクス東部戦線はまさに地獄そのものであった、中途半端な飽和攻撃作戦は失敗に終わり、血肉飛び散る戦場と言うよりも残党兵がゲリラ化し、ソビレト軍は恐怖の掃討戦を強いられている。


 戦場は既にある程度だが近代化している、飽和攻撃による敵軍を殲滅を完全にできなかった以上敵は必ず軍を再編成し戦線を張りなおす、中華連邦軍は壊滅した軍を再編成し砲撃陣地の作成に取り掛かっていた。


 ソビレト軍はそれを阻止するため空砲大隊による浸透砲撃と数万にも及ぶ野戦砲からの全縦深同時打撃、そして無理やり集めた兵による掃討作戦を行うことを決定した、今私たちがいるこの戦場こそが中華軍との戦いの終盤戦の幕開けであった。


『第1中隊より連絡!各中隊出撃可能!』


 無線からは乾いた声が聞こえる、私はその声に死んでくれと遠まわしに言わねばならなかった。


「了解、出撃開始!敵砲台を撃滅せよ!」

『了解』


 私は無反動砲を背負うと術式を展開して宙に浮いた、そして後ろを振り向き自分の従える第10中隊に命令を下す。


「第10中隊、上昇!」

「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」


 高度を上昇させた兵士たちは寒さを凌ぐため口元まで防寒具で身を隠し、護衛兵は機関銃を片手に砲兵の周りを飛び回る、その構図は砲兵が惑星で援護兵が衛星のようにも感じられる。


「カーチューシャ大佐殿、今回はどうなると思います?」

「うむ、シャルバ少佐、今回は大丈夫だがこの先荒れるぞ、敵の士気はさぞかし高いだろう、恐らくは死んでも引かん」


 皮肉なほど晴天の空の元、見下ろす台地には鉄くずと死骸、それを求めて群がる鼠の姿以外には何もない、火薬の匂いと死体の腐敗臭は空中高くまで立ち込めてきそうであった。


「中隊長殿、敵砲台を確認、南方1,3kmです」

「うむ、各自砲撃準備に取り掛かれ」


 空砲支援と言うのは鈍角射撃と鋭角射撃に分かれる、鈍角射撃とは高高度から長距離射撃を行うもので、高い命中性を誇る、一方鋭角射撃は低高度から鈍角射撃よりも少し近い位置で射撃を行う、これにより鈍角で陣地を吹き飛ばし、鋭角で目標物を吹き飛ばす、これにより厚みのある砲撃を可能としていた。


『大隊各員へ、砲撃開始1分前である、一発も外すなよ』

『第一中隊より連絡、各中隊に問題は無し、敵航空撃滅兵を中隊規模で確認、護衛兵は注意されたし』

『了解、各員警戒せよ』


 さて砲撃であるが、空砲兵用の106㎜無反動砲は重量2tの遠距離砲撃用の武装である、術式による重量緩和を行える兵士以外はこれの所持が出来ない。


 しかしこれほど大きいものを地面に設置せずに打つとなると重量緩和術式だけでは全く足りない、装填兵が術式空間固定を行い、空砲兵が術式衝撃緩和を行う、これがどれだけ手間かと言うと二人羽織で卓球をするような物であり、これが中々に面倒だ。


「術式固定完了!装填完了!砲撃可能であります」

「ハイリ中佐ご苦労、次装填の準備を頼む」

『第一中隊より連絡!各中隊砲撃準備完了、いつでも行けます!』

『よろしい、ならばあの蛮族共に鉛玉と火薬の匂いを味合わせてやれ、各中隊10中隊に続け!!』


≪ド・・・ガン!!!!!!≫


 私の放った砲撃の音を追うように爆音は空を切り裂いた、煙が空中に立ち込めると敵の砲撃陣地は読んで字のごとく木端微塵に吹き飛んだ、この様子だと次弾砲撃の準備は必要なさそう、、


≪ドドドドドドドドドドドドド。。。ガァツ!!!!!!!!!≫


 次の瞬間砲撃軍による飽和砲撃が開始された、その爆音は先ほどの比ではなく、比喩ではなく本当に地面が揺れていた、ソビレト砲撃軍、他国ではありえない砲撃専門の軍団の砲撃は精密とは言えない物の圧倒的火力で敵陣地を文字通り焼け野原にする、敵補給線も司令部も防衛線も前線も、あと5秒ほどで吹き飛ぶだろう。


「おっと、観測兵、着弾観測の連絡」

「は、はい!、2弾敵陣命中、問題ありません」

『第一中隊より連絡、鋭角鈍角共に全弾命中』

『よろしい!ここからは歩兵と砲兵の時間だ、空砲兵は帰還するぞ』


 かくして地獄の戦場は開かれた、ソビレト連合は公歴124年、今まで奥手であった掃討戦を本格的に開始し敵野戦軍の完全討伐に乗り出した、当然それは中華連邦を支援する欧州諸国との衝突は避けられないだろう、地図上の国家はここから先見る見るうちに戦火に乗りだすのだ。

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