07-03:アイリーシャ家にて
07-03-01:アイリーシャ邸
シオンとステラは迷宮のように複雑な立体迷路をスイスイ進むハシントについて歩く。これから向かうアイリーシャ家は近所ということだが……それにしたって遠回りにすぎないか。いやに迂遠な通路は歩いて登って下がって上がってもう訳がわからない。
「ハシントさん、ここは
「そうとも言えますね、ですが慣れれば快適ですよ?」
快適のしきい値が果てしなく高い壁ではなかろうか。いくら『住めば都』と言っても限度があるだろう。とてもこの街には住めそうにないとステラは思った。
「この街の人は大変だなぁ」
「お使いができて初めて一人前、みたいなものはあります。僕も最初は苦労しました」
「若様が7歳のときでしたね。可愛らしく探検される姿が思い出されます」
「ほえー、シオンくんにもそんな時代があったんだなぁ。当たり前だが以外だ」
ステラには前世があるが、ツギハギの記憶は胡乱で靄がかかっている。彼女は両親の顔も思い出せないし、親しい人の顔もわからない。また今生に置いてもはじめからこの
「うーん、吊橋渡ってアッチヘコッチなら、わたしジャンプして飛び乗っちゃうなぁ」
「ステラ様、それはお控えくださいね? 法で禁じられていますので」
「え、なんで? 楽じゃんな」
「ステラさんはそうかも知れませんが、子供が真似したら危ないでしょう? 落ちたら死にます」
「やめよう」
ステラが決断的に言い放った。幼い子供が危険な目に合うのは大変よろしくないし、そのように遊ぶなど容易に想像できる。
「そもそも、です。人の往来を縦横無尽に飛び交っては交通の迷惑ですよ?」
「そいつぁご尤もで。しかし猫には通用しないみたいだがね」
ステラが見やる先では、高低差を上手にジャンプして飛び降りる猫たちの姿がある。すばやくショートカットし、すいすいと人垣を縫うように歩いていた。また度胸のある猫は渡されたロープの上すらスイスイ渡り歩いている。
「流石に猫に法は無いでしょう」
「一応、不文律はあるんだがな。『己に自由たれ』っていう」
「……簡潔ですが意味を考えると深いですわ」
「ええ、自由とは『自分勝手にして良い』という事じゃありませんからね。本能的に理解しているのでしょう。だから波風は立っても津波にはならない」
「ですが若様、これは果たして波風でしょうか?」
ハシントを先頭にして、シオンとステラが続き……その後ろには野良や飼い猫たちがずらずらと行列を作って歩いているのだ。まるで猫の大名行列だ。これが通行人の目に止まらないはずがない。
「むふん、要人警護だってさ! わたしってば猫限定で有名人だからっさ~」
「猫限定でもないでしょうに……そろそろ見えてきましたよ」
見えてきた邸はハシントの家と似た作りの家だ。ただこちらは壁に蔦が這って、まるで森の隠れ家のような様相を呈している。
そんな家の入口では、肩口まである淡い青髪のエルフ少女が仁王立ちしていた。ステラの見立てで6~7歳の彼女は一体何者であろうか、彼女の視線はずっとこちらへ向いていた。正確に言えばシオンに対してだ。
(だれだろうな?)
親戚の子だろうか……それにしては準備が良い。ハシントが出迎えたときと同じなのは、イオリの『先見』によるものだとしても何故少女が待ち構えるのだろう。はてなと首を傾げるも理由はすぐに判明した。
「おかえりシオンちゃん! 元気だった?」
「ええまぁ。イオリ姉様も御加減宜しいようで」
「ふふん、シオンちゃんが来るから抜け出してきちゃった……でも生意気ね、私より背が高くなるなんて!」
「成長期ですからね」
(ふむん?!)
今なんつった。眼の前に居るのは明らかに小学生といえる女の子だ。彼女が言う通り幼く華奢でありとても『お姉さん』だとは思えない。仮想的『頼れるお姉さん』は何処へいったのだろう、ステラは混乱した。
「イオリ姉様。まずは挨拶を、同じ
「こんにちはイオリちゃん、よろしくね~♪」
「……」
イオリはステラをじいっと見つめた。それは懐疑であり、敵意であり、査定であり……ようするにお姑さんの目線である。結果イオリが下した決断は――。
「ふんっ、だ」
「おうふ?!」
拒絶である。子供に好かれやすいのに嫌われたステラは地味にショックを受けた。何故だ、初見で嫌われる要素はあったろうか。大体良い印象を持たれるものだが、これはなかなかに来る。ステラはなんともかんとも困りかけたのだが次の一言で態度を改めた。
「あなたにシオンちゃんはあげないんだから!」
「おうオラステラ! いっちょ
前言撤回、これは大敵である。明確な
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