第5話Separately 夫々
5.
じらさないで、早くその先を……と思いつつ、何も言わず水谷さんの
次の言葉を待った。
信じられないその女は何と?
聞きたくないことを聞かされるのではないかという怖さ、不安を
抱えながら、それでもやっぱり早くその続きを……と私は思ってしまった。
◇ ◇ ◇ ◇
「実は大倉さんに夜這いしてたんですぅ。ふふっ。
だけどぅ、『お前ここで何やってんだぁ、自分の部屋に戻れ!』って
追い出されたんですよね。
んでぇ、一度はこの部屋に戻って寝ようとしたんですけど
私ぃ、あきらめらんなくてぇ。
だってこんな同じホテルにお泊りできるチャンスはまたあるかもぉ
……だけど、大倉さんがひとりっていうチャンスはもう来ないじゃ
ないですか。
最後のチャンスなのにこんなに簡単に引き下がれないって思って
もう一回部屋に入ったんですよ。
そしたら大倉さん可愛い顔して爆睡中でした。
もう嬉しすぎて……大倉さんの横に入って朝まで一緒の布団で寝てました。
あ~、あたし めっちゃ幸せ~。(はーと)」
「って馬場さん悪びれもせず、そう言ったんです」
5-2
「『朝起きた時、大倉係長は何て言ったの、あなたに……』
って彼女に聞きました」
「あははっ、むちゃくちゃ驚いてましたけど……こういうの
後の祭り? っていうの?
あはは、思い出したらまたおかしくなってきたぁ。
『早く自分の部屋に戻れ』って言われました。
ちょっと焦ってたかもぉ。
まぁ、一緒に寝ただけでなんもありませんでしたけどね。
でも、大満足」
「馬場さんの話に私もう、すごく脱力しました。
何もなかったようなので逆に私も奥さんにあの日のことを
こうやってお話できるんですけどね」
「そんなことがあったんですかぁ~」
何もなかったようだと言われてもなんだかなぁ~、すごく嫌な気持ち。
それはその馬場という人にもだけどあまりにも無防備な夫に対しても。
夫は確かに悪くないと思う。
据え膳に手も出さなかったわけだし、水谷さんの解釈通りならね。
だけど……だけど、何か釈然としないよ。
もやもや感が半端ない。
「まだお話に続きがあるんですけど、大丈夫でしょうか?」
へっ、まだ続きがあるンかい?
思わず心の中で突っ込んじゃったよ。
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