04-17:V.O.R.P.A.L-NO.23 "YENISTER"

04-17-01:V.O.R.P.A.L-NO.23 "YENISTER"/Wake Up

 ステラが見上げる位置で輝く天使、メディエがたたずんでいる。何時もの探索者ハンター装備スタイルかと思えば、ドレスに装甲が付いたドレスアーマーになっていた。まるで神話にある戦乙女ワルキューレが如き威容である。


 ドレスの裾などに目を凝らす限り魔力によるもの……今ステラが身に着けている不思議恩恵服に近い特性を持つようだ。これもイェニスターを手にしたが故のものだろうか。少なくとも見た目どおりの性能ではないと理解する。


「ステラ……反逆は良いですが1つ聞きたいことがあるですよ」

「なんだろうか。答えられる限りは全て答えようじゃないか」

「この絵図、んです?」


 イェニスターをヒュルリと振る。彼女は剣を兄が使っていた、古い伝統を持つ家宝の魔道具と捉えていた。由緒あるとは分かっていても、よもや神話の示す神器だとは思いもしなかったのだ。


「そいつがヴォーパルイェニスターだってことなら、そのとおり。小生とシオン君は知っていたよ」

「なら――街がこうなる事も?」

「そりゃ流石に想定外だ。我々は故あって『全てのヴォーパルを巡る事』を目的としている。つまり魔獣ジャバウォックの様子見が目的であって、対処は想定外だぞ」


 むうと唸るメディエだが、最後には諦めたようにため息をついた。


「よくそんな荒唐無稽おとぎばなしを信じて来れたですね。ヴォーパルを持つ私が言うのも何ですけど……」

「そりゃいろいろあるが……見たほうが早いな、あれをご覧よ」


 指差す方からシオンが飛んで……いや、空を走ってくる。彼はメディエの変化に気づいて、少し目を剥いた。


「なんだか豪華になってますね、メディエさん」

「師匠?! なんで浮いて……魔法マギを使って? いや、違うです。この感覚は……ヴォーパルですか?! 何故そんなものを持ってるんです?!?!!」

「おや、イフェイオンが分かるんですか?」

「い……『六花の神剣イフェイオン』ですって?!」


 さすがの有名所、メディエは口をあんぐり開けて驚いた。ただ勘違いしているのは、シオンの得物をと見ていることか。シオンが胸元から六花結晶のペンダントを取り出す。


 するとお互いを認識したように、イフェイオンとイェニスターの鍔元にある結晶が輝いた。


『疎通確認:完了クリア。御機嫌よう"YENISTER"イェニスター、比較的早い目覚めと思われます』

『状況共有:完了クリア。皮肉がキツイデスねぇ"IPHEION"イフェイオン、そちらこそ遅すぎじゃないんデスか?』

『戦術提案:送付コミット。何らかの疎通障害が発生しました。故にその調査をしています』

『戦術提案:修正リビジョン。あー、そのあたりボクにも記録がないデスねぇ。そちらこそご存知ありません?』

『戦術提案:受諾アクセプト。此方の観測記録には該当事象が記録されていません』

『状況共有:終了エンド。はぁ、ちょっと困ったことになってるデスねぇ……』


 突如始まったやり取りに目を瞬かせるステラが慌てて口を出す。


「ちょいちょいちょーい! まってまって!

 イェニスターも喋れるのは想定していた。だが何故んだ?! そこおかしいだろ!!」

「僕もそう聞こえましたが……本人なのでしょうか」


「あんな特徴的な喋り方で声色同じだったら本人だろ……でもなんでんだ?!

 なんかこう、にメディエちゃんが『おれはしょうきにもどった』とき、感動的な感じに消えた~~的な展開があったんじゃないの?!!」

『いやー、それが気づいたらこうなってたんデスよねぇ~ハッハッハ』

「は? な、な、な、なーん! なーーん?!」


 混乱するステラが目をくるくる回していると、シオンがこくりと頷いた。


「成る程、生きてたと」

『概ねそうデスね!』


 言いつつステラを見るシオン。心なしかイェニスターも見ている気がする。一体何なのか、気圧されるステラに2人が声を揃えた。


「つまり、そういうことですね」

『つまり、そういうことデスよ』


「な、なんか釈然としない!」

『巫覡ステラ、どこもおかしな点はありません』


「それなんか憑依的な感じでだめなんじゃないの?! っていうか、め、メディエちゃんはそれで良いのか?!」

「元々レイスになりかけでしたし、だったら良いかなって」

「ま、まじかよ……」


 一斉にかかられてステラがしょぼんと肩を落とした。だが彼女の周囲は不思議でいっぱいだ。これしきのイベントが起こったところで何ら不思議ではない。


「それより師匠にステラ、今を見ましょう。現在誰が見ても非常に不味い状況です」


 これにキョトンと首を傾げたのはステラだ。巨大な黒いジャバウォックを見上げて声を上げる。


「不味いにゃまずいが、今ヤツの動きは止められてるよな。あの『巨大な大剣』はイェニスターの機能なんだろ? だったら問題ないんじゃないか?」

「それはそうなんですが……」

「なにか問題があるのか?」


 申し訳なさそうに目線を落とす彼女は小さくつぶやいた。


「ごめんなさい、思ったより保ちそうにないです……」

「え、マジで?」

「マジです」


 振り返り見上げた剣は見た目問題ないように見える。しかしよく耳を澄ましてみれば『ギリリ、ピキ』と嫌な音を立てているとわかった。


「うわぁ、ヒビ入っとる」

「なんですって……?」

「早く対応案考えないと……」


 途端慌てだしたステラだが、助け舟を出したのは2つの結晶だ。


『巫覡ステラ、それについて提案があります』

『作戦は此方で立てましたから、それに従ってほしいんデス』


 武具が奏でる声に全員が注目する。

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