君は夜桜の中で何を想うのだろう。

@Umica0

第1話 影

それは、遥か彼方、遠い思い出。

忘れたい、でも忘れたくない。

はっきりとは覚えていないけれど、それは悠真の心の中に、ずっと根付いている_。



***



涙が、零れた。


「___っ…」


ずっと我慢していたのに、ここで泣いたらすべてが終わりな気がする。

けれど、涙は止まらなくて、悠真は静かに嗚咽する。

暗くて、日の当たらない屋上の影。

その表現は、まずもって悠真を現しているかのようだった。

誰も来ないこの場所は、悠真の浸り場所となっていた。

時折騒がしい女子たちが来るくらいで、そうなった場合は、持ち前の影の薄さを使って逃げ出すのが、悠真の日課である。


___どうして、こんななっちゃったのかなぁ。


と、悠真はぼんやり考えた。

人生負け組だ。

小学生のころは不登校、中学生のころも不登校。

高校生になった今年、がんばろうとは思っていたのだが、11月となった今でもやっぱり上手くいかない。

上手くいきそうなのに、上手くいかないことばかりで。

やっぱり、人間関係は難しい。

教室ではいつも一人、小中のようにあからさまな嫌がらせを受けることはなかったが、喋りかけても答えてはもらえない。

自分は、影のような存在だ。

確かにあるのだけれど、存在を忘れられる。

別にいらない。必要ない。

自分は、変われない。


そんなことを考えていると、また涙が出そうになったので、悠真は鼻をすすった。

少し寒くなってきた。

もうすぐ冬だ。

いや、もう冬か。

でも、どんなに寒くても、ここにしか自分の居場所はない。

これからの季節、どこですごせばいいのか。

泣いても、何にもならないことを、悠真はもう知っている。

ただ、耐えるだけ。

何も気にしていませんって顔で、堂々と歩いていればいい。

別に、自分のことなんか誰も気にしていないとわかってはいるが。


そんな時、悠真の人生を大きく変化させる出来事が起こった。

まるで、夢物語だった。


「なんで泣いてるの?どうしたの?お腹痛いの?」


心配そうな、少女の声が聞こえた。


___幻聴、だろうか。

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