06-10:V.O.R.P.A.L-NO.03 "PHALAENOPSIS"

06-10-01:螺旋砲塔

 ときは午後すぎ。日差しはすこし傾いたヴォルカニア火山の麓、町の近郊に突如顕れたのはローマ神殿パンテオンを模倣した建築物である。これはの企みによる一夜城シロモノであり、ステラ発の計画の要となる大型儀式魔法施設だ。


「名付けて『螺旋祭祀殿セントラルゲート』。あとで看板つくっとくか」


 ちなみにパンテオンでなければならない理由はまったくない。その場のノリで神殿っぽさをステペディアで検索したところ『神祖ローマ最高』『もちろん予だよ♡』『ぶち滅べカルタゴ』とあったので採用した次第である。

 なおカルタゴがなんなのかステラはわからないが、恐らく炉馬国ろーまノくにを荒らした石川五エ門的な盗賊がカルタゴさんと推測している。おそらく夕飯のハンバーグを盗み食いしたのだろう、ぶち滅べの当たりに怒り具合が見て取れるため明らかに確定している。


 そんなわけで大仰かつデカデカと、そして想像が許す限り繊細に作り込んでやったのがこの『螺旋祭祀殿セントラルゲート』である。観光名所によいランドマークとなるだろう。もちろん壁外故に危険は伴うが、物珍しさにやってきた物好きおきゃくに対し『ヲイデヤス』のノボリで機先を制すのもいいかもしれない。そんなトンチキにはトドメの銘菓『温泉まんじゅう』を絶賛大販売だ。これで街も客もウィンウィンの関係が築けるだろう。


(むふふ、温泉まんじゅう。むふふ)


 ズビッと涎をすするステラであるが、彼女がその架空の土産物を口にすることはありえない。そもそも小豆も大豆も似た品種がないので、銀シャリ飯と同じく創り出すのは困難だ。それに作り出せたとしても、このが終わり次第街を去る予定でもある。


 つまりこの施設をどう活用するかは残された人々次第、結果的に廃墟になる未来も十分にありえる。それこそ神のみぞ知る結末というものだろう。


「んじゃまぁ、そろっと始めようか。わるものの、わるものによる、わるもののためのいたずらを」


 ステラがひとりごち、己の得物たる双ツ華――黒花のグラジオラスと鈍護のロスラトゥムを抜き、重ね合わせて1つの仮想サポート補助具デヴァイスとする。ちょうどハンドガンを構えるような形だ。

 そして祭祀殿中央に立ち、ちょうど刃先が収まる竪穴に切っ先を突き入れた。


「まずはメイン・ユニット、チェック……」


 魔法を扱うのと同じようにリソースを通し、スリットを通して祭祀殿に魔力を循環クレアールさせる。表面上見えている述線ラインが淡く輝き、複雑な計上の魔法円が顕となった。更にステラの目には深層に構築された数多の述線ラインが見て取れる。


 彼女が作り出した大掛かりな儀式設計は、滞りなく動作しているようだ。


「よし、リフレクター・ユニット、チェック」


 魔法円の四方から線が伸び神殿の外柱へと向かっていく。それらは柱を樹形図のように這い上がると、神殿そのものを包み込む光の壁となった。対火山用用防御機構であり、空気は通せど粉塵は通さない魔法的なハニカム構造のサッシ戸である。


「最後は対象構造体の組成チェック」


 ステラの魔眼と包み込む螺旋魔法構造体が火山内部の詳細を詳らかにする。それこそ霧の森ミストの奥底、封じられたジャバウォックすら見通してみせた。形状は胴長の蜥蜴というべきだろうか。所謂蛇龍とよばれるものだ。漆黒の化物はマントルの高圧に押し込められて身動き1つ取ることが出来ないでいる。


「ははっか……全システムオールグリーン。あとはシオンくんのリボンへびリヤン君につたえて……」


 全ての準備を整えたステラは1つ深呼吸した。


「では往くか。『略式』リデュース【螺旋砲塔】バベル・ドライバー想備セット


 すべてはこの日のために。わるものの悪戯、その体現たる儀式魔法が名を表して世界に顕現する。2本の白い述線ラインは赤光の輝きを持って走り、神殿を飛び出してヴォルカニア火山へとひた走る。着地点となる場所に小径の魔法円が浮かび上がり、示されたように赤口は曲がり、つながり、山を駆け上っていった。


 これはすべて目印はチャルタとグルトンが打ち込んだ杭による作用だ。打ち込まれた点はただの目印に過ぎない。だが目印へと向かう魔力に情報を紛れ込ませることで、次の杭へ、次の杭へと繋がっていく。


 描かれるのは名の通り、二重の螺旋模様だ。朱は鉄黒の裾野を巡り、中腹を超え、山頂へと至り天へと突き立つ。また螺旋は蜘蛛の巣のように互いに支え合う枝をだし、巨大なレースのリボンが山を覆うように輝いた。


 出来上がったのは美しい流線型のの砲身だ。


【螺旋導杭】スパイラル・プロクシ全てオール奏効アクト龍脈レイラインへの潜航アクセスを開始」


 道標として穿たれた杭は山を巡る魔素マナへと干渉する。地中深く、マントルと流れを同じくする龍脈は魔素の大動脈だ。火山噴火のエネルギー源はマントル溜まりであることは間違いないが、この世界においては同時に魔素溜まりという意味に繋がってくる。


 ヴォーパル・ファレノプシが語った『消えてなくなくなる程の衝撃力』は確かに蓄積されて存在している。


 砲身が出来上がった今、溜まりに溜まった圧力に強い刺激を与えれば一体どうなることか……。


「さあ、開いてみてのお楽しみっバベル・ドライバー:アクト!」


 ステラが叫んだ瞬間、大地が揺れた。


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