万年筆とキャップの報われない恋
シンク
第1話
とある引き出しの中。
暗く狭い世界で私たちは出会った。
万年筆さん・・・。
一目見た瞬間に孕んでしまった。
予備のキャップはまだパートナーが居なかった。
当然の様に鉛筆と合体して、死にゆく夫を見守る、そんな一生を過ごすのだろうと思っていた。
しかし、万年筆は違った。
インクを再充電すればまた使用可能で、己を削る必要がない。
まさに雷に撃たれたかのような瞬間だった。
「あれ?キャップさんだけかい?鉛筆さんといつも一緒のイメージがあるから珍しいと思ってね。」
案の定万年筆さんにそれとなく近づいたら話しかけられた。
「私は予備のキャップなんですよ。多分絵柄を気に入ったのでしょうね。」
くるっと一回転して妖艶な蝶の模様を見せつける。
万年筆さんが生唾を飲む音がかろうじて私の鼓膜を震わせる。
「私、パートナーが居ないのよ。」
自嘲気味に呟く。
勿論わざとらしく聞こえないように。
「だ、だったら僕と!・・・・・・。
いや、ありえないことだ。万年筆にキャップは必要ないもの。」
「そんなことないわ!まさかそんな嬉しいことを言ってくれるなんて。私達は不幸な女。愛する夫の死を見守る死神よ。でもあなたならっ!」
万年筆さんに勢いよく抱きつく。
一瞬万年筆さんは狼狽えたが、私に寄り添う様に手を添えると。
「僕があなたを幸せにするよ。」
その晩
「い、挿れるよキャップさん。」
そう言って万年筆さんは二股に分かれたモノを私の穴にあてがった。
「痛いっ!」
左右に膨らんだ突起が私の穴より大きく、つっかえてしまう。
「ごめんっ。やはり無理みたいだね・・・。
僕のモノがこんなにも幅広いばかりに」
落ち込む彼の頭を撫でながら
「仕方のないことよ。入るところまででいいから動いて頂戴。」
彼は頷いて浅く、小刻みなピストンを始めた。
まるでお遊戯の様な性交渉だが、彼を臨界状態にさせるには充分な刺激だった。
「逝くよ!インク、出す!!キャップさんを溺れされるから!」
彼のペン先からドス黒い粘性の液体が私の中に注ぎ込まれる。
「すごい!すごいわ万年筆さん。私の中、万年筆ので満たされちゃった。」
溢れ出た液体が、私の体を染める。
余韻に浸ろうとし立ち上がりかけた時、彼は私を押さえつけた。
「まだだよ。まだ終わってない。」
彼の体内から音がした瞬間、勢い良くインクが吸引され始めた。
「なに!?なにが起こっているの??」
訳もわからず私はパニックを起こした。
「万年筆はペン先からインクを補充するんだよ。君に出したインクはまた僕の体を廻るんだ。君と僕とが一つになれるんだよ。」
彼の笑顔には狂気が張り付いていた。
「い、いや!やめて頂戴!こんなの可笑しいわよ。こんな・・・」
恐怖に駆られた私は逃げ出そうと足掻くが、彼に羽交い締めにされている状態では手も足も出ない。
次第に意識は深い水底に沈み、ドス黒く冷たい水は世界と私を隔してしまった。
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