第13話 UFOと遊ぼう!
車の中から周りを見渡すと、そこはなぜか懐かしく感じた。
いくつか並んだコテージの一つに車は止まり、続いてすぐ隣のコテージに止まった車からはみやびが降りてきた。さっきまで一緒にいたというのに大きくこちらに手を振っている。
みやびが行なった未来の雨量を前借りするという黒魔術のおかげもあってか、キャンプ当日は雲ひとつない青空となった。逆に日差しが強すぎて少し曇ってくれてもいいくらいだ、今回はコテージだから、そんなに気にもならないけど。
俺と父さんでコテージの横に簡単なテントを張る。天井だけの日除けみたいなもので、その中に入ると涼しい風が通り抜けて気持ちよかった。
「よし、秀一! 遊びに行くよー!」
みやびのコテージでもテントが立ったようで、みやびの母、あこさんはさっそくその下で涼んでいた。できれば俺もあんな過ごし方をしたいところだけど、そうは問屋が降ろさない、みやびに引きずられて太陽の下へと連れだされる。
そのキャンプ場は山の麓に作られており、少し道を外れれば鬱蒼とした森が佇んでいた。さすがにみやびもそこまでは入らないが、いくつかある散歩道の一つ、アスレチックコースを看板で見つけ、元気にその道を進む。
「なんかねぇ、私達、前もここに来たことあるんだよ。秀一は覚えてる?」
「いや、あんまり。なんか既視感はあったんだけど、記憶にはないな」
「私もなんだよね。お父さんが言うには、私が夜の間に森の中で迷っちゃって大変だったみたいなんだけど、そんな記憶があるようなないような……前って言っても小学生の時だったみたいだし」
みやびは小さな川に掛けられた橋をリズミカルに渡っていく。
「ん……っ」
一瞬、目の前が霞み、俺は目を擦った。
「秀一ー、どしたー?」
橋を渡り終わったみやびが、急に足を止めた俺に声をかける。
「いや……なんでもない」
一瞬小さい頃のみやびが見えたような気がしたけど……、気のせいか。
アスレチックコースは、その名の通りなかなかハードであった。普通に山道を歩くのだって、帰宅部の俺にはすぐに息が上がってしまうというのに、山道にいろいろなアスレチック的要素が追加されるのだ。橋は縄で出来ていてバランスは悪いし、川は飛び石のように歩かなきゃいけないし、ここからちょうど100m先に看板があると書かれれば、みやびは100m走をしようとするし、ついていくのがやっとだった。
「秀ちゃん、遅いよー」
「お前なぁ……よくそんな体力あるな。同じ帰宅部のくせに……」
「帰宅部だってちゃんと部活的に帰宅すれば、このくらい余裕なのですよ。私は帰宅部高体連全国4位の実績を持っているからね!」
「帰宅部が運動部なら、俺帰宅部辞めます」
「辞めてもいいけど、秀ちゃんはちょっと体力なさすぎ。せめて私に付いてこれるくらいにはしてもらわないとー」
それはごもっともな気がして反論できない。いや、反論する力もすでに残っていなかったのだけど。
なんとかコテージに戻った頃には、バーベキューの用意は出来ていた。俺の父親とみやびの父親はすでに出来上がっていて、お酒の缶がいくつも並んでいる。
「あー、もうお肉焼いてるんじゃん! ほら、秀ちゃん、早くしないといい部分が取られちゃうよ! そのトング、ちょっと待ったー!」
よくあれだけ走り回って体力残ってるな。先に走っていくみやびを、俺は残り少ない体力で見送っていた……その途中で、また俺の視界がぐにゃりと歪む。
みやびの後ろ姿が、半分の高さになる。Tシャツとハーフパンツだった格好が、ワンピースになる。肩までだった髪が少しだけ長くなる。それは、写真で見せてもらったみやびが小さい頃にそっくりで……。
みやびが父親からトングを奪い去り、肉を自分の皿に乗っけている時には、その光景は元通りになっていた。俺は目瞬きを繰り返すが、さっきみたいな視界の歪みはもう感じられない。
でも、俺はそれが気のせいだとはすでに思っていなかった。たぶん、何かが起こっているのだろう。野菜を大盛りで皿に乗せられ、文句を言っているみやびを見てそう思った。
◇ ◇ ◇
バーベキューをして、花火をして、近くの温泉に行き、キャンプ自体は順調に進んだ。何か起こると最初は警戒していたけど、あまりにもそれから変化はなかったので、俺もみやびと一緒に普通に楽しんでいた。結局、俺がその変化に気付いたのは深夜になってからだった。
コテージには大きめベッドが2つ並んでいて、俺は一人で使わせてもらっていた。(両親はなんの迷いもなく一緒のベッドに入っていて、俺は微妙な心境ではあったが)
夜中にふと、目が覚めた。それはたまたま起きたわけではなく、起こされたような気分だ。俺はまだ覚醒しきっていない頭ではあったが、行かなくては行けない気がしてその足をコテージへの玄関へと向けた。コテージを出ると、少し先を行くみやびが見えた。ふらふらと歩いていき、昼間に入った散歩道へと姿を消す。その時には、俺もその状況を理解できていた。もうなにかに導かれるような、そんな気配は無かったけど、俺もみやびの後を追った。
急いだつもりだけど、みやびとの距離は一向に縮まらなかった。普通に歩いているように見えるみやびに、早足で追いつこうとしたが、みやびをぎりぎりで見失わない絶妙な距離を常にキープされているようだった。
みやびは散歩道の途中から、横道に逸れた。その道は獣道のように草が踏み鳴らされている、とはいえとても人が通るような道ではない。俺は少し躊躇したけど、先に見えるみやびの姿が小さくなっていくを見て、獣道に踏み込んだ。
険しい山道を息を切らせて進む。道も整っていないし、最早灯りなんてない。でもみやびを見失うことはなかった。やがて、どこを歩いているかもわからなくなる。学校の通学路を歩いているようにも感じたし、海の中を歩いていると言われたらそう信じるだろう。
そして時間の感覚さえなくなり始めたころ、その場所は急に目の前に現れた。
森の中に少しだけ開けた場所、開けたというか、周りの木々がなぎ倒されて無理やり場所を作った感じがした。そして、その中心には光り輝く白銀の物体。
「UFO……」
俺はその光に導かれるように近づき、自分の身長の何倍もある物体を見上げた。その横にはいつのまにかみやびも同じ姿勢でUFOを見上げている。いや、同じなのは姿勢だけだ。姿は子供の頃のみやびになっていて、俺とはかなり身長差がある。
『おかえり』
その言葉は、頭の中に直接響いた。それはUFOそのものが言葉を発しているかのようだ。
『そして、秀一君。君までついてきてもらってすまない』
「……みやびをどうしたんだ?」
『少し昔の姿に戻させてもらった。その方が取り出しやすくてね』
みやびの胸の内から小さな光が出る。それはしばらく浮遊してからUFOへ吸い込まれていった。
『十分な奇力だ。これで私達も帰ることができる』
「今のは?」
『このUFOの原動力となるものだ。君たちの言葉で言うと、奇妙な力、奇力と呼ぶのが近いだろう。さて、これで私達はまた出発できる。みやびさんには長い間お世話になった。といっても、すでにその記憶も徐々に薄れていっているけど』
光を吸い取られたみやびは、子供の姿から今の姿へと戻っていた。
『さて秀一君、私達はみやびさんの願いを叶えることを条件に、私達の願いを聞いてもらったんだ。でもそれは結果的に秀一君の運命を変えることにもなってしまった。そこで、今更だとは思うけど、贖罪として秀一君の願いも一つ叶えようと思う。秀一君はなにを望むかな?』
いきなりそんなことを聞かれても、よくわからない。みやびはいつこのUFOとそんな約束をしたのか、なぜUFOはこんな場所にいるのか、俺の運命のどこが変わったのか、そしてみやびは何を願ったのか。わからないことは沢山あって、そして俺はそれが知りたかった、だから。
「全部、説明してくれ」
そして俺は、UFOにそう願った。
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