はっぴっぴ



駅ビルの中にある本屋で声かけられた。


「あの。よかったら少し喋りませんか?」

「喋りません〜〜」


って秒で切ったけど食い下がられて、

こんな地元のショボい所でナンパされるとかこみゆも大概可愛いな、と思いつつ

その人の顔見たらさ、まあなんとびっくり。カッコイイじゃん。こみゆはナンパに良い印象無いからビビった。


っていうのも前に声かけてきた人のはみ出てた鼻毛がこみゆのまつげ以上に上向きにカールしてたのが大きいんだけど、その人はナタリー・ポートマンに日本酒飲ませたみたいな顔の骨格してて、肌スベスベで、細マッチョって感じで、正直デッドボールだった。年は5.6個上かな?


でも所詮ナンパだし、と思って警戒して構えてたらさ。


「あの、僕ね、さっき買い物行ってきたんです」


って自分の袋から取り出したの。

何を取り出したと思う?


置き型コバエ獲り。





わかってる。


ここは、普通なら引くところ。


でも、こみゆは

「この場面でコバエ獲りを出すなんて、

この人どれだけ自分を飾らないんだ」

って思ってめちゃくちゃ笑ってしまった。

え!? コバエ獲り!? って。


その後ちょっと話しながら歩いた。


どうしてわたしに声かけてくれたんですか?って聞いたら、こみゆがビルに入ってきたときに遥か前方にいたらしくて、可愛い子がいるなって思った、って。見る目ある。


その後お店回ってたら最後に再びこみゆを見つけて、あっまだあの可愛い子いる、と思って勇気を出して声かけたらしい。

会社、ジム、家の繰り返しで生活が味気ないから寂しいって言ってて、ちょっと同情した。


そんでこのままご飯行きませんかって誘われた


け!! ど!!


ここで行ったらこみゆが軽い女みたいだし、帰ってオーディション課題の振付考えなきゃいけなかったから断った。

その代わり、また後日〜〜ってID交換した。


ここでこの行動のポイントを整理します。


・カッコ良くても所詮ナンパ、やって終わりの付き合いならいらない

・そこで連絡取るのが続くならそれでいいし、切れてしまうならそれでいい


っていうこみゆの計算。我ながら賢い。


しかし、さよならの時間ですねってときにこみゆのこと見て可愛い〜〜ってふにゃふにゃ笑ってたのは印象的でした。さよならって言った瞬間胸に飛び込みたいみたいな衝動に駆られたけど、さすがに我慢した。こういうのひさしぶりすぎる。近藤以来か。おいやめろ。………でも、近藤傷をえぐってもそんなに痛くない。うむ。あれ、近藤? 近衛? どっちだったっけ。どっちでもいいか。


で、帰ったらさっそくラインきてた。


「僕はこの空の本がお気に入りです」って画像付き。

いきなり本の話題かよと思いつつ

「わたしも空好きです」って返したら

「じゃあ今度この本プレゼントするね。就活がんばれ」って。そう、オーディションって言うのがなんかいやで、就活って言って説明したのだ。


こういうの、本当にひさしぶり。悪くない。非常に悪くないよ。


今回は普通のナンパとは違うって感じした。

そもそも道端で本気の一目惚れをしたとしても、声かけただけでナンパ扱いされちゃうこの世の中もちょっと難しいところあるよね。


つっても課題の方が最優先だし、

頭はオーディションのことでいっぱいだし、

恋愛の優先順位は今もドン底だし。


様子を見つつ、生活の糧になればいいかな。そんな程度に軽く考えておこう。るん。




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