面白ければなんて嘘 「ワールドオブザーバー」あとがき

 よく「一次を通らない作品には通らないだけの理由がある」と聞きますね。


 それが嘘だという事は知っています。まあ理由はあるんでしょうけれど作品の問題ではない。


・正しい意見が通る

・仕事をしていれば評価される

・面白ければ読まれる


 全部ウソです。


 過去の体験ですが、


「鍛えてないからダメだ」

「弱いからダメだ」

「ちゃんと鍛えているから頼りになる」

「見習いな」


 まあ別に人の趣味をどうこう言うつもりはないですけどね。

 体鍛えて強くなったと思うのは自由でしょう。それを持てはやすのをどうこう言うつもりはありません。


 しかし仕事にまでその空気感を持ち込まれてはこちらも看過できない。


 彼らの間では仕事を落としても「いいよいいよ」と問題にならず。

 僕に「次に遅れたらこっちにも考えがある」いや僕は遅れた事ないのだけれど?


 ゲームは完成するも色々と届いていない所もある。

 一人で作っているわけではないので、実作業者が出来ないのであれば仕方ない。

 これがチーム全体のスキルで、その最大なのだから、と納得していたらそうなったのは僕のせいだと。


 その事を言及しても全く言葉が通じない。

 僕が一番の若輩者で年下だから注意ではない。叱る権限はない。


 こちらも良いゲームを世に送り出そうと期待に胸を膨らませている身。

 クソゲーを世に送り出してその責任を追わされてもヘラヘラとクソゲー作り続けるような奴は死んだらいいと思っているので、

 もし僕がそういう奴だと言うのなら遠慮なく殺してくれて構わない。


 ただ、違っていたら君たちが死ぬよ。


 結果その時は本当に相手を殺しかけたわけですが、ならば、

「あ、こいつの方が強いんだ」

 となるのかと言ったらそんな事はない。


「今日は調子が悪かった」

「前はもっと~だった」

 あの時は……、どの時は……、と過去の武勇伝を語り始め。


 いつなんどきも。

 武道家は常日頃から臨戦態勢。負けた言い訳などあり得ない。

 敗北は即、死を意味する。


 を身上とする自分からすれば強さに対する考え方が根本的に違う。


 彼らは寄り集まって自分達の常識で周りを動かせる力を作るのが「強さ」だった。


 弱いと思って舐めてリンチにしようとした相手に、返り討ちに合って殺されかけるなどという「次の日どの面下げて町を歩ける?」というような恥を晒しても、みんな一斉にそれを忘れる事が出来るから強い。

 徒党を組んでいれば、その中で弱いという事実を揉み消せるから結果的に強い。


 なら初めからそう言ってくれていれば、こちらも間違って大ケガさせる事もなかった。

 次も同じ手加減が出来るとは限らない。

 別に隠れて鍛えてたわけでも強いのを隠してたわけでもない。実際彼らが舐めるだけの体格と見た目に合った力量。ただ「怒り」「強さ」「殺す」という言葉の概念が異なっていただけ。

 まさか自分が生きて帰る事を前提に「殺すぞ」と向かって来る奴がいるなんて知らなかった。

 てっきりこっちの怒りと同じだけの怒りをぶつけて相殺してくれるものと思っていた(当たり前ですが彼らの怒りが上回るとは露程も思ってませんので)。

 実際には怒ってもいなければ殺す気もない。

 徒党も強さも全部ウソ。スカスカ。まるで紙くずを殴ったみたいだった。

 当人は辞めていきましたが(辞める事はその前から決まっていた)、それから二十数年が経ち、もしあの後くも膜下出血で死んでても時効なのでこうして紹介、「ワールドオブザーバー」の公開が出来るようになったのですが、

 人生の中で本当に恐ろしい体験でした。


 五分ごぶ以上の確率で相手は死んで、僕は今ここにこうしてはいないかもしれない。

 実際特別な事ではなく、失敗してニュースになる人達はいるわけで。僕もその中に入っていたのかと思うと恐ろしくて仕方がない。

 僕は全くの無傷だったので正当防衛はまず無理で。

 生きてたからよかったようなものの、死んでたらいつものように「普段から酒飲んで暴れる奴で」というのが打ち合わせもなく徹底される事も十二分に考えられた。


 本来なら生きていてくれた相手に感謝、なのでしょうけれど。

 あの時彼の命を救ったのは僕が全身の靭帯に亀裂を入れてまでブレーキをかけたからであって、彼らは自分達の命を守る為の行動は何もしていない。

 彼らにしてみれば舐めた相手に反撃されてビビッて逃げたなどとあってはならないのだから、どんな卑怯な手を使ってでも僕の口を封じなければならないはず。

 さっきまで寄ってたかって殴る蹴るしてたものが、急にかわいそうになったわけでもあるまい。

 向かって行けば死ぬ。それが分かったからやられている仲間を救いに入ろうともしなかった。

 それなら一目散に逃げるなりすればいいのに、「自分達は負けてない」「自分達は弱くない」という事実を作るのに一生懸命になる。

 おかげで暴力事件になる事もなかったのですけれど。


  これは「ワールドオブザーバー」では取り上げていないのですが、

  いわゆる「戦闘」が始まる前、リミッター外れて意識が飛びそうになるのを必死で押さえていたので100円ライター握り潰してたんですね。

  その後武勇伝を語り合っている時に破片見つけて「わ。ライター潰れてる! ダメじゃんこんな事しちゃ」「すまんっす。つい。悪い」と自分達がやった事に。

  謝ってる本人は自分がやってない事は分かってるわけで、自分じゃなければじゃ誰だ? というわけです。

  そこ訂正しなきゃいけないのかな? 訂正したら何か変わるのか? ともう乾いた笑いしか出て来ない。


 僕の目には彼らが壊れてしまったようにしか見えなかったのですが、

 リアルに死に直面していても自分達が間違っているとは認めない。

 ただ同じ事は二度としてこなくなった。

 分かっているのに認めない。

 いい大人がこんなもの。それが現実です。

 そんな連中が、その数年後には人を雇い入れ、仕事を評価し、企画を見る立場になっているわけですからね。何か変わっているようには全く見えませんでした。

 これはたまたま「どつきあい」だったから白黒はっきりしただけで、仕事でも全く同じ事が起きていたはずです。


 こういうのが強い、彼が強い、そういう環境を作り上げる。でも実際殴り合わなければ証明されない。

 こういうのが面白い、これが通る、そういう環境を作り上げる。でも立証する手段が無いから証明されない。



 その『真実』を早い段階で見ているので、世の中の仕組みが見える(と思ってるだけかもしれませんが)。


 面白ければ通る。

 そんなの見た事ありません。

 面白くないと落とす者に、面白い物見せても通りません。

 上記の人達に「強さ」が分からなかったように「面白さ」が分かってないですから。


 面白い物が通って売れたら、それはたまたま見せた人が分かる人で、世間もそうだったというだけの事です。

 何度かトライして通ったなら別の理由で通っただけ。


 実際作品と言うものはどんな物でも、それを面白いと言ってくれる市場はあるものです。

 採用しなかったのなら、それは「当人にそれを売り出すだけの力量と自信が無かった」というだけの事です。

 または「コイツの作品通してやる事で自分に得が感じられない」かです。

 そこを面白さにすり替えるからおかしな事になる。


 初めから言っといてくれればこちらも間違って投稿したり見せたりする事もなかった。


「これは面白いが、これを売り出せる市場を持っていない」「売り出せる力が自分にはない」

 と言える人はすばらしいと思います。

 これは見る側が悪いと言っているわけではなく、元来「面白さ」と言うのはそういうもので、決まった定義がないものです。

 時代、国、年齢層、それだけでも既に異なる。その中に個人差がある。


「一次を通らない作品には通らないだけの理由がある」

 なら一次で落ちたものを大手に送ったら最終選考まで残ったのはどういう事か?

 と問うと沈黙してしまう。

 最終選考まで残った方が奇跡なのかもしれませんが、どちらかが「なってない」のは紛れもない事実ですからね。

 レーベルによって違う?

 応募要項にどんなものでもOKと書いてます。

 どこかに嘘があるんです。



 という経験から、僕の思想と言うか生き様を題材にしたのがこの「ワールドオブザーバー」。

 これにリアリティがないと言われたら僕の人生、存在そのものを否定されているわけですし、

 面白くないと言われたら、九里方 兼人という人間が面白くないのでしょう。他の何読んでも同じだと思います。

 もっとも僕の人生に軍隊やテロリスト、美少女は出てきませんでしたけどね。

 いやテロリストは出て来たか。

 サイバーテロというか、掲示板を不法占拠する者達とはやりあいましたね。


 なのでエンターテイメント的に脚色してあるものの、冒頭部分はほぼそのまんまなシチュエーション。

 物語では高校が舞台ですが、世代はほとんど変わりませんでしたし、学生時代も似たような事はあり、同じ事したら同じ結果だったでしょう。

 劇中で躍斗は空間を歪ませて時間を遅らせてますが、当時の僕にそんな力はないので実際にはアドレナリンエフェクト。

 思考は早くならないので、こうすれば相手は死んでしまうとか、殺したら殺人だとか、人としての意識が働くよりも早い速度で体は動いている。

 あの時に空間を歪ませる事が出来ていればもっと軽い怪我で済ませられたのですけれど、というのは余談。


 ともあれ物語には加害者がいて被害者がいる。

 加害する側が「運命」であるとか形のないものになる事があるだけで、要するにテーゼとアンチテーゼ。

 なので冒頭のモデルとなる加(被?)害者が、これを見つけて読んでも面白くもなんともないわけですよ。自分達の恥をさらされているわけですから。

 しかし僕と同じような思想を持ち、同じ目に遭っている人も必ずいるはずなんですね。

 未だ耐え続けている人もいるかもしれません。

 少なくともそういう人たちには共感をしてもらえる、スッキリサッパリしてもらえると思うからリリースできるわけです。


 チートものに人気があるのも、チートしたい願望があるから成立しているだけなんですね。

 なんでもできる人が読んでも何が面白いのかサッパリ分からないわけですよ。


 確実に言える事は、風評被害に乗っかって、ある事ない事拡散し、結果人が死ぬ事になっても平然と生きていける人間がこれを読んでも「なんじゃそりゃ」と思うだけでしょう。

 (と書いておけば読者が増えるだろうか)



 自分達のコロニーを形成し、その中で星を高め合う事は何も間違っていませんし、とても良い事だと思います。

 否定もしませんし、異議も唱えません。

 別に趣旨に反しているわけでもありませんし。

 しかしそれを「面白い」ものだと掲げられると、他の人達とニアミスする事もあるんですね。

 「星が付くのは面白いからだ」とされるとそれはイコール「星が付かないのは面白くない」と同義になってしまいます。

 実際には「そこまでは言ってない」つもりでもよく衝突する人達を見かけます。

 「星の少ない人に言われたくない」というのも見聞きしますね。

 ならそういう人達に「本業で書いている物は数十万本売れていて、それは面白いと言われているのですが」と明かしても、

 「あ、この人の方が凄かったんだ」とは絶対になりません。

 命掛かっててもならないのに、命掛かってないものになる道理が無い。もちろん個人差はあるでしょうし、別に彼らが何か間違っているのでもない。


 そのアプローチには根本的な間違いがある。

 自分の作品を面白いと思ってくれる人達に向けてリリースする事もある意味コロニーを形成しています。

 相互であるかないかは大きな違いと考えてますけどね。

 要は根本的には変わらない。

 お互いにそれに対してとやかく言うのが間違っている。

 「面白い」の定義が違うんです。そこを合わせる先に解決は無い。


 では僕の考える面白い物の定義は何か? と問われれば「いつ見ても面白い」ものでしょうか。

 ブームが去れば価値がなくなるものは面白いのではなく「ブームに乗っている」だけのものです。

 もちろんそれが商品として成り立たないわけではない。

 消耗品だって商品です。

 しかしモナリザの絵とティッシュペーパーどっちの方が価値があるのかと問われても……。

 どっちも紙には違いない。

 モナリザの歴史的価値を軽んじるつもりはないが、今世間にどちらの方が必要とされているのか? と言われても何か色々と前提がおかしくない? としか言いようがない。

 しかし誰が何と言おうとモナリザの価値は500年間変わらない。


 なので、僕は僕の信じる物を作り続けるしか能がないのですが、

 それがあなたにとっても面白い物であるなら幸いです。


「ワールドオブザーバー」

 結局何の話なのかと問われれば、

『真実を解き明かした先には孤独しか待っていない』

 それが幸せなのか不幸なのか、それは分かりませんが。

 世の中は曖昧で混沌として、真実から目を背ける方が楽に生きて行けて、多くの人間はそうしている。

 しかし自分を変えてまで世の中に溶け込む事に疑問を感じる者もいる。そんな人間は常に対等の物を探している。

 未だ足掻き続け、これからも足掻き続ける。


 同じように僕自身、これに興味を抱いてくれる人を探し続けます。


 同じように悩んでいる人の指針になったり、支えになったりするのなら、そんな嬉しい事はありません。

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