06-03-04:ドラゴンスレイヤー
「ヌオオオ?!」
ヴルカン戦線最前列である北壁でファレノプシを振るうアルマドゥラは、戦場の遠くに一筋のまばゆい光条を見た。今までの長い人生でも見たことがないほど明るく、そしてこれだけ離れているのに熱を感じる。それでいて死国を感じさせる冷え切った凪をも感じ取る。
なんとも背筋が震えるような七色の
「な、何じゃありゃあ……ファル、判るか?」
『……ぬぅ、詳細不明じゃ。しかし、首魁を屠りに行ったのは童共じゃろ。無関係ではあるまい』
「さらに1つ分かる事があるぞい」
『うむ。敵ドラゴンの足並みが乱れておる……さあ、声を上げよ!』
「皆のもの、勝機は今ぞ! 奮戦せよ!!!」
「「「「応、応、応ォォオオオ!!!」」」」
戦意高揚した声にドワーフたちの声が上がり、動きがまばらになったドラゴンたちを次々撃墜していく。中には開かれた顎へバリスタを叩き込み、見事討ち果たすものまで現れていた。このままいけば十分に撃退可能であろう。
「うむ、これならよさそうだのう」
『……待てアルよ、我が
「ドラゴン共も足並み揃わん今、儂が事態の調査に向かう時であろう!」
『うつけ! 前線から離れる指揮官があっちょ、待たぬか!』
「ガハハハハハ!!!」
アルマドゥラは忠言を聞く前に豪快に城壁から飛び降りて、ズムリと深い足跡をつけて着地した。地の揺れるような衝撃に城壁すら震えるようだ。彼は特大斧剣をぐるりと回して構えると、腹の底から声を上げる。
「やあやあ我こそは風塵のアルマドゥラなり! 我が碧斧の一撃を受けたいものはかかってくるが良い!!」
『妾知ってた! 知ってたけど言わせてもらうが
「ガハハハハハ! 儂は之しか能が無うてなぁ!」
『然らば全力でゆけ、手を抜くでないぞ!!』
「応ともよォ!!」
口角をあげるアルマドゥラはずむ、ずむと足音を鳴らして極光の走った場所へと走った。
◇◇◇
……と、意気揚々と飛び出したアルマドゥラは眼の前の光景に立ち尽くしていた。顎は外れんばかりに口を開け広げ、背の特大斧剣も同じようにチカチカと輝いている。
アルマドゥラの居た場所はもともと森であるはずだった。しかし木々はへし折れて倒れ、草花は引きちぎれてなぎ倒されている。それだけならばよかったのだが……地形が変わっているのだ。
眼の前には真円にえぐられたクレーターが形作られ、その一角には胸から上が消し飛んだ黒色の肉片がころがっている。あの大きさではおそらく龍であろうか……未だチリチリと焼け揚がる黒い肉は成れの果てだろうが、首から先は一体どこにいったというのか。
さらに中央を見れば、倒れ伏すシオンを前に必死に名前を呼ぶステラの姿がある。傍らにはズタボロになったロングソード、アルマドゥラの見立が正しければシオンの得物のはずだ。
「じお゛ん゛ぐん゛ん゛ん゛お゛ぎでえ゛え゛え゛!!」
「うーん、うーん……」
顔がぐっちゃんぐっちゃんのステラが、顔が真っ青のシオンをガックンガックン揺さぶっていた。彼の首は軽くしなっており、ファレノプシの見立ではあと20振り後には折れるとみた。容赦のない揺さぶりである。
『はよう止めてやらぬか、あれ童が死ぬ! マジ死ぬる!』
「おっおう、任せよ!」
ドラゴンとの激戦を期待したアルマドゥラは、まず泣き叫ぶステラをなだめるという
「これステラよ! それではシオンが死ぬるぞ!!」
「しっ、しぬ?!!! や゛だあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
振りが加速、あと10振りである。
『阿呆か
「いや然し……」
「わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!!」
アルマドゥラは頭を抱え、とりあえず大声量でギャンな気するステラの手を掴んで止めた。アブナイ、あと2~3振りでボッキリであったろう。
とりあえずグッタリと倒れるシオンを背にステラを離し、アルマドゥラが簡単に診察する。だが特に外傷が有る様子もない。単に気力が失われているだけのようだが、それにしては顔色が悪すぎる。
「うーん、うーん……」
「これ、大丈夫か? しっかりせぬか。気付けは必要か」
「す、すみまウップ……なんか、すっごいきぼぢわるうぶっ」
「なんじゃと? 何ぞ悪いもんでもくろうたか?」
シオンがなんとか首を振るが、それを機に更に顔色が悪くなる。
「そうじゃないとおゔぉっぷ」
「無理するでない! とりあえず吐いてしまえ、それで楽になろう」
「ず、すみませ……ちょっと、身体に力が入らなおうっぷ」
「全く世話のかかる。少しまて」
「おゔぇっぷ」
「ゔわ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!!」
アルマドゥラがシオンの身をおこして胃の中身を吐かせてやる。
そしてステラはそれを見て更に泣く。
地獄絵図ってこれかな。ファレノプシは
◇◇◇
アルマドゥラの介抱の甲斐あってシオンはとりあえず回復した。気付けの酒のポーション割りが魔剤の如く聞いた形である。とはいえ全快したとは言えないので安静に腰を落ち着けている。
対するステラはと言えば、ひっくひっくと泣きながら、シオンの袖をつまんで離さない。どうにも子供帰りしたように、アルマドゥラには見た目よりずっと幼い子どものように見えた。
「とりあえず何が起きたかは後に聞く。今は事実のみ話すが良い。あの黒竜を殺ったのはおヌシか」
「あー、みたいですねぇ……ぼくもよくわかんなくて……ステラさんはなにかしりません?」
「ひっぐ、ふぐ、お゛っう゛、わっがんな、ふえ゛え゛」
「だそーです……」
「じゃが状況はおヌシ達が殺った事を示しておる。今わかる事実はそれだけでよい、おヌシ達はドラゴンスレイヤーと認めるに足るわい」
「あー……アルマドゥラさん。すみません、それよりすっごい眠いのでもういーですかね?」
「ガハハ、栄誉より眠気か! 良い良い、良いぞ。儂が運んでやる故健やかに眠るが良い」
「すみません……」
それきりクタッと倒れるようにシオンは寝た。最早起きているのでさえ辛かったのだ。受け止めたアルマドゥラはそれでも裾を離そうとしないステラを見る。
「これ、離さぬと担げぬであろう」
「やだ!!」
「駄々をこねるでない……それでは嫌われてしまうぞ」
「やだあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
止まったとおもった泣き声が更に高まり、アルマドゥラが頭をかいた。
「うむぅぅ……どうにも扱いが分からんわい」
『カカカ、泣きっ面に蜂じゃなぁ。流石の風塵も泣く子には敵わぬか』
「ファル、笑っておらぬで助けぬか!」
『よかろう……これ娘! 童を寝かすならベッドのほうが良かろうさっさと運ぶぞ、手伝わぬか』
「ゔん゛ッ!」
鼻水と涙でぐっちゃんぐっちゃんのステラがうなずいて、アルマドゥラがシオンを担ぐ。そのうえでステラが全力心象魔法を行使したことで、とんでもない速度で走れてしまったアルマドゥラが目を剥いたのは仕方のないことだろう。
なにせ1歩で20歩を往く速度だったのだ。あっという間に街にたどり着き、勢い余って壁にぶつかりかけたほどである。これにはアルマドゥラも肝を冷やしたが……予め予期していたファレノプシが風のクッションを作ってくれたので、事もなく街へとたどり着いたのだった。
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