第16話 ドローン・ウォーズ
ゼーランディア城には不気味なほど動きがない。ときどき傭兵たちが城壁に姿を現すが、諸葛銃の狙撃を恐れてすぐにいなくなってしまう。
籠城なのだが、籠城とは援軍が期待できてこそのものである。
海上と陸上を完璧に封鎖された以上、籠城も無意味がなはずなのだ。
オランダ人たちが城を枕に討ち死にの覚悟をしているとは考えにくい。
「オランダ人たちは何かを待っていますね」
陳博士が言った。
外部との連絡が取れない以上、いったい何を待つというのだ。無線による連絡が無い時代だ、この封鎖の中で彼らは物理的にも情報的にも孤立しているはずだ。
「ドローンがあるなり。」
ドローンか。現代人たちが持ち込んだドローンが城内と連絡を取っていたとすれば、オランダ人たちの落ち着きようも理解できる。ジョン・メイヤーならそれくらいのことは仕掛けてくるかもしれない。
私たちは人民解放軍に城内と接触するドローンの哨戒を指示した。
いた! ゼーランディア城に接近する小型のドローンを飛燕が確認した。飛燕は未確認ドローンをバルカン砲で攻撃したが、目標があまりにも小さい。飛燕はこういう細かい作業は苦手なのだ。
木場三尉のギンヤンマが飛び立った。青い空にギンヤンマの航跡が輝き、未確認ドローンを撃墜した。
おそらく、これまでも未確認ドローンが何らかの情報を城内に伝えていたのだろう。
だから、オランダ人たちの望みの綱を断ち切ることができなかったのだ。
九鬼守隆は海上からの艦砲射撃で一気に攻め潰すことを主張している。
真田信繁はシラヤ族傭兵の救出に大義があるとして譲らない。
井伊直政も袁崇煥も、オランダ人たちの投降を待って苛立っている。ここまで完璧な包囲だ、そろそろ相手も限界に達しているはずだ。
当然のことながら、彼らはドローンのことを知らない。彼らの知識の及ぶべくもない未来の力が介在しているのだ。
そんなある日、海上封鎖に当たっていた第一艦隊の船一隻が、突然、爆発炎上した。
誰もが驚いた。帆船が突如、爆発炎上するなどありえない。
九鬼守隆が爆発した船の救助を命じる中、もう一隻の船が爆発した。
めらめらと炎を上げて船が沈んでいく。
「ミサイル攻撃なり!」
ジョン・メイヤーめ、十七世紀に近代兵器を持ち込んだというのか!
ゼーランディア城の城壁の上にオランダ人たちの姿が見えた。彼らは口々に神の名を唱えた。
「神よ、感謝します! あなたの放った矢は異教徒の船を沈めました!」
城壁の上は歓声で満ちた。
神が守ってくださる。彼らはそう信じたはずだ。
「あかねちゃん、行くのだ!」
「ダメです。敵ドローンは重戦闘タイプ。ギンヤンマでは歯が立ちません!」
飛燕五機が離陸した。一気に敵ドローンを囲んだまではよかったが、相手の旋回性能が飛燕を上回っているため撃墜することができない。
「シーガルもダメなりか?」
自衛隊のドローンは海外時空派兵任務において火器の装備が制限されているのだ。
「このままでは逃げられるなり!」
戸部典子が歯噛みしている。
「自衛隊ドローン部隊から入電、桧垣二尉です。」
李博士がメイン・モニターに桧垣二尉からの時空通信をつないだ。
自衛隊ドローン部隊のエンジニア、桧垣忠司二尉が敬礼している。並んで、相場剣介三尉も敬礼だ。
「相場三尉、シーガル改、行きまーす!」
シーガル「改」だと!
続いて、人民解放軍ドローン部隊の兵士が写った。
「飛燕改、行きまーす!」
日本語だった。人民解放軍にもオタクがいるのか?
純白のシーガル改を追うように、シルバー・グレーの飛燕改が急上昇していく。
何をやろうというのだ!
「ドッキング・フォーメーション!」
シーガル改の後部が変形していく。飛燕改の頭部も変形開始だ!
「ドッキング・ビーコン、同調!」
二機のドローンが接近していく。
「日中合体!」
ほんとに合体しやがった。
「空中換装、完了! シーガル・ファイター、GO!」
なにい、シーガル・ファイターだと!
「シーガルが武装したから、シーガル・ファイターなり。そんなの常識なり。」
そういうものなのか?
シーガル・ファイターが敵ドローンを追いつめていく。
つまりは、旋回性能では世界のドローン業界を圧倒するシーガルに、人民解放軍の重武装ドローンを合体させたわけだ。桧垣二尉がこんな時のために改造していたのだ。後で聞いた話だけど、人民解放軍の諸君も、この改造にノリノリだったそうだ。
操縦系統は自衛隊、武器の操作は人民解放軍。これで海外時空派兵法に抵触することはない。
よし、そんなら日本の左翼も文句は言えん! 行け! シーガル・ファイター!
シーガル・ファイターが敵ドローンを射程に捉えた。飛燕改のバルカンが火を噴く。
敵ドローンはあっという間にハチの巣だ!
「やったなりぃ! シーガル・ファイター、カッコいいなりぃ!」
しかし、わざわざ空中で合体しなくても、合体してから離陸させれば済むものを。
「そんなんじゃ、合体じゃ無いなり。そんなの常識なり。」
「空中換装は、自衛隊のロマンです!」
モニターの中の桧垣二尉が言った。
木場三尉も相場三尉も頷いている。
それどころか、上海ラボの連中までもが冷たい目で頷いているではないか。
私が間違っているのか?
私は自衛隊の諸君を誤解していた。
正直言ってあまり好感を持っていなかった。
一昔前の自衛隊のアイドルは、ヤンキーっぽいフォーク歌手だった。ハーモニカとギターで人生の何たるかを歌い上げるような、私の最も苦手なタイプである。
ところがどうだ、今の自衛隊のアイドルはこいつだ。
このにまにま女だ!
要するに自衛隊にもヤンキーからオタクへのパラダイム・シフトが起こったということだ。
「自営隊の半数はオタクなり。そんなの常識なり!」
真田信繁が空で起こった小さな爆発を目にした。
信繁は何らかの神仏の力が働いていることを察知したかのような顔をしている。
「安心するのだ信繁君! 空の守りは、自衛隊と人民解放軍が引き受けたなり!」
これは前哨戦に過ぎない。
ジョン・メイヤーは、さらに何かを仕掛けてくるだろう。
たたかえ、戦国武将! たたかえ、人民解放軍! たたかえ自衛隊!
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