ギルドのはずれの漢♂カフェ!~ガチムチ店主と美少女絶賛オトコーヒー~

瀬久島のゐ

1杯目・ガチムチ店主と看板娘(自称)


「これより、第5回絶対満足オトコーヒー会議を始めます」


少女は重々しくそう告げた。本人は重苦しい、違法企業の重役会議のような雰囲気をだしたいようだが、ふんわりとした優しい紅茶色の髪やどこかあどけない幼さを残した整った顔立ちが奇妙にゆがんでいるのはかえって微笑ましい雰囲気にさえなっているのだが、当の本人は真面目そのものである。


「んで、本日の議題はなんなんだい?」


少女とバーカウンター越しに対面するこの店のマスターが煙草をふかしつつ、少女に尋ねる。


「ずばり!どうやったらホモヤマさんが女の人に興味を持ってくれるかです。」

「さてと、今日はもう店じまいにでもするか、お疲れさんでした」

「まだ、お昼の鐘もなってないよ!」


腰に巻いてたエプロンを脱ぎ捨てて、二階にある自室に帰ろうとするこの店のマスター「フォーモル・ヤーマン・ゼクス」通称ホモヤマをカウンター越しに捕まえる少女。しぶしぶとエプロンを直し元の位置にもどりつつホモヤマは

「アルエお嬢ちゃんがくだらないことをいうから、やる気が萎えちまった」

「そんなー!私のせいにしないでよ!責任転嫁だよ」

「何が悲しくて、こんなお天道様がギンギンに照っている心地よい日に、女の事なんか考えなきゃなんないの!」

「ホモヤマさんがせっかく来てくれたお客さんが女の人だからって無下に扱うからでしょ!」

アルエと呼ばれた少女「アルエ・ニルヴァイン」は勢いよくホモヤマに身を乗り出しつつ反論する。


「ちゃんと、ミルクセーキは出しただろ?」

「お客さんが頼んだのコーヒーだったじゃん!お客さんびっくりしてたじゃん!」

「女、子供に出すコーヒーはこの店には置いてない」

「その考えをどうにかしようよ!」

「でも、ちゃっかりのんでたじゃないの」

「そりゃ、のむよ!ホモヤマさんみたいな体が大きくて、メリハリのある顔の人に睨まれたら誰だって飲むよ!」

「さっさとかえってくれてもよかったのにな」

「お客さんだから!こんな人通りのすくない通りにある、さびれた店にわざわざ足を運んでくれたお客さんだよ!」

「美味しいとか言いながら飲んでた割には、金も払わず帰ったじゃないの」

「とらなかったの!注文したものと違うものが来たのに強制的に飲まされたから、お代はとらなかったの!」

「まぁ、いいさ、お代はアルエお嬢ちゃんの給料から引いておくからな」

「私、ここでお給料もらったことないよ!!」

「それは違法経営だな。そんな店がいまだにあるなんて、許せないじゃないの」

「ここホモヤマさんのお店だから!!」

「はっはっは♂」

「ホモヤマさーん!!」

一通りのやり取りが一段落し満足(?)したのか、ホモヤマはバーカウンターの奥にあるキッチンへと向かっていった。

「んもうっ、いつもこうなんだから。」

アルエはバーカウンターに背を預け、ぼんやりと店内を見回す。

二人のやり取りは、静かなカフェで行われるものとしては騒音の部類に属するのだが、それを咎めるものは誰一人としてなく、古くなった木のテーブルや椅子だけが、彼らのやり取りを聞いていたのだった。


「嘆いてもしょうがない!!お掃除でもしよう!」


袖をまくり自分自身に新たな気合を入れ、アルエは利用者の少ないカフェテーブルとイスを念入りに吹き始めるのであった。



ホモヤマがキッチンからランチを運んでくるころには、半分ほどのテーブルがアルエの手によって綺麗になっていた。


「お嬢ちゃん、パンかライスどっちがいいかい」

「パンでお願いします」

「あいよ、そいじゃあ、クローズの看板出してくれ」

「はーい♪」


本来なら、この時間から忙しくなるのがカフェというものなのだが生憎とカフェ「オトコーヒー♂」には無縁の事柄であった。


ホモヤマはカウンター席にアルエの分のランチを用意する。今日のランチは特濃ミルクたっぷりのチキンクリーム煮込みである。木製のボウルにそれを盛り付け、アルエの注文通りバゲットを添える。


「わー♪今日も美味しそうだね」


戻ってきたアルエが目を星にして感想を漏らし、席に着く。

一方で自分のランチを持ったホモヤマはアルエの二つ隣のカウンター席に腰かける。


「ほめても、客はこねーぞ」

「そこはホモヤマさんが頑張ろうよ」

「いただきます。」

「あ、話そらした。」

「いただかないなら、俺が食っちまうぞ?」

「いります、頂きます」


アルエは慌てて手を合わせ、クリーム煮に口にする。

瞬間、彼女の顔がほんにゃりと緩むのであった。


「んんー!!ホモヤマさん!これすっごくおいしいよ!!」

「そりゃそうだ、イイ男が作った料理なんだからな!」

はっはっはと機嫌よくホモヤマが笑う。


「とろとろとした白いクリームが、美味しさと一緒にお口の中で広がって、飲み込んでもお口の中がしあわせだよぉ」

「厳選した特濃のミルクを贅沢に使ってるからな」

「ああもう幸せ、幸せミルククリームだね。ホモヤマさんの幸せミルククリームでお腹がパンパンになっちゃうよぉ」

「その表現は嫌いじゃないが、お嬢ちゃんみたいな娘が使うにはちょいとばかし下品だな。」

「?」


ホモヤマの言ってる意味がよくわからなかったが、その後もアルエはとても幸せそうに、次から次へとランチを口に運ぶ、一口一口に喜びをあふれさせあっという間にボウルは空になった。

「ああ、もうなくなっちゃった。」

「がっつきすぎだぜ?女ならもっと落ち着いて食ったほうがいいんじゃないかい?」

「だって、ホモヤマさんの幸せミルククリームとっても美味しいんだもん。」

「口元にクリームつけながらそんなこと口走るんじゃないの」

「あ、ホントだ」


アルエは設置してあった紙ナフキンで口元をぬぐった後、ごちそうさまと手を合わせ、食器を片付けるためにカウンター奥のキッチンへ向かう。この店には二つのキッチンがあり、一つはカウンターの裏にあるコーヒーや簡単な軽食のためのキッチンと、今回のランチみたいな本格的な料理や、下げた食器を洗うための洗い場があるカウンター奥のバックキッチンである。


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