気にしません♡

「誰さん?」


 学校の廊下を歩いていて、背中を指で突かれた佐美さん。


 振り返った先には、全く同じ姿形の女の子が 微笑んでいました。


「佳子です。佐美姉さま♡」


 佐美さんの口から、疑問の声が漏れます。


「同級生で、三つ子の末っ子の私が…何で姉さま?」


「5人の中では、佳子が1番精神的に、年下ですから。」


「でも、かぁって…双子の姉、なんでしょ?」


「戸籍上の話なんか、私 気にしません♡」


----------


「お二人さん! 異姉妹交流?」


 佐美さんと佳子さんは、声のした方を同時に見ました。


 ゆっくりと、近づいてきた言葉の主。


 それは、2人と見た目が 全く同じ女生徒でした。


「誰さん?」


「た、多美姉さまですよ? 佐美姉さま!?」


 血の繋がった三つ子の姉の区別が付かない事に、驚く佳子さん。


 多美さんの顔に、苦笑いが浮かびます。


「佐美ちゃんは…私と奈美ちゃんの区別、見ただけでは付かない人だから。」


「え…そうなんですか?」


 佐美さんは、必死で反論しました。


「お、同じ顔なんだから…見ただけで判んないのが、当然だから!」


----------


 話題を変えるかの様に、多美さんが口を開きます。


「ところで、私を姉さまって呼んでくれてるから…佳子ちゃんだよね?」


「そうです♡」


「ごめん。うちの2人と、双子ちゃんの区別は出来るんだけど…」


「─」


「亜子ちゃんか佳子ちゃんかの見分けは、まだ付かなくて。。。」


「…仕方ありませんよ。同じ顔の2人ですし!」


 ニコニコしている佳子さんの顔を、多美さんは覗き込みました。


「でも…佳子ちゃんは、私達3人の区別 付いてるよね?」


「はい!」


 佐美さんの頭に、長女の奈美の顔が浮かびます。


「なぁーも、そうなんだよね…」


 同意して頷いた多美さんは、目だけを佳子さんに向けました。


「そういうのって…なんかコツでも、あるの?」


「愛の力です♡」


----------


 暫くの沈黙。


 ぼそっと多美さんが呟きました。


「…その理屈で行くと、佐美ちゃんが私達を見分けられないのは…愛が足らないからって事だね。」


「たぁー!」


 涙目で叫ぶ佐美さん。


 佳子さんが、取りなす声を出します。


「私達誰も、佐美姉さまの愛 疑ってませんから!」


 今にも大泣きしそうな佐美さんに、多美さんは必死で謝りました。


「ご、ごめん佐美ちゃん、ほ、ほんの冗談だから!」


 涙が滲んだ目で、佐美さんはそっぽを向きます。


 多美さんは、猫なで声で擦り寄りました。


「学校終わったら…佐美ちゃんお気にの<カフェ敦賀>に行こ?」


 察した佳子さんが、慌てて調子を合わせます。


「わ、私も、ご一緒させて頂きます。佐美姉さま!」


 下唇を噛んだ佐美さんは、横目で2人を見ました。


「でも私…もう今月は、あんまり お小遣い、残ってないし…」


 多美さんが、佐美さんの耳に口を近づけます。


「…紅茶代にプラスする、ケーキセット代、私が出してあげるから。。。」


「え、ホント?」


 すっかり機嫌が治った佐美さんは、手の甲で涙を拭いました。


「じゃあ、今日の放課後、3人で<カフェ敦賀>で お茶ね!」

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