序章
大内裏での噂
時は
そんな
「なあなあ知っているか? 大納言様の姫君は、大層な美人らしいぞ」
「何? それは誠か?」
「ああ、なんでも姿形は夕顔のように美しく、
「そうか、ならば今すぐにでも
ここで会話が途切れる。否、聞いていなかった。
雅晴は早足で歩いていた。
(おい、そこのボンクラ貴族ども。真っ昼間から簀子で立ち話している暇があったら、仕事をさっさと終わらせてこい)
雅晴は心の中で、盛大に毒を吐いた。
一度でもいいから、言えるもんなら言ってきたい。
しかし雅晴は、半年前に
それに比べて先程の
それに、少納言は
御門のおわします
殿上人の中でも階級の差は当然あるのだが、殿上人か否かで、かなり変わってくることがたくさんある。
例えば、
ちなみに、雅晴の父、
というわけで、建ててから二十数年が経ち、ボロくなってきた邸の修理代と、数少ない使用人たちの給料、そして食費などの諸々で、父の俸禄は消えた。
総じて雅晴の家族は、カツカツの玄米生活をおくっていたのである。
おおっと話が逸れてしまった。
というわけで、閑話休題。元に戻ろう。
今の状況を説明すると、簀子で立ち話をしていた二人の公達の話を、通りがかった雅晴が、たまたま聞いていた。だけである。いや、盗み聞きと言った方が正しいか。
雅晴は毒を吐き、呆れつつも少しだけ仕方がないか、と思った。
貴族の楽しみは、権力闘争と色恋。だけ。
だからと言ったらアレだか、摂関家やそれに連なる一族の者は権力闘争を繰り広げ、権力闘争する・しないに関わらず、貴族の男は理想の女性を求め、訪ね歩く。
乱れている!
と思わなくもないが、それがこの時代の貴族の
ゆえに、貴族の男は常に女性の姿を垣間見たり、“どこそこの姫が美しいらしい”などの噂にかなり敏感だった。
それでも、暇を持て余している殿上人のつまらん話と一蹴しかけたとき。
ふと、雅晴は顔を上げた。
書物で隠した口元は、何かを思案するように動く。
「大納言家の姫、か………………」
◆◇◆
「
不意に呼び止められた。
後ろを振り向くと、見知った
(主上――――
雅晴は心の中で呟いた。
それはすぐに参らねば。
「ありがとう、
「はっ」
舎人―――和太の気配が遠ざかる。
それを見送った後、雅晴は踵を返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます