04-17-03:V.O.R.P.A.L-NO.23 "YENISTER"/Log and Sword
「よぉし、第三ラウンドだ!! 沈めてやるから覚悟しろよぉ!!」
上空にてステラは己の得物であり侍る双ツ華、グラジオラスとロスラトゥムを打ち鳴らし、力強く構える。
「『そらたかく おしあげいずる このはもり ささえしみきえだ いとかがやけりて』
まだ残ったズタボロの怪腕に草木が芽吹き、根付いて纏わりギジリと形を作る。怪腕を覆うように手のひらを、指を締め上げ、スマートかつ堅牢な生きた鎧となった。見た目はまるで巨大な一本の樹木……いや、丸太である!
そう……拳は一度砕けても、また握り直すことができるのだ。それが丸太ならもはや敵無しである。
だって丸太だし。
考えてみてほしい、拳と丸太がぶつかったらどちらが勝つか。明らかに丸太であろう。つまり圧倒的に丸太有利は不動であり、吸血鬼特攻概念を持つことからも化物狩りには
なお丸太と丸太が衝突した場合など考えてはいけない。それは丸太秘密であり丸太真実に触れてしまうからだ。なんて恐ろしいのだろう!
(フフフ、勝ったな……)
笑顔のステラは手始めに、
「おっるぁブッ喰らえやああああ!!」
『R?!』
豪快に
丸太作法その2『丸太は絶対!』。丸太心理に基づく強化丸太概念がついにジャバウォックに手を掛けんとしているのだ。丸太ってすげえや!
だが一撃がジャバウォックの警戒心を一気に煽り、警戒すべき相手として捉えグフゥと生臭い息を吐く。
「まだまだ往くぞオルアァアア!!!」
『RAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!』
およそ乙女が発するべきではない裂帛の気合と獰猛な微笑みを持って連打、連打、連打!
だがジャバウォックも負けては居ない。応酬に対応すべく身を撓らせ殴打、殴打、殴打!
「せやややややややややや!!」
『RAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!』
攻防は一進一退! しかして超重量の大丸太をなぜここまで自在にあやつれるのか。それは丸太作法その3『一の丸太が効かなければ二の丸太を使うべし!』にこそ秘密がある。丸太が躱されたら丸太で殴ればいいじゃない! 常に先を見ることこそ丸太を必殺たらしめる要素なのだ。
故に流れの先にみえる
「勝機!!」
タイミングは一瞬でいい。叩き込むには十分すぎる。渾身の
やあれ見よ! これぞ丸太が本懐、一の技にして奥義。『ぶちかまし』である! 丸太由来の質量攻撃、それが最も有効に働くのが円形の断面であることは言わずもがな。『ぶちかまし』をマトモに受けてしまえば、いかなジャバウォックといえどただでは済まない。
「このまま押し通る!」
丸太の衝撃力に怯むジャバウォックに追撃の『ぶちかまし』が入る。こうなれば最早相手の耐久力が勝つか、丸太の耐久力が勝つか……だがご安心いただきたい。丸太は負けない、壊れない!
「だァらっしぇエアアア!!」
ステラ渾身の『ぶちかまし』がついに結界際までジャバウォックを追い込み、ひび割れた面へ向けて連撃を食らわせた。一丸太撃が決まるごと、ばちゃり、びちりと音を立てて黒い体液を振りまきつつ外郭内へと押し込んだのだ!
最後まで信じる心、それが丸太である! 更に心意気は行動、そして言葉で次へとつなぐ事ができた。
「シオン君あとはたのーむ!!」
彼女は大声で穴の向こうに叫んだ。
◇◇◇
「任されました」
外郭で待っていた彼がフラつくジャバウォックに相対する。とはいえ先程の
(まぁ、僕なりに淡々とやりましょうか……)
結局彼は彼である。
「イフェイオン」
『了解。
蒼の燐光を踏み一歩前に、速度はシオンの最高速に到達する。体の使い方はもう理解った以上、最善最速最適解を突き詰めるのみだ。狙うのは額に当たる部分である。
(それがジャバウォックの『死角』にして『弱点』です)
ステラの
故に反応できなかった瞬間、危うかった射線を見取ってこの化物を理解したのだ。シオンが一撃を叩き込むために腰だめに構えたロングソードを斬りつける。
「ショック」
『
「おっと」
瞬間、斬撃のオーラに沿って菱形に衝撃波が発生し、蒼が爆発する。シオンには軽い反動しかないが、しかしショックウェーブを受けたジャバウォックはそうもいかない。
『RRRRRRR???!』
めぎ、と音を立てて額は凹み、衝撃をそのままに更に後退していく。岩をも通した一念に、本場本元の剣閃が突き刺さったのだ。是非も無しというべきか。更に驚くべきはその威力である。
(少々強めに打ってこれですか……とんでもないですね)
使い慣れた〈スパーダ〉のタイミング、そして加減でジャバウォックはとてつもないダメージを受けた。魔獣特攻は伊達ではないということか。
なるほどこれならば行ける。
ただステラと異なるのはその距離感だ。彼女が丸太分のリーチがあるのに対し、こちらはごく至近距離に接敵する必要がある。故にジャバウォックが取れる手段も相対的に増えることになり、堪らぬゆえに選択せざるをえない。
最接近するシオンの目の前に、ぱらりと薄い紙のようなものが舞う。それは漆黒の長方形であり、つまりは――。
「トランプ兵ですか。しかし倍は大きい……」
『
「了解」
事実対処できていた魔物の上位個体だ。更に今シオンはイフェイオンを使っている。倒すこと自体は然程難しいことではない。
問題は数だ。魚鱗が剥離するかの如く降り注いでいるのである。しかして今以て対処できない程ではない。
「ショック!」
薙ぎ払うようにショックウェーブを斬り放てば、菱形の衝撃が薄いトランプ兵の体を押し消していく。もはや裏返る間もなく道は開かれるが、打ち消すぶんだけ相手に時間を与えることとなる。
事実立ち直ったジャバウォックが口腔を広げ、咆哮しようと鎌首をもたげた。
「ああ、それは悪手ですよね」
叫びとは声、即ち呼吸の副産物であるなら存在する器官。膨らむ腹に今の全速を以て突っ込み、また現在の全力でショックウェーブを穿ちこむ。
発生した菱形は巨大な四角錘となって黒身を押し込み、鋲をうつが如く魔獣の身を破砕した。がぼぼと鳴るのはジャバウォックの喉元。破裂した肺が齎す喘ぎの声であった。
ステラのフィードバックを受けた全力は、冷静に制御されたが故に研ぎ澄まされた驚天動地の一撃を可能とする。好機とみて立て続けにショックウェーブを放っていけば、たまらずズルリと身をくねらせ奥へ奥へと引っ込んでいく。
「よし、意外と何とかなるものですね」
きしむ壁の奥をジャバウォックが超えた瞬間、黄色の旋風が吹き荒れた。同時に結界は黄金色に輝いてまるで光の柱のようになる。
どうやらうまく行ったようだ。ふとそよ風を頬に受けて振り返ると、ステラが笑顔で手を振っていた。
「――っと、シオン君! 見てたぞ、案外いけるもんだな!」
「ええまあ、なんとか……」
「よし、この調子でメディエちゃんを助けに行こう」
そう言ってステラが勢いよく内郭へむけて飛翔すると、『めごり』と音を立てて結界にぶち当たった。額、顔面、首にショック、そのまま全身を打ち付ける大惨事である。
「ぶ゛お゛お゛お゛お゛……」
涙目のステラが鼻を抑えてよろよろと下がる。胸元にポタポタと赤い花が咲き、ひんひん言いながらプルプルと震えた。
「だ、大丈夫、ですか?」
「いだいれふ……」
「なら問題ないですね」
「ふぇえ、
初戦は鼻血。彼女はもっと酷い怪我を負ってすら全快しているので、全くカウントする気のないシオンである。それより問題なのはこの結界だ。近づいて手を触れると、まるで透明で硬い壁が存在するように近づけない。
「成る程……入れない、ですね」
「らんらっれ?」
端切れで顔を拭い、
「なんだこれ水族館のアクリルガラスかよ。でも無理やり入れないことも……」
『巫覡ステラ。結界の綻びとなるため非推奨です』
「……ってことは、此処から先はメディエちゃん1人でやらなきゃって事なの?」
『肯定。暫くお待ち下さい』
これにステラがムッとしてイフェイオンを見た。
「君、こうなると知ってたな?」
『肯定。しかし騎士メディエ及び "YENISTER"も同意済みです』
「だからってな! むーむうううー!」
怒りの矛先を向ける先を失い、なおぷんすこ起こるステラはビシリと指を突きつける。
「……もしものときは出るからな! 割り切れるのはここだ!」
『了解。しかし無用の心配だと告知します』
「ふんだ!」
ステラは腕を組み、黄金の帳の向こうを睨みつけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます