第七話 小休止


 フシルと舞桜はトボトボと歩いていたのだが、不意に舞桜がひきつった顔で尋ねた。

 「テレーザよ」

 「なあに?」

 「なぜ、日が沈むのとは逆方向に進んでいるのだ?」

 「私の勘がそう告げているからよ」

 とりあえず、舞桜さえ封印できそうな適当な場所があればいいと思いながら進んでいた彼女はそう答えると、舞桜が言った。

 「なるほど。して、汝はどうしてやる気のない顔をしているのだ?」

 「……疲れたからよ」

 「この程度で根を上げるとは、モヤシだな」

 「も、モヤシ!? モヤシってなによ。ひどいわね……」

 それでも、反論する元気もあまりない。それゆえ、情けない声でそう言ってしまった。

 「テレーザ」

 「なあに?」

 「そろそろ暗くなってきた。休もうではないか」

 舞桜に言われ、彼女が空を見上げると、日が傾き始め、開けた草原とはいえ、獣が潜んでも見えにくい時間となっていた。

 「もう、こんな時間……?」

 「うむ」

 舞桜は一瞬で大きくなると、巨大なオオカミの姿で丸まり、尻尾でフシルを抱き寄せ、自分にもたれかからせた。

 「少し休むとよい。食事は大丈夫か?」

 「非常食があるわ」

 そう言いながら取り出した乾パンと干し肉、そしてチーズ。乾パンに干し肉とチーズをのせ、ゆっくりとかみしめながら食べる。

 「舞桜は食べないの?」

 「言っただろう。我は妖刀。食事をすることは魔力をとる、ということ。だが、動かぬ限り消費しないわけで、勇者どもから奪い取った魔力で今は十分だ」

 「ふーん……」

 フシルはもぐもぐと非常食をかみしめていたが、口を尖らせた。


 「スープが食べたい」


 「魔法で水を沸かし、そこに具材を投入して塩コショウで味付けし、ミルク……いや、チーズを入れてチーズスープを作ればよい」

 「……そうね」

 「無理に歩くからだ。ほら、足を見せてみろ」

 ブーツを脱いでソックスを脱いだ彼女は水ぶくれができた足の裏を見て顔をしかめた。

 「はぁ……歩きなれない道って大変ね」

 「そうだな」

 「ねぇ、どこに向かっているか知っているの?」

 「なぜ、我が? しかしながら、流れるままに流浪するのも悪くないと思うがな」

 「……調子狂うわ」

 「それは、汝の元気がないからだ」

 「うるさいわね。ちょっと休んだら出発するわよ!」

 「こんな暗い夜道を? 夜は強力な魔物が活発化するから、迂闊に動かぬほうが身のためだぞ?」

 「うっさい!」

 フシルはソックスとブーツを履き直し、魔法で無理やり足の水膨れや痛みを癒し、立ち上がった。

 しかし、その場に倒れこみ、彼女は動かなくなった。

 舞桜はあきれたように彼女を見つめ、ゆっくりと咥えて持ち上げると、スンスンと鼻を鳴らし、匂いを頼りに歩き出す。


 (まったく、この娘も強情だな)


 他人のことは全然言えないが、舞桜はフシルを連れて草原を突き進んでいく。

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