05-04:レッスン!
05-04-01:ファッションショー
ギフソフィア生花店2階、普段の生活スペースにシオン、プリムラ、デルフィが集っていた。いや、デルフィに関しては元より従者として振る舞っており、今もお茶の準備をしてプリムラをもてなしている。
かちゃんと置いたカップを前に、プリムラは借りてきた猫のようにおとなしい。
「お、おおきに……」
「いいえ」
淡々とこなすデルフィに少し怯えているようにも見える。だが燻茶を一口飲んで目を見開いた彼女は、ほうと息をついてシオンに目を向けた。
「あの人……デルフィさんやったか。よくできた人やね、やな顔ひとつせんと仕事をしはる」
「彼はもともと従者でしたからね。相手が誰であれ失礼に当たることはしませんよ」
「えらい高貴な方のお付きやったんと違う? 所作の1つ1つがきれいやわ」
「そう……ですね。とても綺麗な人でしたよ」
「……さよか。ええ人やったんやね」
「ええ、とても……」
「ウェーイ! 小生参上!」
少し暗くなってしまった場を切り裂くようにステラが現れた。朗らかに笑う彼女はなんともお気楽なご様子だ。
だが纏う服は何時もの動きやすいものではなく、淡い黄色のAラインスカートのドレスである。所謂ローブ・ア・ラ・フランセーズを簡略化したものといえばよいか。
肩も主張しない程度のパフスリーブになって、随所にフリルとレースがあしらってある。アクセサリーこそないが、補って余りある布の装飾が負けじと主張する。ちょっとした貴族もかくやといったドレスなのだ。
ただ1つ言うとすればどっしりとした胸が否応なく主張して、膨よかな形に垂れ下がっていることだろうか。当然コルセットなど無いので仕方ないのだが、動く事にふわっぽよ揺れる様はなかなかに目に毒である。
「とりあえず使う衣装ってことで、とりま着てみたがどうかな?」
ステラがくるっと回ってロングスカートの裾を閃かせ、結んだポニーテールがしゃなりと音を立てる。最後にカーテシーでお辞儀すれば、黙っていれば何処かの姫と言われても頷いてしまう出来だと言える。
「ほぁー、ようそんなドレス持っとったな」
「それ確か夜会用に設えた……」
「ええ、奥様のドレスと同じデザインです。懐かしいですね……」
「フフフ、お気に召したようで光栄だ。でも夜会ってことはあれか、歌姫ではないな……ほかも試すか」
そう言ってふわり花の香りを残して出ていってしまった。
「はー。ステラの姐さんを見る限りシオンの兄さんもあれか、結構いいとこの出なん? 所作がキビキビしよるし、ちょっと普通と空気違うし……」
「学ぶ機会があっただけですよ」
「
「ではないですね、まあ半分は正解です」
「半分……なるほどなぁ、なかなかに大変な人生やん」
「ウェーイ、チャイニーステラ推参!」
ばーんとドアを開いてやってきたステラは、シニョン2つを着けたチャイナ服だ。色は白から裾に向けて、紫のグラデーションとなる。また体型に沿うように設えであるゆえに抜群に良いスタイルが露わとなっていた。
特にスリットから覗く白い肌がなんとも艶めかしいのだが、ブーツが何時もの戦闘用のごっつい板金革靴なので良さを完全に殺してしまっていた。流石に靴まで用意できないので仕方のないことだが、あまりのミスマッチが少し残念でもある。
「そ、そないなドレスも持っとるんか? 初めて見るデザインやわ」
「ステラさんの故国のものですか?」
「そんなとこ。デルフィさんとしてはどう思う?」
「……驚きました、小職の花がこのように鮮やかに飾られるとは」
チャイナ服の裾にはデルフィオリジナルの『
「使えそう?」
「つかえるけどな?! ちゃうねん、そうやなくてやな……!!」
「じゃあつぎかなー」
そう言って白の燐花を残してステラは出ていった。
「あんま聞くのアレやとおもうんやけど、君ら何者なん……?」
「ははは、ただの
「し、白々しすぎて逆に気持ちええわ」
というプリムラの呟きに合わせてババンと扉が開いた。
「わたくしさんじょうですわのぜ!」
「ちょまっ、着替え早ない?!」
キョトンと首を傾げるステラは赤いスパンコールがあしらわれたマーメイドドレスを纏っている。髪は1つのお団子に結い上げてきゅっとリボンで縛っている。腕にはこれまた赤い絹の手袋が着けられており、黙ってさえいれば貴族の女主人と言っても差し支えない姿となっていた。
「ちょお、自分おかしいやろ! そないドレス1人で着られるわけ無いやんか?!」
「そういう服なんだよ」
「ええぇ?! うっそやろマジほんま……っていうかスタイル良すぎやん……? 嫉妬以前に崇めるレベルなんやけど」
「わからんでもない」
ご存知の通りステラの纏う服は神の
これについて『みてみて魔法少女!』とフリフリキュアーなドレスに目の前で変身したところ引っ叩かれた。ジャパニメーション・マジカル・ガールの返信プロセスは異世界において刺激が強すぎたらしい。
そのためいちいち扉を行き来して変身していたのだ。ちなみに変身したからと言って性能が向上するかと言えばとくにそんなことはない。飽くまで布地の服は布地の服であり、いつもの
しかし事実を知らぬプリムラはもやもやを解消できず唸り、いつの間にか空になっていたカップにデルフィが燻茶を注いだ。
「あ……おおきに」
「いえ、お気持ちはわかりますので」
「……ありがとう、デルフィさん」
はてな、なんだか場の空気がおかしい。小首をかしげるステラが視線をプリムラに送ると、盛大に溜息をつかれた。一体何だというのか、何故かステラが悪いことをしたような空気になっている。
実際無茶を働いたのでシオンも頭がいたいところであった。
「……とりあえず衣装は問題ないわ、寧ろ選ぶのが難しいくらいやわ」
「そう? なら良かったー!」
にぱーと笑顔のステラが勝利とばかりにVサインを突き付けた。
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