死んだ恋人と愛し合うことを誓えますか?

青キング(Aoking)

第1話

 彼は仏壇に供え物をする彼女を、切ない気持ちで眺めていた。

 黒漆な髪の毛、きめの細かい肌、しなやかな柳腰すべてがいとおしい。しかし彼は彼女に触れることができなかった。

 仏壇に置かれている写真が、自分の慰霊という非情な現実があったから。

 かけがえのない彼女との時間を、追い返すことなど不可能な死という悪魔が根こそぎ奪っていった。

 仏壇がこの家に来たのは、まだ三日前のことだ。他人からした感覚なら三日なんて短い。

 だが彼には三日は、どうにも長かった。

 彼女に話し掛けることも触れることもできず、ただ彼女を見続けるだけというのは何とも切なくて、例えば高級レストランで食べたいもののイメージ図だけが出されることと何ら差異はない。


「あなた、仕事に行ってきますね」


 彼女は仏壇に目をつぶり両手のひらをくっつけたあと、明るい声でそう言った。

 そのまま靴に履き替え外に出て、玄関が閉まる音が無人の家に侘しく響いた。

 いってらっしゃい、という日常あるはずの見送りの一言さえ彼は彼女に伝えることができない。

 特別な幸福が欲しいわけではないのに、現実は無惨だ。神様は陰険だ。誰もが神様の下で、操り人形として操作されているだけだ。彼は神様という偶像を強く批判した。

 ただその批判も、自身を慰めるための方便に過ぎないのだが。

 

  

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