覚醒変身リアン -覚醒する病-

伊藤正博(イトウマサヒロ)

エピソード00 ー夢の中の少年ー

 漆黒の闇に強風が吹き荒れる。

 ここがどこかもわからないくらいに暗く歪んだ場所。

 はっきりわかるのは日本の古城があることと、俺と少年が対峙していることだった。

 少年は赤い瞳をしていて、どこか神秘的な雰囲気を醸し出していた。服装は古代ローマ人を思わせるような格好だった。

「――フフフ。伊集院勝也いじゅういんしょうや、僕を倒さないと多くの人が悲しむよ?」

 不敵な笑みを浮かべるその少年に、俺は悲痛な声をあげた。

「やめろ、!」

 漆黒の闇の強風は吹きやみ、狼男の少年は不敵な笑みで、俺に微笑みかける。

 俺は鳥肌を立たせながら、尚もリオンの名を叫び続けた。


 ――リオン

 ――リオン

 ――リオン


 ――もう、こんなことはやめてくれ。人を殺さないでくれ。


 俺の叫びは少年には届かず、最後にもう一度リオンは不敵な笑みを俺に向けて、強風を起こして消え去っていく。


 俺は再度少年の名前を呼んだ。


 ――リオン――


 そこで目を覚ました俺は汗だくで、リオンと叫びながら起き上がった。カーテン越しから日差しが入ってきている。

「……。また同じ夢――高三になってから度々見ている。リオンて誰なんだよ。気持ち悪い」

 正直、俺はリオンなんて少年を一度も見たこともないし、噂すら聞いたことない。

 知っているとすれば、三年前にイタリア=ローマを襲撃した、リオンという怪物の集団くらいだった。


「勝也、いつまで寝ているの?」

 母さんの声が聞こえて時計を見ると九時を過ぎていた。

「やっべ、今日は友達と名古屋城に出かけるんだった」

 俺は慌ててベッドから立ちあがり自室を飛び出して、階段を下り風呂場へと駆け込んだ。

 汗を流してカジュアルな服とジーパンを穿き、風呂場から上がり食卓についた。

「うは、ハンバーガーとコーラーじゃん。朝からどうしたの母さん?」

「うふふ、今夜、イタリアからホームステイにくる姉妹たちのために、腕を振るおうかと思って欧米風にアレンジして作ってみたの。どう?」

 俺は一口ハンバーガーにかぶりつくと最高にうまかった。

「うまいよ。きっとホームステイにくる娘たちも喜ぶよ」

「ははは、そうだろう。パパが考案したんだ」

 そこに割って入ってきたのは新聞を読んでいた父さんだった。

「どんな娘たちなんだろう?」

「それは来てからのお楽しみだよ、ははは」

「勝也、時間は大丈夫?」

「あ、そうだ! もう行かなきゃな」


 俺は早々に食事を済ませ歯を磨き玄関を飛び出してバス停へと走った。バスに乗り地下鉄に乗り換えて、名古屋城へとやってきた。

 待ち合わせの公園についたらすでに友達が二人いた。

「おせーぞ、勝也」

「腹でも壊してふんばっていたのか?」

「ちげーよ!」

「ははは」

 その少年は突如目の前に現れた。なんの前触れもなく、だ。

 俺は、「ハッ!」として立ち止まった。

 周りの人たちはまるで時間が止まったみたいに、動かなくなっていた。

「この国でやっと見つけたよ。同種族を」

「同種族?」

 俺は恐怖より先に疑問がよぎった。その少年の瞳がブルーから赤に変わったとき恐怖が走った。


 ――夢の中の少年?


 そう心によぎった。

 その瞬間周りは動き始めて強風が吹き荒れたとき少年はいなくなっていた。

「痛い。なにこれ傷だらけだ」

 周りの人々はなにかに切りつけられたかのように肌から血を流していた。友達すらも顔や手足が流血していた。

「強風が吹いた途端に傷がついたんだ」

「かまいたちだよ。そういえばなんでお前だけ無傷なんだ?」

「え?」

 友達が言う通り俺には傷一つついてなかった。俺は遠くで少年が怪しく微笑んでいたのを見逃さなかったが、すぐに人ごみの中に消えて行った。


 人々は軽いパニック状態で警察も来る事態になった。しかし強風のせいとしてその場はしばらくしておさまりをみせた。

 俺たちは名古屋城周辺を散策し昼はファミレスで食事をとり、午後三時ごろにそれぞれ家路と帰っていった。


 帰宅して玄関を開けると金髪でショートカット、服装はキャミソールにハーフパンツの女性と、ブロンドのロングヘアーでキャミソールドレスを着た少女が、俺の両親と並んで出迎えてくれた。


「オーマイゴッド! この方がショーヤですか? 思ったよりナイスガイですね」

「……。初めまして。ホームステイにきたマリアーナ・ヘブンヌです。そして――」

「そして姉の、ジョアンナ・ヘブンヌでーす」

 流暢な日本語と丁寧なお辞儀でそう自己紹介してきたのは、ホームステイにきたイタリア出身の姉妹だった。

「あ、初めまして。伊集院勝也です。年は一八歳です」

「オーマイゴッド! 私より一個年下なのですね」

「あたしより二個上なのですね――お兄ちゃん」

 ジョアンナさんはグイグイ系の明るい性格で、マリアーナちゃんは控えめなおとなしい子だった。


「ショーヤ、こっちに来て話しましょう」

 やけになれなれしいジョアンナさんだったが美人だから許すことにした。もじもじしているマリアーナちゃんに、俺は優しく話しかける。

 話していくうちに俺たちはだんだんと打ち解けてきたころ、トランプゲームの神経衰弱をすることになった。

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