良いんじゃないかな

「今日はこれ!」


 勢い良く開かれる居間のドア。


 ソファに並んで座っていた、同じ顔が注目します。


「どう? このコーデで」


 バタバタと部屋に入って来た佐美さんは、三つ子なので自分と瓜二つの 姉2人の前で立ち止まりました。


 両手を腰に当てた姿勢で、ソファに座る次女の多美さんに 軽く顎を突き出します。


「どう? たぁー」


「よ、良いんじゃないかな」


 佐美さんは満足気に頷きながら、長女の奈美さんの顔を見ます。


「なぁーは?」


「可愛いですね♡」


 胸を反らした佐美さんは、会心の笑みを浮かべました。


「アイテムのリストは、もう2人のスマホにメールで送ったから!」


「早速、私も着ないとですね」


 いそいそと、ソファから腰を上げる奈美さん。


 出口に向かって歩き出そうとした瞬間、その足が止まります。


「─ 多美さん」


「何?」


「お出掛けするんですから、早く着替えて下さい。」


 多美さんは、ノロノロと立ち上がりました。


「そ、そうだね。。。」


----------


「どうですか?」


 静かに開かれた居間のドア


 部屋に入って来た奈美さんのコーディネートは、頭の先から爪先まで、佐美さんと同じでした。


「なぁー、可愛い!」


 鏡像の自分の様な姿を、佐美さんが褒めちぎります。


「たぁーが揃えば、三つ子コーデの完成だね♡」


----------


「…何で着替えてないの!?」


 恐る恐る居間のドアを開けた多美さんに、佐美さんは駆け寄りました。


「たぁー?」


「えーっとぉ」


「コーデに不満があるの?」


「そ、そんな事は…」


 多美さんが部屋に入って来ようとしないので、佐美さんが腕を掴んで、引っ張り込みます。


「じゃ、何?」


「わ、私には、合わないかなって。。。」


「─ 同じ容姿の私には、似合うって言ったよね?」


「…」


 何も言えないでいる多美さんの背中を、奈美さんが指で突きます。


「お部屋、見て来ました」


「え?」


「必要なアイテムが、探せなかったんですよね?」


「そ、そんな事は…」


 奈美さんは、硬直している多美さんの顔を覗き込みました。


「部屋は、片付けた方が良いですよって…私、言いませんでしたか?」


「お、仰いました…」


「服も満足に探せない程、散らかすなんて。。。」


----------


「たぁー ってさぁ…」


 佐美さんが、多美さんの鼻の頭を 右手の人差し指で強めに押します。


「─ 三つ子たるもの出掛ける時には、お揃いの服を着るべきだって、いつも力説してなかったっけ?」


「そ、そうだったかな…」


「お揃いコーデが出来ないって事は…三つ子失格って事で、良いよね」


「…え?」


 奈美さんの左腕に、佐美さんは右腕を絡めました。


「なぁー」


「何ですか? 佐美さん」


「残念ながら私達、双子になっちゃったみたい」


「そうみたいですね」


 口をパクパクする多美さん。


 目で申し合わせた奈美さんと佐美さんは、部屋の出口に向かって歩き始めました。


「お出掛けは、2人でしましょうね。佐美さん」


「そうだね。」


「ちゃんと、ファッションもお揃いですし」


「双子コーデ、だもんねー♡」


 ドアを閉める寸前に振り返った奈美さんが、笑わない目で多美さんに微笑みます。


「三つ子失格の多美さんは…お留守番して、お部屋を片付けて下さい。」


「そ、そんなぁ。。。」

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