九/容疑者
改めて和久田は自分が一体何のために今こうしているのか考えた。衆人環視の状況下ではザインは使いたくない、面倒を避けるために……しかし奇妙な語法だ、ザインSeinは「存在(!)」であって、「存在するもの」はザイエンデスSeiendesだというのに……和久田が役に立ちそうなのは、向こうもそれを期待しているからいいとして、それこそパルタイについてやや多くを知っているという程度でしかない。だがその和久田でさえあの白いパルタイ、復讐の代行人を名乗ったというマリヤを知らないのだ。
考えれば考えるほど、一体なぜ首を突っ込んでしまったのだろうという思いが強くなる。フェルミはここ二日ほど出歩いていた。またパルタイとしての仕事があるのだろう。武藤については、正直にいえば、彼はあの女生徒をこの事件に巻き込みたくないとも思っていた。野卑な連中に武藤を引き合わせたくなかったし、人間に対する加害を一切躊躇わないあのパルタイの様子を見て、やはりこれも自分のような者が引き受けるべき敵であると思った。
何か得があるようにも思えないし、助けも見込めない。結局和久田はあの西門の顔、震えて今にも泣きだしそうな顔にほだされてここまで流れ着いてしまったのだ。
彼は今病院ロビーの端にある低いソファに座って、缶コーラのタブを開けたところだった。並んで座った戸澤がジュースの蓋を開けて、一口飲んだ。
「何か心当たりあるのか、戸澤」
「美羽……」
「なに?」
「間美羽っていたでしょ」彼女は言った。西門は他の面々と一緒に先に帰っていた。「今日来てなかった」
和久田は灰色のパーカーを着た綺麗な長髪の人物を思い出した。何か目をひくものがあったのだけは確かだが、それの何であるかは今もって和久田にはわからなかった。
「あいつがあの、パルタイと組んでるんだと思う」
沈黙。
しばらく口を鎖していた和久田は、こう聞いた。
「心当たりでもあるのか」
「まあね」
「光生がかかわってたり」そこまで言って、しまった、と思った。「いや、なんでもない」
「光生? いやあ」
戸澤はあらぬ方に視線を動かしながら首を捻ったが、ひととおりいかにもな思案の表情を浮かべてから、こんなことを言った。
「私は、知らないけど」
あまり考えたくないことだった。だが実際現状こうなっている以上は、そうなのだ。
西門は一体何をして、パルタイに付け狙われるほどの強い復讐への願いを持たれたのだろう?
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