第三話 よし、捨てよう


 (何なのかしら)


 手にした剣を花火の彩る空へとかざし、淡く桜色がかった銀の刀を見つめる。


 ――もう一回、封印しておこう。


 台座にぐさりと刺し直した彼女は何事もなかったように帰ることにした。

 「ちょっと待ってくれ」

 勇者ルーネスに呼び止められて迷惑そうに振り返ったフシルは、必死に抜こうとしているが、フシルにはもう関係のない話だと割り切って、見ないふりをしながら祭壇を降りようとした。

 しかし、ふわりと剣が彼の手元から消え、桜の花びらだけが残った。

 「……消えた?」

 「はい?」

 彼女が驚いて振り返ると、すぐ後ろにちょこんとお行儀よくオオカミが座っていた。薄桃色の変わった色をしたオオカミだ。


 「むぅ、置いていくでないぞ、主よ」


 オオカミの口が動き、言葉が発せられた。フシルは凍り付き、頬をつまみ上げ、引っ張って現実かどうか確かめる。

 「痛い……」

 「ぷっ、間抜け面をするのだな、主よ」

 「……喋った」

 「うむ、喋るぞ。我だって主と言葉を交わしたいものだからな」

 「あなたが、聖剣?」

 「む? 聖剣? 我が? 聞いて驚け。我こそは妖刀七辻の一柱にして、名を『舞桜』という」

 「……チェンジで」

 フシルは冷ややかに返した。

 「ぜひともチェンジで」

 「待った。なぜだ!? 人は我を手に取って喜んだものだぞ?」

 「妖刀風情が、なに、仰々しく祭壇に突き刺さっちゃっているの? おかげで、みんな聖剣だと思ったじゃないの」

 「む? 我は悪くないぞ。あれは、前の主が我を祭壇に突き立てて、処刑されたのが悪いのだ」

 「……処刑?」

 「うむ。ここはそもそも、旧統一王朝時代の処刑台だ」

 ルーネスが顔を引きつらせていた。彼女も低い声で尋ねる。

 「処刑台? って、あの?」

 「うむ! 首を刎ねるための台だぞ? 一家全員を横に並べて魔法で首を刎ねていたものだ。反逆罪とか、そういう名目で、な。わが主はいかんせん、殺しすぎたのだな。逆に遺族から恨まれ、冤罪で捕まったやつまで処刑したら、殺人罪で処刑されてしもうた」

 フシルは小さく微笑んだ。


 「やっぱり捨てるわ」


 決意は変わらない。

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