04-10-25:収穫祭#祝祭>偽の影
「ふぁー、ひどいめにあったですよ……」
練習を欠かさなかった〈ウォラーレ・シーカー〉は、正確に彼女を縛った縄を切除し自由となった。恐怖から膝が少し笑っているが、まずは一安心といったところか。
しかし何故
(でもなにかひっかかるです……)
何故か見覚えがある部屋なのだ。ここはどこかで■■■■■■。
「うッ……」
急に頭に痛みが走る。思い出してはならない。
この場所はかつて、■■■が■んだ場所だ。思い出してはならない。
忌むべき場所であり有ってはならない事が起きた場所。思い出してはならない。
痛む頭を抱えてうずくまる彼女の耳に、カツンと鳴る音が届いた。頭をあげれば、そこに居たのは彼女が追っていた青い影である。
「おまえ、は……」
いや、立っていたのは■■■だ。メディエが刺して■してしまった彼女の――。
思い出してはならない。思い出してはならない。思い出してはならない。
思い出してはならない。思い出してはならない。思い出してはならない。
思い出してはならない。思い出してはならない。思い出してはならない。
思い出してはならない。思い出してはならない。思い出してはならない。
思い出してはならない。思い出してはならない。思い出してはならない。
思い出してはならない。思い出してはならない。思い出してはならない。
思い出してはならない。思い出してはならない。思い出してはならない。
思い出してはならない。思い出してはならない。思い出してはならない。
思い出してはならない。思い出してはならない。思い出してはならない。
思い出してはならない。思い出してはならない。思い出してはならない。
思い出してはならない。思い出してはならない。思い出してはならない。
思い出してはならない。思い出してはならない。思い出してはならない。
思い出してはならない。思い出してはならない。思い出してはならない。
思い出してはならない。思い出してはならない。思い出してはならない。
思い出してはならない。思い出してはならない。思い出してはならない。
思い出してはならない。思い出してはならない。思い出してはならない。
だが青い影はかつてと同じようにニコリと笑って彼女に語りかけてくる。
『やあ僕の
「ちが、う。おまえがボクのニセモノです……! お前こそ、誰なんですか?!」
『僕は僕デスよ、何者でもないボク。ハーブ・フローラ・ティンダーその人デスよ。君よりは余程近しい存在デス』
「う、嘘です! だって、だって、それはボクの……ううっ」
彼女は頭を抑えつつ、腰の剣を抜きはなった。その手は少しだけ、震えている。
『あくまで僕を騙るんデスね……』
先程まで透き通るようだった体は、ぞわぞわと波打って、青白い不透明な実体を形作った。もはやレイスですら無い何かになりつつあるのだ。
『それじゃあ仕方ないデスねぇ……君が僕を騙るなら……』
ぞるりと青白が伸び、イェニスターに似た細剣が手に握られた。剣をひゅうと振るって騎士礼が如く掲げた彼の顔は愉悦に彩られ、とても嬉しそうに歪んでいた。
『僕が”
「っ?!」
はっきりした言葉とともに飛来する打ち下ろしは鋭く、構えていたからこそ何とか防ぐことが出来た。だが次は? 大ぶりの一撃は重く激しく、防戦一方の彼女はジリジリと後退を余儀なくされる。
青は随分余裕に押し込むが、彼女は頭痛に苛まれギリギリの綱渡りを余儀なくされている。
「――っなら!」
がちんと弾かれた勢いで大きく交代し、同時に略式詠唱による〈ウォラーレ・シーカー〉を使う。随分慣れた形は5つのナイフ状だ。
突き、払い、斬り下ろし、斬り上げ、袈裟斬り。5種同時の斬撃が青を襲うが……、
「ハーブ・フローラ・ティンダーはそんな小細工する必要が無いんデスよ」
鎧袖一触。神速の一刀が全ての刃を応対し弾き飛ばした。更に弾いた刃が背後から迫るも、目線を合わせることすらせずいなしてみせる。
泰然と佇む姿は、かつて天性の剣士と呼ばれた存在にふさわしい。
「まだ小細工を続けるんデスか?」
「うるさい、です!」
もはや〈ウォラーレ・シーカー〉ですらない、アロー系の魔法と成り下がった魔法が飛来するも、青は全て切って捨てた。不可視のはずの〈ウィンドブレード〉ですらかき消されている。
青は〈スパーダ〉さえ使っていないのにだ。
ただ烈帛の気合を込めた一刀が、魔法のあらをついてバラバラに引き裂いているのである。剣を志し、極めたる者が至る境地、異常とも言える剣の冴えだ。
生前でさえできなかった業は、実体を持ちながら重さを持たないがゆえに可能となった神剣技である。
「弱いなぁ、本当に弱い。
「うる、さい! うるさいうるさいうるさいうるさい!!」
思い出してはならないのに、しかし心は認めざるをえない。この強さ、剣戟、全てまごうことなき
「ねぇ、君は一体何者なんデス?」
「ボクは!」
前進する青は彼女の全てを蹴散らし近づいていく。
「「ハーブ・フローラ・ティンダー」は僕デスよ。だって君はこんなにも弱々しいのだから」
「ッ――」
「
ついに青の剣の切っ先が喉元へと至る。動けぬ彼女の首に反対の手がぬるりと伸びて、彼女の首をぎしりと締め上げた。
「殺してあげます。そしたらボクは僕になり丸く収まりまスね。だから早く諦めてください」
「う゛、ぐぇ……」
首に手をかけるきつく締まりはじめる。もがいても外れない手は万力のように締め上げ、息が出来ずに苦しくてたまらない。
だがそれで良いのではないか?
眼の前に居るのは紛うことなき『ハーブ・フローラ・ティンダー』であり、彼女はハーブになることを望んでいたのだ。なら、よりふさわしい青こそがそうなるべきではないか。
彼女の脳裏によぎった疑問は、そのまま走馬灯のように過去を映し出す。
小さい頃。引かれる手。頼もしい背中。
撫でてくれた硬くて、温かい指。
イタズラして怒られた日。
ちょっと困らせてやろうとかんがえて。
すこしかくれんぼするつもりだった。
でもわるいおとながおいかけてきて。
つかまってなきだしそうで。
でもこわくてふるえるだけで。
たすけにきてくれたのはだれだ?
たよれるせなかは誰だ?
傷だらけで声を張るのは誰だ?
最後、倒れそうな背中を追ったのは?
混乱する己を、最後まで気遣ってくれたのは?
赤い手が冷たくなって、それでも撫でてくれた彼は――。
最後になんと言ったのか。
彼女が目の前の歪む顔を見る。愉悦に歪む顔はどこか泣き出しそうで、卑屈に揺れる瞳はしかしまっすぐ彼女を見ていて、口元が辛そうに震えているのが今なら良く分かる。
ああ、もはや認めざるをえない。彼は失われた兄なのだと。
だから彼女は彼の祈りを、今際の願いを無碍にすることは、絶対にできない。
「ぐっ……」
彼女の手にある細剣が青をするりと貫いた。奇しくもそこはかつて彼女が刺してしまった場所と同じ心臓であり、
致命の一撃たるそれに、
「よくできました。えらいよメディエ……』
優しく頭をなでて消えていく彼は、額にそっとキスをした。
それは祝福であり呪い。
それは願望であり祝い。
『生きて……』
だがそれでも、故にこそ……行く末に幸いたれという想いは、ようやくメディエという少女に伝わった。
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