04-17-02:V.O.R.P.A.L-NO.23 "YENISTER"/Sealing Tactics

 予め想定したとおりの回答に、ステラがぐっと拳を握ってにやりと笑う。


「そうか、漸くぶっ倒せるんだな! よしきた任せろ、バーニンソール! ぶん殴るのなら任せておくれ!」

『無理デスね』

『不可能です』


「……ええ?」


 振り上げた手のやり場は何処に。ステラがぷるぷる震えた。


「な、なんで? 特にイェニスター! ジャバウォックにあんな突き刺しといて、それはないでしょう!

 でかい、太い、重いッ! こいつは火力の三代要素だ! 実際強いじゃないのかい?!」


『いや、そもそもあれ剣じゃないんデスよね』


「えっ? なんだって?」

なりは剣デスが、実質ただのデス。なのでまっ〜〜ーーたく切れ味は無いんデスよ。よくて撲殺かなーハハハ』

「で、でも刺さってるじゃん?」


『重さゆえデスねー。だから振り回すのはメディエにはちょっと過ぎたシロモノなんデス。

 あの楔はお2人が注意を反らしてくれたから出来た事なんデスよ。2度目は無いと思って下さいネ♪』


「ちょっとまて……ヴォーパルって退だよな? だというのに、まるでかのような言い草は一体……」


 これにヒクリと苦笑するのは担い手たるメディエである。


「あーその。ステラ? 実は……イェニスターは攻撃向きの性能をしてないんです。寧ろ支援向きといいますか……」

「え……つまり?」


「師匠のイフェイオンで手詰まりだとしたら、私達じゃ倒せないですね!」

「……だめじゃん?」


 一気に肩の力がぬけて『ぬわー』と天を仰ぐが、もとより彼女が先走った結果だ。一通り静かになったところでイフェイオンが話しを切り出す。


『巫覡ステラ。故に倒さずを取ります』

「再封印……ったって、行けるのか?」

『可能です。ただし3つのステップに従ってJ.A.B.B.E.R.W.O.C.Kジャバウォック:"CRFYクリフィ"を追い込む必要があります』

「3つ、ですか……説明をお願いします」


『了解、準騎士エスクワイアシオン。

 Step1。

 ウェルスの外に流出した"CRFYクリフィ"を内郭壁内まで押し込みます。之については巫覡ステラと共に連動してください。


 Step2。

 弱体化している結界を修復し、"CRFYクリフィ"閉じ込めます。騎士ナイトメディエの担当です。


 Step3。

 イェニスターによる封印の儀式魔法マギ・テレティを使用し、迷宮ラビリンスとして再封印します。こちらも騎士ナイトメディエの担当となります』


「はいはーい、質問質問!」

『どうぞ』

「さっき街を視た限り、ジャバウォック……クリフィっての? そいつが結界を突き破ってたろ。つまり魔道具ウェルスは今、壊れかけのはずだ。街の外壁も壊れてたのだが……いけるのか?」


『外郭はそうデスね。でも内郭の構成は幸いにもまだ生きているから利用可能デス。

 もともとウェルスはこうした事態を想定して、同強度の結界を二重にしているのデスよ』

「更に補足するとですね。結界が弱っている理由は、魔獣信仰者スナッチによる生贄を使った『反転の儀式魔法マギ・テレティ』です。なのでイェニスターなら対処可能なのです!」


「え、封印ってそれ……使、だよな? それを生贄っで阻害したってことは『楔の魔法陣』が敷いてあるはず。霧の森ミストで使われた魂……というか魔核を縛り付ける厄介なやつだぞ。いけるのか?」


 なお厄介と彼女は言うが、ステラの場合血濡れた地面を【浄化】ピュリフィケーションしたら楔が消えた程度で全く苦労していない。

 捕らわれた魂はそのまま天に召された……と思われる。ただ少なくとも、ステラの力が働くうちは迷いなくたどり着けることであろう。


 そんなことを考えつつ聞いた質問に、しかしメディエは苦悶するような、苦笑するような。つまりは微妙な顔で答える。 


「……イェニスターの権能は『清潔』です。なので、その……ことができるですよ」


 いいづらそうなそれに、ステラもまた微妙な笑みを浮かべることになった。


「おいまて……イェニスター! 君、その小剣の形ナリ掃除用具ほうきだなんていわないだろうな?!」


『言い得て妙だけど……まぁその通りなんデスよねぇ』

「……嘘でしょ?」

そうデスねー』


「まっ……マジかよ。ってことは残りのヴォーパルやイフェイオンもそんな感じなのか……?」


 ステラの脳裏でヴォーパルの地位ががくんと下がっていく。具体的には神の爪楊枝ヴォーパルとか、神のお布団叩きヴォーパルとか、神の雑巾ヴォーパルである。


 心躍る単語に心ときめかなかった訳がない。だが真実本人が語っている以上、イェニスターは箒である。がらがらと幻想が崩れていく音を、ステラは耳にした。


「あの……流石にイフェイオンは『』ですよ。……ですよね、イフェイオン?」


準騎士エスクワイアシオン、ヴォーパルは前提として剣です。巫覡ステラ、此方こなたは掃除用具ではありませんのでご安心を』

「よ、よかった……」


 まかり間違って神のギュッポンヴォーパルだったら、シオンは立ち直れなかったかもしれない。だがつつりと汗を流すのはステラだ。


「安心するのは早いぞシオン君……この子、掃除用具であることだけを否定した。剣であることもってことは、本質は違うってことだし、本当は――」

「僕は剣と思いまーす!! はいこの話は終わりですっ!」


 ぱっちーんと指を弾いて終了を宣言した。深く聞いてはいけない闇が、ヴォーパル界には存在するのだ……!!


 言いようの無い圧にステラも押し黙り、話を進めることにした。


「えーと、つまりシオン君と小生で街まで押し込めば良いのか」

「分担的にはステラさんが野外から外郭へ、僕が外郭から内郭へでしょう。その岩の腕、街で振り回すには危ないですし」

「その間に私が先行して、押し込んだ瞬間を見計らって結界を修復するのがベストですか……」


 うーんと首を傾げるのはステラとメディエだ。


「その配置がベストだが……シオン君大丈夫か? 押し込むって言っても斬撃じゃきついだろ」

「たしかに。イフェイオン、使える機能はありますか?」

『了解、V.S.S#ShockWaveショックウェーブを開放します。衝撃を伴う強打スマッシュです、上手くご活用ください』


「わかりましたが……試用期間が無いのはきついですね」

『その点はこちらで考慮します。準騎士エスクワイアシオンは戦闘に注力してください』

「了解です」


 話が纏まったところでステラが今度こそ腕を振り上げた。


「よし、今度こそ反抗開始だな!」

「やりましょう」

「任せるですよ!」


 声と同じくして一際大きな破砕音が響く。見上げた先でイェニスターの楔が割れて、遂にジャバウォックは解き放たれたのだ。

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