嘘つきミュージシャン

糸花

第1話

「どうして僕は、」

そんなことを心の中で呟きながら、今日も偉そうなハードケースとその中に入ったアコースティックギター共に電車に揺られている。

いつも通りこだわりのヘッドホンから音楽を流し、僕の中を音楽の世界で満たすと同時に、周りのいらない音を遮断する。

隣に座るおばさんの話し声なんて聴きたくない。

ここにはいらないものが多すぎるんだ。

今度はそんな歌でも歌おうかな。

そんなことをぼんやり考えていると、目の前のおじさんが電話を始めた。

話の内容は聞こえないが、その人の顔を見る限り急用ってわけでもなさそうだ。

話し声がうるさかったおばさんが、おじさんのことを迷惑そうに見ている。

おじさんの隣に座っている学生は、表情を変えずスマートフォンを触り続けている。

僕は音楽を聴いている。

あー、やっぱり人間は嫌いだ。

そう思った。同じ人間のくせに。

"もしも生まれ変われるとしたら、あなたは何になりたいですか?"

なんて質問が日常の中でも小説の中でもよく登場する。

鳥になりたい?

猫になりたい?

犬になりたい?

植物になりたい?

それとも異性になりたい?とか?

はたまた憧れの人?なんて答えもあるのかな。

欲深い人間にとって、これは得意な質問だろう。

いわゆるサービス問題というやつだ。

それに間違えることなんてありえない、だってどんな答えを出したところで全て正解なのだから。

もはや問題にもなっていない。ただの現実逃避。

だから僕が出した答えもきっと正解なのだろう。

いつか誰かに否定された僕の答え。

"もしも生まれ変われるなら何になりたい?"

僕は答える。

"僕はもう二度とこんな世界には生まれたくない"

こんな人間が今日もステージに立って、偉そうに"生きてほしい"と歌う。

その為に僕は電車に乗っている。

「どうして僕は、」

電車から降りたら僕じゃなくなっていたらいいのに。少しだけそう思った。

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嘘つきミュージシャン 糸花 @itoka_kotoba

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