オカルトと遊ぼう!

シキ

第1話 多次元情報思念体と遊ぼう!

 俺は自分の目で見たものしか信じない。


 テレビで見ている超常現象番組は大っ嫌いだし、UFOの呼び出しで何かを呟いている男なんて頭がおかしいんじゃないかと思う。降霊術なんてのも演技が上手いだけで、どっちかというと役者をやったほうがよっぽどいいんじゃないかといつも心配をする。

 そもそも、見ていないものなんて全部想像の産物なのだ。俺にだって幽霊とか、UFOの形を思い描くことはできる。簡単だ、学校で国語の授業中に現代文の問題を考えている最中だって一瞬で思い描ける。でもそれって、例えば魔法使いとなんの違いがあるんだろう。

 魔法使いとUFO、多くの人はどっちも想像出来て見たことがないものだろう。それはその人の中の記憶で作られた想像物、もし魔法使いが存在しなく、UFOは存在するとか言うやつがいたら、その存在を見たことがないなら矛盾していることになる。それって俺はおかしいと思う。

 だから、俺は見たものしか信じない。お化け屋敷は雰囲気を楽しむものだし、降霊術番組は役者さんの舞台だ。それが一番納得のいく考えだ。


 でも逆に言えば、目で見た存在は信じなきゃいけないことを俺はそれまで気付いていかなった。


◇  ◇  ◇


「よーっす、やっと来たね、秀一」


 幼稚園からの幼なじみ、みやびはそういって手をひらひらを振った。

 まだ昼だと言うのに、部屋のカーテンを締め切られ、みやびは暗い部屋でベッドに座っていた。高校生にもなった男女二人が暗い部屋で過ごす、そう聞くと、多くの高校生は様々は妄想を繰り広げることだろうが、暗いと言ってもみやびの部屋はそんな雰囲気ではないし、そもそも俺達の間柄も一緒に過ごす時間が長すぎて、そんな雰囲気は小学校の時にでも置いてきてしまっていた。


「はやく襖閉めてよー、お母さんに見つかると面倒くさいんだから」


 あぁ、確かに面倒くさいだろう。俺は襖を閉め、その部屋の異常になるべく警戒して、手土産に買ったコンビニのシュークリームを小さな丸テーブルの上に置いた。


「それで、こいつはなんだ?」

「あー、何買ってきてくれたのー。ってシュークリーム! いただきまーす」

「食べる前に、こいつの説明をしろ!」


 シュークリームがみやびの手に渡る前に、俺はコンビニ袋を取り上げた。みやびは一瞬頬を膨らませたが、なにかを聞き取ったような仕草をしてその物体を俺に紹介した。


「えーっと、この方はー……多次元? じょうほー、シネン体? っていうらしいよ」


 多次元情報思念体。


 目の前に浮かぶ、七色に発光しながら浮いている球体を、みやびはそう紹介した。

 大きさはビーチボールほどで、水の塊を無重力で浮かべたような感じでぐにゃぐにゃと変形している。向こうを見透かせるほど透明になったかと思えば、全ての光を吸収するかのように真っ黒になったり、とにかく落ち着きがなかった。

 俺がその物体について観察しているうちに、いつのまにかみやびはコンビニ袋を奪取していたようで、シュークリームを頬張って幸せそうな顔をしていた。


「それで……多次元情報思念体さんはなんでみやびの部屋に?」

「まぁまぁ、秀一もとりあえず座ってシュークリームでも食べなされ」


 シュークリームを渡される。みやびは多次元情報思念体さんにもシュークリームを少し分けていて、小さくちぎられたシュークリームはその球体の中で一瞬で粉になったかと思えば、次には跡形も無くなっていた。


「なんかねー、私みたいにたじーさんを見つけることが出来る人は珍しいんだって、だから遊びにきたって言ってる。今は人にも見つけられるようにしてくれてるみたい」

「たじーさん……遊びに……」


 それはもしかして多次元情報思念体のアダ名だろうか。


「そう、この私、現岡みやびさんは、遊びに来てくれる人はろうにゃくにゃんにょ誰だってウェルカムさ!」


 おそらく、老若男女と言いたかったんだろう。しかも多次元情報思念体さんは人ではないから当てはまらないのでは。


「まぁそんなこって、たじーさんは全ての物事を知っているらしいからー、なんでも教えてくれるらしいよ! 秀一も知りたいことなーい?」

「全てって例えば?」

「うーんと……宇宙の始まりから終わりまでだって。本当はもっと外の事も知ってるけど、私の理解できる言葉ではこれが限界……っていま私のことバカにしたよね? いくらたじーさんとはいえ、今日はじめましての私には失礼ですよ?」


 ヤバイ、これはヤバイやつかもしれない。なにがヤバイって、宇宙の始まりから終わりまで知っているたじーさんもヤバイし、それにケンカを売っているみやびもヤバイ。


「まぁでも、私は今一番知りたかったことを教えてもらったから、私とたじーさんはもう親友みたいなものですよ。無礼講無礼講」

「何を教えてもらったんだ?」

「明日の英語の小テストの範囲」


 あぁ、やっぱり。俺はみやびがバカ……いや、頭が弱い……いや違うな、みやびが勉強熱心で大変よかったと思った。


「あっ、あと地球がいつ爆発するのか教えてもらった」


 やっぱりバカなのかな?


「爆発するより先に、1万2000年後に隕石に粉々にされるってさー。ちょっと遠いよねー」


 遠いってなんだよ見たかったのかよ。まぁ後10年とか言われるよりはよっぽどいい。1万2000年後なんて人がいるかもわかんないし。


「ほらほらー、たじーさんも忙しいんだから、はやく教えて貰わないと帰っちゃうよー? 後一つ質問受けたら、行っちゃうってさ。私も寛大なのじゃ、最後の質問は秀一に譲ってあげるわん」


 ふざけてそう言うみやびに、だんだん一人でハラハラしているのが腹ただしくなってきた。なんでこの状況でみやびはへらへらとしていられるのか……。俺はしばらく考えて、少しみやびにお仕置きをしておくことにした。こんな大変なものを俺に見せておいて、ただで済むとは思うなよ。


「じゃあ、たじーさん。みやびの先週の英語のテスト、どこにある。たぶんこの部屋に隠してるはずだから」


 そう言い終わると、たじーさんは瞬時に部屋から消えた。その代わりに小さなテーブルの上には綺麗に4つ折りにされた紙が残り、笑顔の俺と、それを見つめる死んだ瞳のみやびだけが残った。俺はその紙を開いて、中を確認する。


「しゅ、秀ちゃん? いったいそれをどうしようと……」


 恐怖のあまり昔の呼び名になっていた。けど俺は、笑顔を絶やさず今回の件について反省してもらう。


「みやび、なんでも知ると言うことは、ずっと怖いことなんだ。もしみやびのお母さんが、たじーさんみたいになんでも知っていて、みやびのテストの点数も全部知っていたらどう思う?」

「……私、死んじゃう」

「そう、みやびのお母さんも、悲しくて怒るだろうね。だって知りたくなくても、みやびが悪い点数を取るたびに、それを勝手に知ってしまうんだから。でも今日のみやびみたいに、テストの内容を先に教えてもらえば、それを防ぐことはできる」

「だったら! なんで……」


 みやびは最早涙声だ。


「でもそれ以上に、みやびがそうやってカンニング紛いのことをしているとお母さんはもっと悲しむと思うんだ。今まで採ってきた良い点数は嘘。あのみやびの誇らしそうな笑顔も全部嘘……。だからみやび、お母さんには、みやびが改めて勉強が苦手と言う事実を再確認してもらう」

「そんな! 秀ちゃん! 許して!」

「ごめん、全部みやびのためなんだ……せめて明日のテストでは、罪滅ぼしに良い点を採ってくれ」

「秀ちゃん……、信じてたのに……」


 膝を付いて泣くみやびに、なんかの映画かよ。というツッコミを心の中で入れながら、俺はその部屋を出た。

 みやびのお母さんにテスト用紙を渡し、今は頑張って勉強しているから、怒るのもほどほどにしてくださいという旨を伝え、家を出る。まぁ、本当に勉強してもしなくても、テスト範囲を知っているならばそれならの点は取れるはずだ。


 俺はカーテンが閉めっぱのみやびの部屋を見上げ、帰路についた。


◇  ◇  ◇


 俺は自分の目で見たものしか信じない。UFOも幽霊も嘘っぱちだ。


 だけど、特異な性質をもつ友人のおかげで、多次元情報思念体こと、たじーさんの存在は、信じることができる。

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