第16話 主人公中心の話はいつも真面目

 今日も今日とて、会議は開かれていた。


 それは、完全下校時刻まで。それは、お日様が今日の役目を終えるまで。それは、俺達の選挙準備が終わるまで。


 窓の外はもう真っ暗だ。


「どうだ、いけそうか?」


 敷町が椅子に腰掛け、頭の後ろで手を組む。


「どうだろ、やっぱり、本番は違うからね」


 だが、去年とは違うところがある。それは去年の経験があるかどうかだ。


 皆の前に立って喋る、何かを伝えるということは、シュミレーションだけじゃ何もわからない。それを去年学んだ。


 そして、何よりも……。


「でも、今回は一人でやってきたわけじゃないんだ。きっと大丈夫だよ」


「そうですよ! 私達をアイドルにしないで下さいね!」


 いつもと変わらないテンションの春咲。人前に慣れているのだろう。


「お前こそ、落選なんか承知しないからな」


「大丈夫ですよ。今年もちゃんと衣装を用意しましたから。それに」


「それに?」


「落ちても、折乃生徒会長が権限で入れてくれるでしょ?」


 ずるい奴だ。生徒会長という権力者にすがるつもりだな。


「俺はアンフェアは嫌いなんだ。落ちても助けはしないからな」


 今年はなるべく、権限を使うのはやめようと俺は考えている。長宮君は例外だが。


 なぜなら、今後も上門さんと争うことになるだろう。そんな状況で、生徒会長の座というのはあまりにも障害として大きすぎる。


 それで勝っても俺は納得がいかない。だから、やろうと思えば、一生徒を退学まで追い込める生徒会長の権力は放棄する。


 愚かだろうか。いや、愚かだろう。それでも、ずる賢い賢者にはなりたくない。


「まあ、正論ね。私も自力で上がってみせるわ」


 そう言って、意気込む一ノ倉は余裕があるように見えた。


「一ノ倉さんは楽勝だと思うけど」


 去年はぶっちぎりの票数で当選しているのだ。この人には敵わない、誰もがそう言う。


 カリスマ性があるのだろうか、俺にはただの綺麗な女の子だが。


「そうかもしれないわね。それでも、気を抜くつもりわないわ」


 そう言いながら、眼鏡をサッと外し、綺麗な茶髪が揺れる姿はとても決まっていた。


「さすが、先輩!」


☆☆☆


 立候補から二週間、色々なことがあった。いや、もう少し正確に言えば立候補前から、予想外のことがたくさんあったと思う。


 人生で初めての、挫折のような逃げたくなる衝動に負けたこと、誰かと力を合わせ何かを作って、何かを成し遂げようと動いてきた。


 ここまでの苦労、費やした時間を無駄にしてはいけない。


 だから、去年はできなかった、自力で生徒会へ入ってみせる! そして必ず、高浪先輩を俺達の生徒会で作り上げた文化祭に招待してみせる!


 明日は早い。もう寝よう。


 電気を消し、ベッドに潜ると意外と簡単に眠れそうで安心する。


 寝不足で演説に全然調子がでないなんてお話にならないからな。


 目を閉じ微睡みに身を委ねる。


 ーーーー。


「あっ、目覚まし時計セットしたっけ」


 一度電気をつけ、時計を確認する。


 大事な日の前夜あるあるである。


「よし」


 再度電気を消し、布団を掛け、目を閉じる。


 そう、選挙は明日に迫っていた。


☆☆☆


ーーーー。


 カチューシャがチャームポイントの放送部女子がマイクを片手に興奮して状況を報告する。


「出ました! なんと、上門真弓が、元副会長の折乃優人に二倍近くも票を獲得しています! これ程、圧倒的に元生徒会の人間が負けているのは、初めてかもしれません!」


 状況は絶望の淵まできていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る