第8話 嵐の前の静けさ
その日の放課後。
帰りの挨拶も終えたにも関わらず、教室は賑わって、いや、騒がしかった。
「選挙までギリギリ二週間ってとこだけど上門さんは何かマニフェストみたいなのあるの?」
机をくっつけ、どうやら選挙の話合いらしい。
「それを今から考えるんでしょう?」
女子達に囲まれ、上門は楽しそうだ。
「そうだったー」
何か楽しいイベントだとでも思っているのだろうか。こんな調子なら競争相手になるわけがない。
「敷町、帰ろうぜ」
さっさと家に帰って勉強しよう。
「お前は何か準備とかしなくていいのか?」
「まあ、大丈夫だろ。……あっ」
言ってからやっと気づいた。感じの悪い言い方をしてしまったということに。
折乃のセリフを上門は聞き逃さなかった。席を立ち、歩み、近づきながら言う。
「へえー。私、負けず嫌いなのよね」
言わんとすることはわかる。
舐めるな。そう言いたいのだろう。
「そうかい、頑張ってくれ。それより、選挙の立候補、今日までだったはずだけど、大丈夫か?」
まあ自分も今思い出したんだが。
だからなのだろう、春咲があれほど必死だったのは。
「そういうのは先に言って欲しいんだけど!」
そう言って、職員室の方へ走っていった。
「俺も行くか」
「つきそうぜ」
結局、学校を出たのは四時過ぎで、赤い夕日が沈もうとしていた頃だった。
☆☆☆
朝のホームルームで一枚の表が配られた。
立候補者の一覧だ。それを見たクラスメイト達がざわつく。
「今年はやけに、女子率高いな……」
田中君なんて鼻息荒立てて興奮しちゃってるよ。
「そうね。けど、わたしの立候補した書記は全く女子の候補者がいないわ」
一ノ倉さんも驚いているようだ。
まるで、もとの立候補者に女子だけ水増ししたような女子率。
何か生徒会ブームでも起きているのかと疑ってしまうほどだ。
「それに……」
「それに?」
「アイドルも参戦するのね……」
そういえば、今年の新入生が一人アイドルで話題になってたな。
「ええっと名前が……あった。
「そして、私が生徒会長で決まり」
そう言って机の前に立ち、胸の前で腕を組む上門。
「勝てるとは思えないけど?」
挑発的に答える。
「もう手は打ってあるわ。計画もある。少なくとも男子達の票はいただいたようなものよ」
拳を強く握り、語る上門。
「まさか……、まさか、この異常な女子率、上門さんのせいじゃないよね……?」
そしたら、書記の立候補者の女子だけ全然いない理由もなんとなく、納得がいく。
「さあ、どうかしら?」
そう答える上門の表情は、何かを企んでいるような意地悪な顔をしていた。
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