第15話 後輩の扱いは難しい
授業終わりの休み時間、皆さんはいかがお過ごしだろうか。次の授業の準備、御手洗、友人との雑談もいいだろう。何も『正解』などはない。
しかし、それはすべきことがある人は例外だ。そのすべきことが優先されるべきであり、休み時間の合間にする『正解』だろう。
次の授業の準備をする俺には、『正解』がある。今日はまだ、春咲に謝罪できていないのだ。会議を身勝手な理由で欠席したこと、そして、心配させてしまったこと。
だが、下の学年の教室に行くのって上の学年の教室に行くよりもなんか恥ずかしいじゃん? しかも、呼んだ理由が謝るためだぜ。俺には、無理だー。だから、こうして、春咲が来るのを待つのだ。
そして、そんな意固地になっている俺に救世主が現れる。
「先輩!」
勢いよくドアを開けるのは当然、春咲である。いつもの上門に対する警戒もなく折乃に飛びつく。
「生きてたんですねー!」
そう言って折乃の腹に顔を埋める春咲。
「勝手に殺すな。後、離れろ、暑苦しい」
「いいじゃないですかー。心配したんですよ」
「それはすまなかった。昨日は迷惑かけた。ごめん」
「まあ、何かあったんでしょうから、許します」
そう微笑んで言うのだから、敵わない。
「そんなことよりも、年下の、それも美少女に抱きつかれるなんて、なかなかないんですから。味わっとかないと損ですよー?」
上目遣いでそう言う春咲を見て、少し意識してしまう。そんな感情を隠すように折乃は言う。
「そういうことは、少なくとも一ノ倉さんほどに胸が成長したら……」
デリカシーの欠片もないその言葉に反応する一ノ倉。
「私を最低ラインに設定するとはいい度胸ね、折乃君」
そう言って頬杖をついて折乃を睨む。
「い、いや。そういう意図があったわけじゃ……。助けて敷町!」
「モテる男は辛いな」
他人事のように言う敷町。
「どう見たら、そんなことが言えるんだ!」
☆☆☆
放課後、俺達の会議が行われた。今回は皆が揃って。
「皆さん来たし、始めましょー!」
そんな掛け声から始まる選挙対策会議。
「今日は巻きでいくわよ」
眼鏡をかけ、一ノ倉さんがそう言って皆のペースが決まる。
「よっしゃ、今日はポスターの決定だったな!」
敷町が場のテンションを上げ、そして、俺がこう言うのだ。
「皆、頑張るよ!」
☆☆☆
「まあ、こんなもんね」
出来上がったポスターを見て、一ノ倉は言った。
「いい出来だと思うよ」
皆でアイデアを出し合って完成したポスターは、俺が一人で作った物より断然素晴らしいものだった。
「とてもいいと思います!」
「なかなかいいんじゃないか」
春咲も敷町も納得のいく出来だと評価する。
「これで楽しい会議も終わりなんですね……」
さっきまで明るかった春咲の表情が突然暗くなる。
「何言ってるの?私達のやることはほとんど終わっても、折乃君はまだやらなきゃいけない事があるわ」
「じゃあ」
「まだこの会議は続けるわ。それとも、参加しないと言うなら別だけれど」
意地悪に言う一ノ倉さん、小悪魔ー。
「や、やりますよ!」
春咲の暗くなった表情がまた、明るくなった。
「それにこの会議が終わったとしても、生徒会室で会えるでしょう?」
一ノ倉の何気ない一言に気が引き締まる。
そうだ。
俺達は絶対に選挙に勝って、また集まる。その準備をしているんだ。負けるなどというネガティヴな考えは捨てるんだ。
「そうだぞ、春咲。俺達は勝つんだ。だから、そんな事言うなよ」
「はい……」
感極まって泣いてしまう春咲は涙を袖で拭い続ける。
「先生ー、折乃君が下級生泣かせましたー」
「女の子を泣かせるなんて、死刑よ。折乃君」
「告訴から死刑の流れが早すぎる!」
敷町と一ノ倉の漫才じみた会話の流れにツッコミをする。
「今日はもう帰ろうぜ。もう日が落ちてきてるし」
必死に話を逸らそうと、折乃が言う。
「はい!」
目の下を少し赤くして、春咲は笑顔でそう答えた。
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