06-05-05:依頼完了

 ヴルカンの街へと戻ってきた2人は早速ミーメのもとに赴き、シオンのアイテムポーチから霊草薬草等の採取素材を山のように取り出して引き渡した。


 出てきた品々を見たドワーフたちは一様に唸り、また満足げに笑みを浮かべている。


「おお、良い品質だのう……並の探索者ハンターではこうはいかん」

「うむぅ……これを見てみよ。しかと葉のみ採取し、茎で折られておる。昨今根から持ってくるド阿呆が多い中、よーぅできておる」

「流石はアルマドゥラ様肝いりの探索者ハンターじゃな」


 口々に仕事ぶりを称賛され、ステラは嬉しそうに微笑んだ。褒められている殆どはシオンがちゃんと気をつけて採取したからこそだ。彼女は相方の仕事ぶりが誇らしく胸を張った。


「これでシオンくんの剣も問題なさそうかい?」

「うむ、問題ないぞ。竜骨と龍鱗は特殊な溶液を作らねば加工できぬでのう。1週間ほどかかる故しばし時間をくれい」

「承知しました。それまでは剣をお借りして宜しいですか?」

「うむ、なまくらですまぬがつかってくれ」


 にっかり笑ったミーメは振り返り、ドワーフ衆に声をかける。応、と喜びの声を上げるドワーフたちの邪魔をしないよう、2人はそっと工房を後にした。



◇◇◇



 依頼完了の報告へとギルドへ向かう2人は賑わう街並みを歩きながら、今回の仕事ぶりを振り返ることにした。


「しかし何だ。今回の依頼は山が爆発するだけに、依頼の過程も不可思議なことばかりだったなぁ」

「ええ、魔物に遭遇しなかったというのも珍しいです」

「まぁ代わりに山のようにドラゴンから襲われたがな」


 げんなりするステラに、シオンがぽんと手を打った。


「その素材も卸してしまわねば。けど買い取ってもらえるのでしょうか……? 痩せていたものの流石にドラゴンですし、剥ぎ取り品質としてはまず間違いなく一級品ですからね」

「少なくともドラゴン相場にしたらかなり高値でやり取りされるんだろうけど……買ってもらえるのかね?」

「先日山のように獲れましたからねぇ……買い取る資金が残っているか不明です。転売するにもアランニャさんが1人で捌いているなら、時間が余りに成さすぎる。温存したほうが良いかもしれませんね」

「うーん、嬉しいやら悲しいやら。現実は幻想より奇なりとはよく言ったものだ」


 本当にヴルカンでは今までの常識が覆されることばかりだ。街ばかりでなく周辺もへんてこりんな地域と言える。それがなんとも異常で恐ろしく、同時に面白おかしくあるのは事実であった。


「さて、そろそろギルドか。アランニャさんは元気かな」

「あの方が調子を崩すイメージが浮かばないんですが?」

「とはいえおばあちゃまじゃないか。よる年波に腰をやるのは、アルマドゥラさんが証明しているぞ」


 そういえばとシオンは豪快に笑う老戦士を思い出す。彼もまた歴戦の勇士であり、古強者であるが孫と腰痛には叶わぬと嘆いていた。いや、それでもシオンはアランニャの所作から『それはないだろう』と予想しているのだが。


 ああいった武人は有る日突然と逝く。


 人生を全力で走りきった、嗚呼満足した。だから止まった。そう宣言するかのごとく突如逝く。これが有り余る元気を持て余す彼等、彼女達の最後だ。


 ギルドのゲートを潜れば、背筋をぴんと伸ばして書き物をするアランニャが目に入った。その姿は凛とした一輪花を思わせ、老いてなお可憐と言うべき佇まいをしている。こちらの入場に合わせて、かたりとペンを置いた彼女は柔和な笑みを浮かべて2人を招き入れた。


「こんちゃーすアランニャさーん。採集依頼を終えてきたぞう」

「ごきげんようステラさん。今日もお元気ですね」

「フフフ、ステラさんは毎日元気なのだよ。当然シオンくんもだがね!」


 元気よく応対する様に、シオンが申し訳なさそうに黙礼する。


「すみませんウチの連れ阿呆なんです」

「いえいえ、粗野に暴れるよりよっぽど可愛らしいじゃありませんか。わたくしは好きですよ」

「だってさーシオンくん! これはもうアランニャさんとは友達レベルで仲が良いと言って良いのでは?」

「いやビジネス対応ですからね? ……と、これ割符です。お願いします」

「はい、承知しました。出来高分の査定については剣の譲渡時にお渡しすると、ミーメから通達されております。その点はご容赦ください」

「別に急いでいませんし問題ありません。それに査定にも時間がかかる品が多いでしょうしね」

「ありがとうございます、助かりますわ」


 アランニャがしゃなりと音がなるように頭を下げる。なんとも美麗で美しい所作にステラは思わず応じて礼をしてしまったほどだ。顔を上げた彼女の柔和な笑みは、老いてなお可愛らしい印象を抱かせる。


 ただシオンはやはり隙のない所作に恐縮しきっていた。明らかな格上の戦士であり、油断ならない相手である。なまじ後ろ暗いところがあると、こういう時に緊張するので困る。リラックスしなくてはと力を抜こうとしたところで、


「シオンさん、もう少し力を抜いて構わないのですよ?」

「あ、はい……」


 と先手を打たれてしまう等本気で恐ろしい。なんとも苦手になってしまうのも致し方ないだろう。


「それとお2人にお願いしたい依頼があるのですが……」

「えっ、我々にかい?」


 ステラが目を丸くしてアランニャを見る。つい先日まで依頼すら無いような有様だったのに、お願いしたい依頼があるとは如何なることか。


「なんでもヴォルカニア火山へ巡礼に来たという一行がありまして。その護衛をお願いしたいのです」

「あー、今だとドラゴンでえらいことになっているもんねぇ……」

「そうなのですよ。普通では山頂までたどり着くことも叶いませんが、お2人ならばの護衛も可能でしょう。せっかくですし受けていただきたいのですが……」


 2人は顔を見合わせる。こんな時期にまた辺鄙な依頼があったものだ。


「うーん、とりあえず内容次第だなあ……」

「承知しました、ではこちらを」



===========

対象:不問

顧客:ラピューアス(巡礼者代表)

依頼:護衛依頼

内容:ヴォルカニア山山頂までの護衛を依頼する。

報酬:150,000タブラ

期間:―

特記:全員で32人の1団です。

===========



「32人とはまた多いな」

「そうなのですよ。とても難易度の高い依頼なのですが、頼めるのがお2人しか居ない状況でして」

「うーん、シオンくんはどう思う?」

「その一行がこちらの指示に従ってくれるかどうかですね。一切勝手をしないなら、なんとか。そこはどうなのですか?」

「極めて奥ゆかしい方々でした。しかし老人や子供もいるようですね」

「ヴォルカニア山についての情報は知った上で巡礼しようとしているのですか?」

「はい。なくなってしまう前にとのことです」

「ふむ……」


 ヴォルカニア山は霊脈の通る霊峰だ。こうして巡礼者が訪れることはままある。ましてやそれが消え去らんとするなら、其のような1団が居てもおかしくはないだろう。ただ老人や子供にはつらい道筋になるので、そこだけがネックになっている。


「シオンくん、最悪引き返すを考えるなら良いんじゃないかな? 護衛にしても今回の敵はドラゴンだけだ。なら問題あるまい」

「……そうですね。相手が限定されるなら良いほうですか。承知しました、依頼をお受けします」

「ああ、良かった。こちらも困っていたのですよ。ちなみに準備が整い次第ギルドを通して連絡するとのことです。概ね1ヶ月ほどとのことなので、それまで準備してお待ち下さいな」

「おお、ならちょうどシオンくんの剣も出来上がる頃だろうしちょうどいいな、了解だ!」


 アランニャがふんわりと笑いかけ、指定の依頼となる割符を手渡してくれた。


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