05ー06:予選会

05-06-01:予選・会議

 『ウタウタイ』を翌日に控えたこの日、景気づけにと少しいい店で夕食をとなった。いや、ステラからすれば最高に良い店というべきか。


「あの……小職の手料理で宜しいのですか……?」

「それがいいんじゃないか!」


 そう、いい店は『ギフソフィア生花店』である。飯屋ではないが居心地の良さはお墨付きだ。最早勝手知ったる我が家なのである。デルフィにとっては良いのか悪いのか……少なくとも幸運を運んでくれているのは言うまでもない。

 さらに今回はシオンとステラに加えて、さらにプリムラも借りてきた猫のように燻茶をちびちびとやっている。予選会に向けた最終打ち合わせを行うべく、秘密の話し合いを持とうというのだ。


「プリムラさん、今一度確認したいのだが予選会について教えてくれ」

「わかったで。『ウタウタイ』は当初『鎮めの歌』を歌う巫女を選ぶ儀式やったんやが、これが広まって参加人数がふえよったのは知っとるな? それこそ街中の乙女が手を上げるほど……せやから選定前に候補をしぼる為に予選会ができたんや。今は地区ごとに開かれて審査員は観客の投票で1名を選出、シオンの姐さんはデルフィさんの店のある地区でエントリー済みやな」

「ちなみにこういった場合、勝ち上がりやすいところを狙って参加とかはないのか? 故国ではそういうのよくあったけど」

「あったとしても小細工の意味がないで? それで本戦に上がったとしても、最終的に判断するのはルドベキア様やからな。あと勝ち上がりやすいところがそもそも無いやろなぁ……年々技量は増しに増してきとるから」

「なるほど、なら問題ないね」

「とりあえず前に言ったとおり部門は3つ、『衣』『踊』『歌』やね。これを1日、3日、3日の1週間に渡ってやるんや」


 うなずくシオンとステラを確認したプリムラは、まずはと指を1本立てた。


「まずは『衣部門』やな。ここで『ウタウタイ』候補のお披露目会、実質的に名乗りを上げるっちゅう訳や。舞台袖で番号札順に名前を呼ばれるよって、順に舞台袖から飛び出てパフォーマンスするっちゅうわけやな」

「パフォーマンスは問題ないぞ。小生実はスゴイ系魔法使いマギノディールだからな! 演出には自信があるンだ。他になにか注意点はあるかい?」

「せやなぁ……あー、まぁ当たり前ではあるんやけど1つ」

「何かな?」

「「……はい?」」


 ステラとシオンが同時に首を傾げた。


「ドレスショウですよね? 服を着るのが当たり前なのでは」

「うん普通はそうやな。そうなんや、それが常識……。でもな、前におったんや……ほぼ全裸いう痴女がな」

「居たんだ……」

「おったおった。体にリボン巻いて『これがドレスですぅ~』言うてな。即退場やった」

「男性陣からは残念ブーイング、女性陣から冷ややかな目線が飛んでそう」

「荒れたでアレは……」


 プリムラは遠い目をして、ステラはそれやるやつ居たんだと逆に感心した。


「それはそれとして次、『踊部門』やけど……演目は『カグラ』でええんか?」

「うむ。似たり寄ったりよりは良いんじゃないかな」

「そらそうやけど……周りはみんな華やかさを競う中ええん? 『カグラ』が凄いのはわかるんやが、ほんま静かぁ~な踊りやで? アタシはスゴイとおもうけど、皆がそうとはかぎらん」


 実際『ウタウタイ』で踊られるのはかなり激しい動きを伴う派手なものが多い。出演する女性達がその色香を示す最高の盛り上がりを見せる一瞬なのだ。そんな中でステラがやろうとしているのはプリムラの言う通り静の舞。

 得点としては少なくない数となるため心配だったのだが――。


「いいんだ、故国に連なる舞だから。それにシオン君も三琴を練習してくれたからね。……その割にあっという間にマスターしちゃったけど」

「そうは言いますが、三琴は弾き方が意外と難しいんですよ? 滑るような音の揺らぎを制御できて初めて半人前ですからね」

「いいつつ3回も弾いたら覚えたうえにアレンジし始めただろ……これが天才というやつか」

「非凡な方に言われることではないですねぇ」

「っちゅうかアタシから見たらお互い様やけど」


「「えぇ……??」」


「なんで声揃って首かしげとるんや?! この非常識ズめ!」

「そう言われましても……」


 肩をすくめるシオンの傍らの三琴も誇らしげにキラリと光った。


「最後は歌やけど歌詞はちゃんと覚えとるか?」

「うむ! 『六花の騎士』なら完璧に覚えているぞ」

「しっかり練習していましたからね、問題ないかと思いますよ」

「せやな……基本をしっかり抑えとれば予選会は通るはずや」


 ここでふぅむとプリムラが腕を組む。


「しかし『六花の騎士』とはまた古典を持ってきたもんやなぁ。歌っちゅうより詩歌が近いんやが」

「普段だとどんなのが歌われるんだ?」

「例年の『ウタウタイ』が歌った『心の歌エゴ』に基づく歌がおおいで。ド定番やと初代『ウタウタイ』が歌うたいう『炎の乙女』。最近やと、うん……ナルキソスの『華舞い踊るは麗しの』やろか」

「流行り廃りってのもあるんだろうけど、広く知られた歌のほうが有利そうではあるね」

「せやな。そういう意味では誰でも知っとるギリギリのラインやね。ただちょい古すぎるっちゅうのがあるんと、ルサルカにはルドベキア様がおるからなぁ」

「まぁ地元が1番になっちゃうよね。そこらへんは仕方ない」


 ステラが曲を選んだ理由はまさにそれだ。一番馴染みの深いのがシオンとともに過ごしたアルヴィク公国であり、また『六花の剣イフェイオン』のお伽話を教えてくれた亡き人を想う歌である故である。


「よし、なら明日から頑張ろか。しっかり英気を養うんやで?」

「といいつつ手弁当なのであった」

「提案した本人が何言うとんのや……しかしデルフィさん意外と料理うまいなぁ。尊敬するわぁ」

「お褒めに預かり光栄です」

「あ、いや、アタシもやれば出来るんやで? 機会がないだけでようさん出来るんや。そこまちごうたらいかん」

「承知しました……はい、どうぞ」


 デルフィはプリムラのカップに燻茶を注ぎつつ苦笑する。受け取るプリムラは少し不満そうだ。


「しっかしこの3人ほんま謎多いな……まぁ、べつにええんやけど」


 はふ、と息をついて飲むお茶の味は、少しだけ甘くて爽やかであった。

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