04-07-09:事態の結末について(唖然とする魔銀達の図)
結局ステラとシェルタが場に残り、シオンが急いで合図のある場へと戻る。
方角がわかっていればすぐにたどり着くし、気配を隠さず走っていれば『ナイト・リリイ』の斥候役がシオンを見つけてくれた。
「どうされたのですか? パーティーの方は? あの魔物は……」
「捕獲したので待機してます」
「はい?」
首を傾げる少年の顔に、シオンは深く納得しつつ頷いた。とにかく陣地へと案内してもらい、事情に訝しむ一行を返す刀で案内する。
帰り道はシオンの腕に巻かれたステラの
たどり着いた先で一行が目にしたのは簀巻きにされたヒュージ・エダルベアである。蔦の眉と化したクマは現在高さ4メートルはある楕円形……巨人のラグビーボールと言った所か。
脅威と思われた相手が、喧嘩した悪漢が如き有様になっていれば唖然ともなろう。
玉の上で仁王立ちするのは、『美味しい野菜が採れました』とばかりに笑うステラである。隣に見慣れぬ
「あ、生きてるがもう動かれんぞ」
ボールめいた魔物に手をやるエアは呆れつつ検分し、
「確かに『足止め』は十分のようね」
と呟いた。ステラが渾身のドヤ顔をシオンにおくるが、ニコッと笑うと途端目をそらして下手な口笛をふいた。
「とんでもない魔法だね……これも貴女が?」
ここで天狗になるとシオンにシメられるので、彼女は慎ましく微笑むのみだ。ディセオはステラに好意的だが、流し目の真意が正しくステラに通じるわけもない。
『ギアード・コーヴ』のメンバーの視線がステラに刺さり、彼女もまたわけがわからず首を傾げる。エアは滑稽な茶番をニヤニヤと眺めているようだ。
「ところで、コイツどうする?」
「どうするって、トドメを刺せばいいじゃないの」
「いや、我々『シュテルネン・リヒト』が仰せつかったのは『足止め』だ。討滅じゃない」
いや今更『足止め』も無いだろうとシオンに目線が向くが、彼も『足止めで』と主張する。確かに今更だが、しかし之以上目立つのも望むところではないのだ。
ギルドとしては貴重なサンプルになるため、持ち帰りを推奨するだろうが……こうも大きいといかんともし難い。
となると『ナイト・リリイ』と『ギアード・コーヴ』どちらが行うかとなるのだが……。
「私たちはいらないわ。弱者を甚振るのは趣味じゃないもの」
「へぇ、君らしくないな? そういうのが好きだと思っていたけれど」
「ちょっとディセオ、貴方勘違いしてない? アタシは強い子が好きなの」
「そういうことにしておこうか」
手をひらひらとやるディセオが簀巻きに手をかざすと――はめられたグローブは宝珠付きの補助具のようだ――眼窩に〈ウォーターランス〉が突き刺さる。
ビクン……と揺れる隙間もないが、ヒュージ・エダルベアの目から光は失われた。
ステラの目からも
ブチブチと蔦をちぎるステラに、シオンがため息を付いて抜剣し、繭をサクサク切り裂いていく。やがて胸元から魔石を取り出し、それをディセオへと渡した。
「……本当にいいのかい?」
「どの道ギルド預かりになるでしょう?」
「そりゃそうだけど……ところで彼女は?」
「もうひとつ探しものですね」
振り向けばステラがぐっちゃぐっちゃと見な音がして、クマの腹を漁っているのが分かる。彼女は変異したと思わしき『何か』を探しているのだ。
そして『何か』を目にしたステラは、それが3日前に用意されたものだと確信した。
「フゥ、変異の原因はこれだな」
穴からステラが這い出てきた。彼女の手には木の枝で作った菜箸があり、その先に宝石がいくつも散りばめられた首輪が2つぶら下がっている。
「宝石はすべて魔石だ。魔法阻害に隷属と、強力な魔道具だなー」
「なんだって?」
顔を顰めて手を伸ばすディセオに、ステラが手で制する。
「これはこっちで預かりたいのだが?」
「……一体なぜ? 明らかに危ないだろう」
「だからこそだね。こいつは我々が抱える面倒に根ざしたものだし、領主が必要としているものだ。
そっちが預かってもいいけど……疑われても小生知らんよ?」
「それは……様子を見たほうが良さそうだね」
「ま、価値あるものなのは確かだ。グイン氏に報告すれば報酬に色を付けてくれると思うよ」
言いつつ鞄からボロ布を取り出し包んでしまい込む。手早くお湯玉を生み出し手を洗うと、さっとハンカチで拭った。
「クマの残りはどうする? 放置するにももったいないと思うけど」
裂けた皮は使い物にならないが、しかし大物となれば調査する意味はあるだろう。
「……獣避けを張って目印を立てようか」
『ギアード・コーヴ』の面々が最終的に始末して、一団は森を後にした。
◇◇◇
ギルドへ戻ってきた時間は、丁度じきに日が落ちる頃合いだ。
報告する際、受付のカウンターに見かけたゼーフントはひどくこちらを睨んでいる。その目は『何やらかした?!』と如実に語っており、付いてきたシェルタの存在を暗に咎めていると分かる。
本来街にいるはずが、なぜエダルベア討伐の一向に混ざってるのか。全く理解が及ばない。
非常に気まずいので見なかったことにして、一行は会議室でサブマスター・グインへと詳細を報告した。
この時捕獲についてディセオがステラの戦果をしきりに主張したが、2人はあくまで『足止めをした』と譲らない。
結果として特に功績としては認められなかった……代わりに魔道具は正式にこちらの預かりとなった。
証拠品としてサビオへ連携することを暗に示唆した結果である。
報酬を受け取ったあとは解散である。シオンはエアから、ステラはディセオから打ち上げを誘われたが、先にやるべきことがあると辞退した。
領主館に戻れば真っ先にサビオの部屋に通されて、笑顔で青筋を浮かべる彼にシェルタは滾々と諭された。
意見を全て封殺する様はシオンがキレたときを彷彿とさせ、ステラは戦いて身を震わせる。
なお停止を振り切って抜け出した理由は『危険を知らされたから』だそうだ。
「それは誰にきいたのかな?」
「メイドの1人ですけど……最近雇った者ではないのです?」
「いいや、ここ半年で新しく雇った者は居ないよ」
「えっ……?」
シェルタがさっと青ざめる。だが黒幕が件の叔父・アルビオだとすれば、容易く侵入を許すのも納得である。
密かに手渡した首飾りにサビオの目がキラリと光り、徹底追求する構えを見せた。
結果始末がつくまで『シュテルネン・リヒト』としての活動はお預けとなったので、魔法の練習だけすることを言い渡してこの日は別れた。
領主館を後にすれば、とっぷり日も暮れて酒場くらいしか開いているところもない。この時間に食事を求めるなら、酒のアテになるのがウェルスの街である。
なら引っ掛けるのもありか……誘おうとしたステラであるが、少し強引に手を引くシオンに引っ張られて行く。
(な、なんや? ちょ、ちょっとシオン君が益荒男……)
一直線に薄明かりが照らす『幸せの長尻尾亭』の一室に戻ってきた。もちろん2人きりであり、邪魔する者のない部屋でステラはシオンに迫られている。
「あっ、あのっ。し、しおんくん……?」
力なく潤むステラの目はシオンを見上げ、
「さあ、何をしたか吐いてもらいましょう」
地獄の笑み(
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