文化祭辺りまで

第3話 田中君!?

 朝の登校時というのは、どうにも憂鬱だ。理由はいくらでも思いつく。学校に行くのが面倒。まだ眠い。宿題をやっていない。いや、これは論外だが。


 そんな上がらない気分を紛らわせようと、誰かと会話を楽しむ。これは解決策にはならないが、改善策にはなる。


 皆もそれを無意識にか、承知しているのだろう。


 要は一人の登校はつまらないのだ。


 だからこうして、敷町とよく一緒に登校している。


「でさ、そいつがさ……」


 敷町との会話を一旦止め、扉を開ける。


 だが、そんな気分も吹っ飛ばしてしまうような光景が目の前にあった。


「ほうら、早くなさい!私が好きならできるでしょう」


 なんだこの状況は!?


 席に座る一ノ倉さんがすらっとした生足を突き出す、その姿は天使のようだ。


 その足に顔を近づける上門さんがいなければ。


「な、何してんの、上門さん!?」


「見れば分かるでしょ?足の甲に口づけするのよ」


 おおう。


 そこまで、きっぱり真顔で言われると、何もおかしい所が無いように思えてくるぞ……?


「怯むな、折乃!クラスの皆を見るんだ!」


 見渡すと、皆は一ノ倉さんの豹変に驚いていた。


 まるまると太い田中君が頬を紅潮させ、すごい眼差しで一ノ倉さんを見ていることを除けば。


「そうだ。この状況はおかしい!!正気を取り戻したぜ。サンキュー、敷町!」


「いいってことよ!」


 親指を立て、グッジョブと敷町は言う。


「何?折乃君も足にキスしたいのかしら」


「ええ!?」


 一ノ倉さんの悪魔的な提案に心揺れる。


 少し、少しだけ、なら……。


 いや、ダメだ!


 でも……。


 そう俺の頭の中で天使と悪魔が戦争を始める。


「迷うな!周りの皆を見るんだ!」


 敷町の声が葛藤を吹き飛ばす。


 見ると、クラスメイトたちが困惑しているのが分かる。


 涙を流しこちらを睨む田中君を除いて。


「は!?俺は何を!?素晴らしいものを得ようとするばかりか、社会的に何か失いかけたよ。助かったぜ。サンキュー、親友!」


「いいってことよ!」


 親指を立てる敷町。


 ガラガラと音をたてるドアから、先生が入ってくる。


「ホームルーム始めるぞー。席につけー」


 無気力に担任がそう言って、この騒動は収まった。

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