わたし、嘘つくのがうまいの。

ソーダ

第1話はじまりの日

5月の暑い日。温暖化に拍車がかかり、30度を越えている。

プールサイドに設置された、ひさしできっちり影になったベンチに座り、史織は切り出す言葉と、その言葉に合うリズムをさがしていた。なるべく効果的に同情を誘うように語ろうと決めていた。

プールの授業が開始するのは、まだまだ先の7月頃なので、プールに張った水は、長い間に溜まった深い緑色をしていた。濃い水というのは光をよく反射して、空の雲も薄っすらと映っている。

こんなに周りの様子がよく見えるなんて、わたしって冷静だなあ。

そう、香沙薙(かさなぎ)史織は思っていた。

水面に視線を這わせ、そのまま、グイッと頭を上げて、空を見上げ、青い空が視界全体に上下左右まるーく広がっている。

こんなに気持ちがいい日にわたしは決心しないといけないし、わたしの状況に彼を巻き込もうと考えている。ドロドロとした感情がこれほどに合わない日はないだろう。


道山習(みちやましゅう)は、隣の幼馴染がプールと空を交互に眺めながら、いつまでも一言も言葉を発さないために、ずっと長い時間、待たされていた。隣の史織の顔は長い髪と日陰のせいで、よく見えない。プールが輝きすぎて目が眩んでいる。

多分、史織はもう今日はなにも話さないし、このまま帰宅するのだろう。空の雲の緩やかな流れと、プールに浮いた葉っぱやゴミやらの風に揺らぐ様を楽しく観察し、もしかしたら微かなさざ波の音が聞こえるかもしれない。もしかしたら、ただただ感性を磨く日になるのかな。

喉がそろそろ乾いてきたなあ。飲み物を買いに行くことを史織に提案して、この場は解散にしようか。それともまだ待ったほうがいいのか。

逡巡している習だった。

帰りのホームルームの前に突然の否応無しの呼び出しで、それも今まで待ち合わせたことのないプールサイドを指定されたとなると、愚鈍な習もその深刻さを薄っすらと感じている。

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