第十一話「人間界」

 でかい。というか高い。


「なあシオンお前の国って巨人にでも襲われてんのか?」


「この壁... 三重になってたりする...?」


「え?さ、 三重? あー、巨人ってサイクロプスのことかな。年に一度来るか来ないかだね」


 上を見上げれば邪龍の高さに届きそうなほど高い壁があった。それが円形状にぐるりと囲むように続いている。


 ここはシオンの住んでいた国、帝国と呼ばれるところらしい。目の前にはどでかい門があり、何人かが見張り役として立っているようだ。おそらく関所みたいなものだろう。


「じゃあ僕が話をして来るからここで待ってて」


 そう言うとシオンは見張り役のところへかけて行った。






 山を越え〈テレポート〉、海を越え《瞬間移動》、谷を越え〈テレポート〉、砂漠を越え《瞬間移動》、やっとの思い?で俺たちは人間界にたどり着いた。


〈テレポート〉や《瞬間移動》は一度行ったことのある場所と視認できる場所にしかとべない。

 リリィーは人間界に入ったことがないというため、視認できる場所へ飛びながら来るしかなかった。(十分ズルい)






 話が終わったのかシオンがこちらに手招きしている。俺たちは見張り役の案内によって、どでかい門――の右側にある小さなドアを通された。


 あれ?あの門は?


 俺が門を眺めていたのに気づいたのかシオンが耳打ちで教えてくれる。


「あれは部隊を出撃させる時とかにしか基本開かないよ。普段はこっちのドアを使って行き来するんだ」


 なるほど。確かに数人の移動であれを開け閉めするのも面倒だろうしな。




 関所を抜けると街が広がっていた。中央には大通りがあり、左右にも道が続いている。


「広いなー」


「人が多いわね」


 人々は左右を行き交い、商売人が客の呼び込みのために声を上げている。活気のある街のようだ。


 おっと。いつまでも突っ立っているわけにはいかないな。通行人の邪魔になってしまう。


「さて、どうする?」


「僕はすぐにでもこれを金に変えてくるからみんなは自由に観光でもしていていいよ」


「あっ、私も用事があるから2人で観てくるといいわ」


「えっ? そうなのか」


 魔王が人間界で用事?

 なんかこのワードだけ見ると物騒だな。いや、リリィーの性格からしてないか。


「なら、また後でだな」


「「うん(そうね)、また後で」」


 それだけ言い残すと2人は街中の方へ消えて行った。

 あいつら仲良いな。


 残されたイブに視線を向けると、イブがすでにこちらを見つめていた。どうするかは任せるという事らしい。


「とりあえず歩くか」


「わかった...」


 イブの表情が心なしか明るい。

 取り残された俺とイブも2人の後を追うよう街中へ向け歩きだした。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 不思議なもんでしばらく歩いても、先に街中に入ったはずの2人は一向に見えて来ない。ゲームやアニメでは普通でも、リアルだと手品を見せられている気分だ。


 思考がくだらない方へ向かうのを感じながら、ぼーっと歩いていると。店の呼び込みしていたおっちゃんに声をかけられた。


「よぉーー兄ちゃん、冒険者か? 服は良いもん着てるみたいだが武器がねえみたいじゃないか。よかったらうちの店に寄っていけよ。安くするぜぇー」


 おっちゃんは綺麗なサムズアップを決めると、ニッと口角を上げた。


 武器か。使えるかは別として、どんなもんがあるのか見てみたいな。

 実はシオンからある程度の金は貰っている。俺とイブは一文無しだったので本当に助かった。観光するにしても見るだけというのは味気ない。


 目的も無くぶらついていただけだった俺たちは断る理由もなく、おっちゃん店主に案内され店に入った。


「まず、一番最初に兄ちゃんオススメしたいのはこいつだな」


 差し出された物に《鑑定》をかける。




 名 前: マジックバック

 効 果: 見た目より多くの物が入る。




「こいつはマジックバックっていってな。見た目よりずっとたくさんの物が入るんだ。冒険者には必需品だぜ」


 俺は冒険者じゃないんだけどな。まあ便利そうだし、手渡されちまったから試しに使ってみるか。

 肩から腰にかけるように腕を紐に通す。


(スキル《亜空間》を獲得しました)


 ...え?






 俺はそっとバックを外すと無言でおっちゃんに返した。


「ど、どうした? 何か気に入らなかったのか?」


「いえ、その... 同じ物が家にあるので...」


「そ、そうか?」


 今しがたスキルを取ったのでいりません、なんて言えるわけがない。あまりに無理がある言い訳だったが助かった。これ以上追求されても答えられなかったろう。

 それにおそらくこのスキルは世間一般に知られていない。じゃなかったらマジックバックなんていらない子だからな。シオンやリリィーも持っていないようだったし。イブは分からない。




「武器とか装備品を見せて貰っていいですか?」


「いいぞ。武器はそこらへん。防具はあっちの棚にある」


「ありがとうございます」


 早速、すぐ近くにあった剣を手に取ってみる。


 まず、王道にいくとしたら剣か。

 しかし、持ってみて思ったが違和感がすごい。きっとこれは、俺が竹刀どころか木の棒すら振ったことが無いからだろう。こんな長いものを扱うのは初めてだ。


 他にあるのは槍、斧、鎌、弓。


 うん、ダメだな。どれも短期間で扱えるようになるもんじゃ無い。


 なら短剣か。武器自体が小さく小回りが利くから、この中だと一番扱いやすいだろう。

 短剣なら戦闘以外でも使えそうだしな。サバイバルナイフみたいに。

 いくつか種類があるみたいだがこれでいいか。


 俺は短剣の並んでいる棚から比較的丈夫そうで、癖のなさそうなシンプルなデザインのものを手にとった。


 本当は拳につける籠手のような物があれば良かったんだがなー。


 籠手と聞いて一番最初に思い浮かぶのは防具だと思うが、ここでいう籠手は武器として使うものだ。拳闘士が使うような物を想像して欲しい。

 店には置いていなかったのでしょうがない。そもそもモンスター相手に使うもんじゃないだろうしな。たぶん対人戦用だ。


 それから防具に関しては今着ているコートが良い物なので変えるつもりはない。

 さすが魔王城にあったものというべきか、他の装備とは一線を画していた。






「イブはなんか欲しい物はあるか? シオンの金だしなんでも買っていいぞ」(最低)


 自分はもう買うものがなくなったのでイブに聞いてみる。

 イブは無言で頷くとアクセサリーのあるところまで歩いていった。俺もその後に続く。


 しばらく見て回っていたが、指輪を2つ手にして戻ってきた。一つを自分の指にはめ、もう1つを俺へと差し出す。


 付けろってことか?


 そろそろ癖なってきた《鑑定》をかけながから、指輪をはめる。




 名 前: 幸運の指輪

 効 果: 装備者に幸運を与える




(スキル《強運》を獲得しました)




 ...デジャブ




 俺が指輪をはめたのを確認すると、イブは満足そうに頷いた。

 それを見て俺はおっちゃんに声をかける。


「すみませーん。会計お願いします」


 まあ、別に指輪はアクセサリー目的だしな。そんな言い訳を考えながら俺は会計に向かう。


 結局、指輪2つと短剣を3本買った。

 短剣をいくつも買ったのは2本持ちで戦う可能性と、スペアをのことを考慮した結果だ。

 扱いはあとでシオンにでも聞こう。


 その後おっちゃんの元気な挨拶によって俺たちは送り出された。




「良い買い物した...」


 イブは指輪を買って貰えたからか先ほどから機嫌が良い。


「なあ、イブ。ギルドに行ってみていいか?」


「いいよ... 確かあそこにある...」


 俺がギルドの場所を知らないと気づいて教えてくれる。イブが指差した方向には他の建物に比べ、大きい建物があった。

 気がきく奴。感謝の気持ちを伝えるため軽く頭を撫でると、髪がさらさらと指をすり抜けていく。

 おぉー、すげーと思わず感動してしまった。なんだこの柔らかい髪。


 いかんいかん。早くいこう。イブが名残惜しそうにこちらを見ていたが気づかないふりだ。やめ時がわからなくなる。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 ギルドに着くと男どもの喧騒がなり響いていた。

 予想通りというか、やはり男女比はかなり偏っている9:1くらいだろうか。受付嬢をたせば8:2くらいにはなるかもしれない。

 まだ昼間だというのに呑んだくれているやつもいる。


 すげー、まさに冒険者ギルドって感じだ。


 入り口のところで見入っていると後ろからドスのきいた声がとんできた。どうやら入り口を塞いでしまっていたようだ。


「おい、詰まってんぞ」


「え、あーすみません」


 おっと、これは初心者つぶしのイベント発生かー!と思いきや、彼は何事も無く受付へ歩いて行く。

 良い人かい! まあ、これで喧騒になる方がおかしいのかもしれないが...


 どうしよう、冒険者登録するわけでもないので手持ちぶさただ。


 雰囲気を見たかっただけなので、帰るかと踵を返した時、柱に括り付けられているスピーカーが大音量で流れ始めた。外からも聞こえるので、どうやら街全体に流れているらしい。


〔緊急連絡!緊急連絡! サイクロプスが街へ進行中! 街にいる冒険者の皆さんはすぐに街の南門へ集まってください! ギルドの強制招集を発令します! 繰り返します――

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