うさぎ課

よろしんく

序章

あれは私が小学生の頃だっただろうか。老朽化した校舎が改築されることになった。そして改築工事の関係でその校舎付属の小屋で飼っていたうさぎを今後も飼い続けることが困難になったということを、月一の全校集会で聞かされたのを覚えている。その後のホームルームで、うさぎを誰か飼える人はいないかという先生の問いかけがあり、誰も手を挙げなかったことも覚えている。

私は生物委員だったこともあり飼いたいと親に頼むも、住んでいるマンションがペット禁止という理由から諦めさせられた。

それから数ヵ月後。飼い手のいないうさぎは、いつの間にかいなくなっていて、私は貰ってくれる人が見つかったんだと嬉々しながら職員室に向かい、そこで処分されたという現実を知った。

知ったその夜、私は涙ながら眠りに落ちた。そして不思議な夢を見た。


それは、うさぎの裁判だった。

裁判官、被告人、係官、そして傍聴席にいる人々のその全てが多種多様なうさぎで構成されていた。そんな中で私だけが人間の姿をしているのにも関わらず、誰も驚いた様子はなく、裁判は進んでいく。 裁判の内容については、もう小学校の頃の話でもあるし夢の話でもあるのでハッキリとした記憶はないが、確かこんな会話を聞いた。


「被告人は、うさぎ法で禁止されている野菜をこっそり食べていた。認めるかね」

「み、認めます」

「被告人には、うさぎから人間となり、我々うさぎの面倒を見るという罰を与える」

「待って下さい、我々の面倒を見るのは人間の仕事ですよ」

「今日、罪なきうさぎ達が処分された。彼らの面倒を見ることを人間は放棄したのだ。無論、我々うさぎが人間に依存していたということは反省すべきところだ。今後は我々自身で我々うさぎの面倒を見るべきだ。そして、うさぎ法に則り、被告人には恩赦を受ける条件を提示する。恩赦を受け、人間になる呪いを解きうさぎに戻りたいのであれば、人間を育てるがよい」

「私達うさぎが、人間を育てるのですか」

「そうだ。うさぎのことを真剣に考え、面倒を見る。そんな人間を育てることが出来れば、お前達を元のうさぎの姿に戻すことを約束しよう」


そんな話だったのを覚えている。そしてそのときは子供心に私はうさぎが人間になった存在なのだと思い込んでいた。それはおそらく、うさぎを飼えない寂しさを自身がうさぎと思うことで代替していたからだろう。


時が経つのは本当に早くて。


うさぎ裁判の夢を見た頃から二十年近くの時が過ぎ、二十五歳の誕生日を先週に終えた今朝。何か懐かしい夢を見た気がするがもう思い出せない。そんなまどろみの中、窓を開ける。Tシャツ・短パンという格好には少し肌寒い風が部屋に入ってくる。私はすぐに窓を閉める。そして再び布団の中に入り、もう一度夢の世界へと旅立つのであった。

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