双子と三つ子

紀之介

双子と三つ子のお話

そわそわと

「ちょっと、緊張してきたかも…」


 まだ、人影もまばらな講堂の玄関ホール。


 入学式会場に足を踏み入れるや否や佳子は、そわそわと落ち着かない様子を見せ始めました。


 私が密かに噛み締めていた、高校と言う新天地に立った事への感慨には、微塵も気づく素振りも見せず。


 またかと呆れながら、案内板を目で辿って あるものを探します。


 目的の場所は、廊下の少し奥にありました。


 他人には ほとんど同一人物に見えるらしい双子の姉に、私は耳打ちします。


「まだ時間あるし、行っとけば?」


 佳子の視線は、トイレの存在を示す表示に移動しました。


「亜子ちゃん。待ってくれないと、駄目だからね!?」


 真新しい私の制服の袖の先が指で摘まれ、言葉に合わせて引っ張られます。


 頷いて見せる私。


 安心した佳子は、微妙な早足で歩き出しました。。。


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「…先に家を出た私より、何で早く着いてる訳?」


 廊下に掛けられた絵を眺めて 待ち時間を潰していた背中に、掛けられる声。


 振り向いた目に入ったのは、私と同じ姿形の人間でした。


「か、佳子? い、いつの間に…廊下の奥のトイレから 玄関ホールまで移動したの!?」


 私の問い掛けに、質問が返されます。


「たぁ なの? それとも なぁ??」


 困惑して、沈黙する2人。


「おーまーたーせー♡」


 そこに、もう1人、同じ容姿の人物が登場します。


「あ、亜子ちゃんが…ぶ、分裂してる!!」


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 人の出入りが増え始めた入学式会場の玄関ホール。


 三すくみ状態の、同じ姿形の3人の女子。


 物珍しげな視線が 間欠泉の様に投げかけられるのを、私は ひしひしと感じ始めます。


 その時、ホールに声が響きました。


「とおちゃーくぅ!」


「佐美さんが、先に着いてる筈なんだけど…」


 言葉を発した人物に注目する 私と佳子と、見ず知らずのそっくりさん。


 その先に立っていたのは、私達3人に瓜二つな 2人の女子生徒でした。


 3つの視線を受け、2人は目を丸くします。


「さ、佐美が…さ、3人に増えてる!」


「…いつの間にか私達、五つ子になっちゃったのかしら。。。」


 私の斜め前にいた、佐美さんと思わしき人物は、2人に駆け寄りました。


「たぁ! なぁ!!」


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 入学式終了の講堂の玄関ホール。


 私達は、お互いに自己紹介をしました。


「私は亜子。で、この子が姉の佳子」


「こちらが次女の多美さん。で、こちらが三女の佐美さん。私は長女の奈美です」


 正面に立つ、3つの全く同じ顔。


 私は思わず、驚愕の声を漏らします。


「三つ子さんって、珍しいですよね…」


「双子さんに、そんなに珍しがられても──」


 面白がる声の奈美さん。


 そんな事には感心を示さず、佳子が私の袖を引きました。


「…5人のそっくりさんだから、瓜二つじゃなくて…瓜五つだね! 亜子ちゃん♡」


 反応に困る私の耳に、佐美さんと多美さんの言葉が届きます。


「実は私達、生き別れの双子と三つ子だったりする?」


「家に帰ったら…親父さんと お袋さんに、確認してみるか。」


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「世の中には、自分と同じ顔の人間が 3人は いるって言うけど…」


 三姉妹と別れた後、私は佳子に呟きました。


「─ それが三つ子だとは、思わなかった。。。」

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